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第二十話

 遠目に朽ちた砦が見えてくるとねっとりした気色悪い魔力が出ていた。

 虫みたいに体にまとわりつくき、俺はそれをはたいて落とす。


『さ、流石相棒だな。それで淵人の汚染をはらい落とせるなんて』

 ――これが……

『あ、あぁ、淵人だ』


 なんかばっちぃんだけど。

 すっごい行きたくない、帰ってもいいですか?


「流石ハイエルフの子ってことかい? それともその首飾りのおかけかい?」

『首飾りもあるがやっぱり相棒の魔力がとんでもないからだと思うぞ』


 まぁな! よくわからんけど。


「アンネさんたちは普段どうしているんですか?」

「アタイたちはすでに耐性がついたのか、汚染されすぎたのかすらわからないよ。ただ奴らを消滅させればいい」


 アンネさんを見ると目の奥から何かが這い出てきてそうな怖さがあった。

 俺はすぐに目を逸らす。


「しかし、これは――本体がいるのか? チッ、王国からはせいぜい依代だと聞いていたが」


 アンネさんは目を細めつぶやいた。


「とりあえずアンタたちはここで待機してな」

「アネキ!」

「アタイはある程度耐性がついているか大丈夫だが、お前たちまで来て奴らに覗かれたらどうする? わかったなら、待ってな!」

「……わ、わかりやした」


 ゲオが声を上げて反論するがアンネに言われ、唇を強く噛む。


「坊やもここで待「行きます」」


 万が一があるからね。

 決してチンピラーズと一緒にいたくないとかじゃないよ!


「はぁ……そんな目で見ないでおくれよ。わかった、ならアタイと坊やで行こうか」


 アンネさんに万が一あったら悲しいからね。

 俺も男だ、本当は嫌だけど行くよ。

 守ってやんよ!


 馬に乗ったまま行こうとするが馬たちが暴れて嫌がったので、降りてアンネと歩いて砦に近づいていく。

 遠目からはわからなかったが近づくに連れ、砦からおどろおどろしいナニカが天に昇っていた。


『相変わらずイラつく魔力だ』


 確かに。すっごい動きづらいし、魔法を使うか。


《大地よ、勇気を与え給え》


 大地から白い魔力が湧き出て俺アンネさんを包む。


「ふふ……やっぱり馬鹿げた魔力だね、坊や」


 アンネさんの強張っていた体が少し和らいだ。


 いよっ、素敵な笑みいただきました!


 アンネさんは表情変えてキッと砦を睨む。


「今回ばかりは死ぬかもしないね。万が一の場合、坊やだけでも逃げな」


 その方向には大きな扉の前に、二体の見たこともない凶悪な二足歩行の生物がいた。


「チッ。あれがオークとゴブリンだって? 情報を渡してきた王国は本当いい加減だね」


 そこには赤黒くはち切れんばかりの筋肉で、口から二つの牙が突き出て巨大な戦斧を持った二足歩行の生物と、黒緑で筋骨隆々そして俺より長い耳だが先っぽが垂れ下がり釘バットみたいな物を持っている生物がいた。

 共通するのはどちらも目の半分ほどが黒く染っている。


 お、おーくとごぶりん?

 どう見てもそのレベルじゃないんですけど。

 クーリングオフ適用されますか?


『淵人に汚染されてるが――まだ覗かれてはいないな』

「我ラガ地ニ何ヨウダ」

「ダーグエルブド……ナンダ? エルブ? ニンゲン?」


 ゴブリンは簡潔に述べ、オークは鼻を動かして頭を捻っていた。


「あぁ、そうだよ。お前たちと同じ魔に堕ちたダークエルフと、こちらはハイエルフ様だよ」

「ハイエルフ? ダガ人間ノ臭イモズルゾッッ‼︎」


 オークが言葉を放ったと同時に足の筋肉が膨張しこちらに飛びかからんとしたが、横にいたゴブリンが素早く殴った。


「我らハ門番。勝手ニ動クナ」

「ア、アァ。ズマナイ、ヅイ」


 オークは殴られて地面に転がったが、特にダメージを食らっていないようで、なんともないように起き上がり門の前に戻る。


「ダークエルフナラ構ワナイガ、ソノ紛イ物は失セロ。殺サレ……」


 ゴブリンは話している途中で死んだかのように頭から地面に突っ込む。

 オークも同様に倒れ込んだ。


「化け物かい……巨大魔獣ですら即効性がある毒を出していたのに、気絶するだけでまだ生きてるなんて」


 え⁈

 なにそれ! 俺も死んじゃうじゃん!


