第二十二話:アーノルド視点
「エルフって何?」
「もうエルフは砦に入っていったぞ」
「エルフって何?」
「……知らん」
「エルフって何?」
「……」
「エルフって何?」
「な、殴りたい……」
ウィンの相手をしていた新人の一人がプルプル震え始めた。
それを見て苦笑していると肩をすくめたゲオが近づき肩を叩く。
「いちいち相手にするからだ。おい、誰か木の実持ってるか?」
「こっちにあるぞ」
「エルフ!!」
ウィンがピョンピョンと兎のように動き、木の実を仲間から奪う。
「うんうん。木の実は至高だ」
プルプルと茹でタコみたいになった新人にクツクツ笑っていると、ゲオがこちらに顔を向けてきた。
「アーノルド」
ゲオが続ける。
「誰かが近づいてきているらしい」
「あ? 面倒だな、暇なやつを使って追い払え」
「いや、すでに追っ払わせに行ったが無視してこっちに向かってきてやがる」
「何?」
ゲオがしゃくった方向を見ると、確かに遠くから白馬に乗った色男風の騎士が来ていた。自分の力を過信しているのか兜をつけずにいる。
ウィンは木の実を投げ捨て腰に手を回して警戒する。
「木の実は至高だと思わないか?」
ウィンがそいつに誰何するが騎士は反応せず、目を細めたかと思うとすぐに顔を顰めた。それを見てゲオは懐からナックルダスターを取り出して嵌める。
「何のようだ? 兄ちゃん」
「亜人の首魁を殺しにきただけだ」
騎士はそっけない声で即答して俺たちを一人一人見ていく。
神聖国の紋章だな……何でここに来ている?
俺と視線が合うと騎士は下から上まで舐め回すように俺を見て顔を歪めた。
「畜生アーノルド? おいおい、どうして……くそが、ふざけんなよ」
「いきなりなんだ? 喧嘩売ってんのか? 色男さんよ」
騎士は俺の言葉を無視してぶつぶつ呟く。
「どうして狂人集団がここにいる? いや、待て――貴様らがいるってことは淵なる者がいるのか? くそがッ、めんどうごとを増やしやがって!」
「あぁっ? 狂人だと? ぶち殺すぞ、神聖国の犬がっ!」
狂人集団と言われゲオは一瞬にしてカッとなり、騎士の頭上に高く飛び上がりそのまま殴った。
いつものことに呆れながら警戒を解こうとしたが、なんと騎士は鞘で軽々とゲオの攻撃を防いだ。
「ちっ。いきなり攻撃してくるとは、狂人としか言いようがないな」
ゲオの攻撃を鞘ごときで防ぐだと?
騎士はゲオを吹き飛ばして白馬から降りると、白馬の尻を強く数度叩いた。すると白馬は遠くへ走っていく。
「亜人娼婦の小間使いどもは頭がイカれてるって話は本当のようだな」
その言葉に俺たち全員がピリついた。
「ど、どうする、アーノルド?」
だと言うのに最近入ってきた新人が俺に問いてきた。おまけにびびってるのか手を震わせている。
「どうする? どうするってどういう意味だ?」
俺はボンクラの胸ぐらを掴み上げる。
「どうするもやるしかねぇだろ。傭兵は舐められたら終わりだ、わかってんだろ? わかるだろ!! 俺たちのアネさんを娼婦呼ばわりしたゴミだぞ!!」
ボンクラを投げ捨て仲間たちを睨みつける。
「他にビビってるゴミはいるか? 神聖国がなんだ? 俺たちを助けたことがあるのか? 違うだろ! 俺たちを救ったのはアネさんだけだ!」
俺は剣を引き抜き騎士に切っ先を向ける。
「なーに、神聖国のクソ犬一匹ぶっ殺しちまっても誰もわかりやしねぇよ」
その言葉を合図に、魔法使いの仲間からいくつもの火魔法が騎士に飛んでいく。それに追随するように騎士の死角からウィンが二本の短剣を振り回す。
俺も続けて魔力を伴った斬撃をいくつも飛ばした。
けれども騎士はまるで散歩をするかのように最小限の動きだけで躱し、鞘のまま仲間たちの腹を突いて気絶させていく。
その光景に罵倒したくなるのを我慢し、俺は魔力を剣に付加させてる途中、騎士は一呼吸で俺に近づき――腹を蹴っ飛ばされた。
「がはぁっ!!」
なんとか左腕で腹を守ったが想像以上の重さで地面を転がる。
「ざけんな……お前ただのクソ犬じゃねぇな」
口から血が混じった唾を吐き捨て、騎士を見上げる。
「はっ。所詮は低脳の傭兵集団だな、これすらわからないとは」
未だに傷一つ付いていない綺麗な鎧を騎士が二本指で叩く。
「神聖国所属の聖騎士アルトリート・レンツ様だ。ま、死ぬお前らが覚える必要はないがな」
「聖騎士……だと?」
「いちいち復唱しないと死ぬのか?」
俺が無駄話を伸ばした隙をついて、騎士の左右からゲオとウィンが同時に攻撃をする。
「話を振っといて仲間に攻撃させるのはどうかと思うぞ?」
騎士はあくびを噛み殺しながら体を折り曲げ、鞘でゲオとウィンの顔面を殴り気絶させる。
「化け物が……」
騎士はいやらしく足音を立てながら俺に近づいてくる。
「ほっとけ」
処刑人のように騎士が鞘を振り上げたその瞬間、後方でドォォォォン!! と大爆音が響いた。
なんだ? 何が起きている?
驚く俺をよそに騎士は俺から視線を外し、音の方向を見て目をカッピラいて固まっている。
そうして俺もようやく気づく。尋常じゃないほどの狂気に侵された魔力が吹き荒れていることに。
俺はぶわっと汗を吹き出しながら顔をゆっくりそちらに向ける。
そこには砦を半壊しながら禍々しいナニカを放っている奴がいた。




