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第二十三話

 気色悪い頭部を引きちぎった余波は凄まじく、砦の外へ俺とアンネさんは吹き飛ばされた。


 し、死ぬかと思った。

 咄嗟に大量の魔力を使って防御してよかったぁ……


 冷や汗をかきながら周りを見ると、なぜか俺とアンネさん以上にボロボロのチンピラーズがいた。


 え、なんで、みんなすでに満身創痍なの?


「はぁ……はぁ……どうなってるんだい? アタイがいない間に楽しんでたのかい? ……チッ、アーノルド! お前は気絶してるバカどもをとっとと避難させな」


 アーノルドは強く頷きをチンピラーズを一人一人引っ張って遠くに運んでいく。


「そこの野良犬はアタイらの手伝いをしな」


 野良犬?


 アンネさんが見ている方向を見る。そこには無駄に豪華な鎧を纏った騎士みたいな人がいた。


 お洒落な鎧ですね。

 って、え、誰?


 驚いて二度見すると、その騎士は無駄に凛々しいイケメンだった。


 む、無性に殴りたい。


「狂人アンネめ……お前いったい何をしでかしたか、わかっているのか? 亜人の首魁だけじゃなく、淵なる者の本体までも連れてきやがって」

 ――淵なる者?

『あぁ、聖教国……今は神聖国だったか? やつらが……淵人を呼ぶ時の名……だ』

 ――大丈夫か? グラム

『あ、あぁ……』


 そう言うグラムは苦しげだった。


「うるっさい、野良犬だね。いちいち聞いてくるんじゃないよ。見ればわかるだろう? 奴らのお出ましさ」


 アンネが呆れながらも震えながら騎士に答えた。

 少し距離が離れた場所で豚鬼族のガビリは苦悶の表情で赤黒い血を流している。


「ゴミが……いつ我に取り付いた?」


 ガビリは生首だけで転がっている淵人を睨みつける。


「リカイ、デキヌ、ゴミダ。ワレヲ、キリ、ハナス、トハ」


 淵人は聞き取りづらい声でガビリに返す。


 よくわからないけど、俺もう帰ってもいい?

 もうヘトヘトで嫌なんですが


『気を付けろ……相棒‼︎』


 砦から天に登っていたはずの禍々しい魔力が逆流するように、生首の淵人に降り注いた。まるで爆撃でも落ちたかのように周囲一体に黒い砂嵐が巻き起こる。

 咄嗟に片手で顔を覆う。すると、ガビリがいた場所から何度も爆音が鳴り響く。


 少しずつ収まると、ガビリが片腕を切り落とされ膝をついていた。


「せっかく余がお前たちの憎悪を晴らさせようとしたっていうのに――甚だ理解できぬ」


 そこには怖気が立つ存在が二本足で立っていた。

 二枚の黒い昆虫の羽を生やし、手にはおそらくガビリの片腕を切り落としただろう、血を吸って脈動する長い槍を携えている。


 な、なんか見覚えがある脈動の仕方ですね。


「くそがぁぁ! 本体が這い出てきやがった!」


 後方で騎士が叫んでいた。


『フ、フチビトォォォォ‼︎』


 それに呼応するかのようにグラムから激しい憎悪と憤怒の感情が溢れてくる。


 うぉぉ‼︎ 


 ――落ち着け! グラム!


 抑えようとしても流れ込んでくるそれを塞き止めることができずに犯される。

 それによって背中からミチミチと裂けるような音が鳴り響く。


『ガァァァァ‼︎』

「ガァァァァ‼︎」


 俺はグラムとともに絶叫をした。



 ◇



「亜人のガキまでも深淵に覗き込まれたぞ! 狂人アンネ!」

「アタイに聞くんじゃないよ! 野良犬!」

「二体を相手は面倒だぞ!」

「そんなこと百も承知だよ!」


 聖騎士アルトリートと狂人アンネはエインセルの変貌に驚愕する。


 エインセルの背中からは目を背けたくなるようないくつもの赤黒い腕が生えていた。それらは折り重なるようにして形を取ると歪な腕の翼になる。


 ……頭が痛い


「む? 新たな余らの誕生かと思ったが――なんだその姿」


 虫の姿をした淵人はエインセルの顔を覗き込み、腹に槍を突き刺す。その時、エインセルの左手に装着していた指輪が強く輝く。


「この忌々しい光――勇者か」


 エインセルの腹に刺さっていた槍はまるで高温に溶けるようにドロドロと黄金に変化していく。


「いや違う――どういうことだ?」


 黄金は汚染するかのように淵人の腕に食らいついた。淵人はすぐさま自身で汚染された腕を切り落とし距離を離す。


 ポトリと地面に切り落とされた腕と槍からいくつもの腕が出てくる。それらはまるで老若男女、大小様々な救いを求めるおぞましさがあった。エインセルのポッカリ開いた穴を塞ぐように腕達は入っていく。


 その時エインセルの脳裏に凄惨な記憶が走る。それは目の前で共を生きたまま拷問された憎しみ、それは両親が喰われた記憶、それは恋人が狂気に支配された呪い、それは民が殺され無様に啼泣する誰か。


 ……もはや苦しみはない。ただ無為があった


 アルトリートたちが警戒しているとエインセルは軽く剣を振り下す。それだけで周囲は燃え盛る黄金の世界と化していた。


「おいおい――なんだこれは。あれは、本当に……淵なる者なのか?」

「アタイが聞きたいよ、野良犬‼︎」


 淵人は憤怒の表情となって腕を再生させると再び槍を形成した。


「醜い――醜いな。死ね、ハイエルフもどき」


 淵人は槍を振りかぶったそぶりもなくエインセルの眼前に飛んでいくが、エインセルはそれ以上の速度で剣を横なぎに払う。槍は急速に黄金になり空の彼方に飛んで行った。


「どうなっている? 一度ならずも二度も」


 エインセルは虚な目で魔法を詠唱する。


《黄金よ、太陽を顕現せよ》


 上空に極大な黄金が生まれた。黄金が淵人に飛んでいく。


「醜い魔法だ」


 淵人は黒い涙を顔中から流す。


《深き力よ、覗き殺せ》


 小さな黒い球体が現れ黄金と衝突して共に消滅した。


「ぐぉらぁぁ‼︎」


 野太い声が淵人の後ろから聞こえてくる。それはいつのまにか背後に回って戦鎚を振り下ろしていたガビリだった。


「猪口才な」


 淵人は首を百八十度回転してガビリの戦鎚を片手で防ぐ。


《深き力よ、憎蟲となれ》


 魔法が追加され淵人の口から何十匹もの拳大の蛆が湧く。蛆はガビリに纏わり付くようにして、紫色の分泌液を吐き出し攻撃をする。


「ちっ。淵なる者はどいつもこいつも――身の毛がよだつ魔法を使いやがる」

「野良犬に同意したくないが、アタイもそう思うよ」


 アルトリートの言葉にアンネは同意しながら共に魔法を詠唱する。


《聖なる力よ、光を与え給え》

《狂える毒よ、蝕み苦しめ》


 それぞれの魔法はガビリに纏わりついた蛆に直撃する。まずアルトリートの魔法によって蛆の動きが鈍くなり、次にアンネの魔法で蝿は破裂した。


「助太刀感謝する」


 蛆に手こずっていたガビリは彼らに感謝をした。


「アタイは別に助けたつもりはないけどね。本当どんな耐性してるんだい?」

「豚鬼族は生まれながら毒に対して強いからな」


 アンネは嫌味を言ったつもりなのに、ガビリに平然と返され仏頂面になった。


「聖騎士の奴隷に、堕ちたエルフか――忌々しい」


 淵人が新たに魔法を唱えようと口を動したその時、エインセルが淵人の首を後ろから掴む。


「ぐぅぅぅ‼︎」


 エインセルの体からいくつもの腕が湧き出し、淵人にへばりつく。


「ゴミガァァ‼︎ 図に乗るなァァ‼︎」


 淵人は身体を黄金に汚染されながらも、大量の槍を生成して飛ばす。それに対しエインセルの背中から生えている歪な翼が身を守るように防御をした。


 歪な翼は槍に触れるたびに槍を黄金に溶かしていくが、淵人はそれ以上の速度と物量に物を言わせる。

 ついにエインセルは淵人の猛撃を防ぐことができなくなり、身体に何本もの槍が突き刺さる。


「ガッハァァ‼︎」


 それによってエインセルはボロ雑巾のように吹き飛んだ。


「坊や‼︎」


 それを見たアンネは顔を青白くして駆け寄る。


 アンネがエインセルを心配して身体に触れた瞬間、エインセルの首飾りが赤く光り魔力がエインセルの体を巡った。

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