「ま、坊やは知っていたと思うが……昨夜と今朝に坊やが食べた野菜の中に中和する薬を入れといたんだよ」

『ふん。そんなの相棒は百も承知だよ、ダークエルフの小娘』


 え⁉︎

 も、もちろん。し、知ってたよ。


 アンネは倒れ伏したオークとゴブリンに止めをさそうと、短剣を取り出したので手を掴む。


「なんだい? 今仕留めなかったら後々面倒だよ、坊や」


 アンネさん……ちょっと血の気がありすぎじゃないですか?

 オークさんは攻撃してきそうだったけどゴブリンさんが止めてくれたし。


「彼らはまだ違います」


 も、もしかしたら賢者の番人的な感じで、仲間になってくれるかも知れないし。


「チッ」


 アンネは短剣をしまい腕を組んで俺を見た。


《見ぬ月よ、彼らに夜の帳を》


 俺は彼らに眠りの魔法をかけて、深い眠りに(いざな)った。


「アマちゃんだね」


 俺の行動にアンネは長い髪をかきあげて呆れた声を出した。


 門の中に入ると、どこもかしこもボロボロで今にも崩れそうだった。

 長年補強すらされず地面には深い亀裂がいくつもある。その上、隅にはガリガリになって、皮だらけのオークやゴブリンが横たわっていた。


 アンネがそれらに近づいて見るがすぐに戻ってきては顔を振る。


「息絶えてるよ。餓死のようだね」

『餓死? 確かに餓死だと思うが。どうしてこやつらは何も喰わずにただ飢えて死んだ?』


 グラムの言葉に俺も疑問を持ったがアンネが先を進んだのでついていく。警戒するが誰かが出てくる気配もない。


「どういうことだい? 奴らのせいかい?」


 半開きに壊れた門を通って砦の中に入ると、より一層気持ち悪い魔力が体にへばりつく。


「うっ。本当、気持ち悪い魔力だね」


 アンネは不機嫌そうに吐き捨てた。


 迷路のような長い通路を突き進んでいると突然、バババッと蝋燭が奥へ灯っていく。

 警戒しながら最奥へ目を向けると怪物がいた。砦を守っていたオークとゴブリン以上に異様な怪物が。まるで肥大化した筋肉を何度も圧して縮小しても尚、筋肉が溢れ出し黒い筋肉の鎧と化した生物がいた。


 俺たちに気付いたのか、それとも蝋燭の光が煩わしくなったそいつは目を開く。何十年も閉じていた扉を無理やりこじ開けるようにミシミシ音を立て、目を開いた。

 その眼はかつて戦った、禁術によって変貌した人狼のように黒く染め上がっていた。


『<豚鬼族>か?』

 ――豚鬼族?

『ん? あぁ、さっきダークエルフの小娘が言っていたオークとやらの昔の呼び名だ、相棒』

 ――さっきいたオークとはまるで違うようだが

『大方、淵人絡みだろう』

 ――そうか


 巨大なオークは二チャリと音を立てて口を開く。


「アァ……オ前タチハ……ナゼ我ラヲ放ットイテクレナイ」

「放っとくだって? ここら周辺で暴れ回っているっていうのにか?」

「ナゼ何度モヤッテクル。我ラハモウスデニ疲レタ、奪ワナイ、喰ラワナイ。我ガ代替ワリシテカラハ、砦カラ出ルコトスラ許サズ、死ヌコトヲ望ンデイルトイウノニ……」

「話にならないね」


 アンネは呆れ顔になっているが短剣に手をかけていた。


「あいつは覗かれすぎて会話にすらならないよ、坊や」

「ナゼ我ラニヒト時ノ安寧スラク与エテクレナイ」


 巨大なオークがゆっくり立ち上がる。


「言っていることと、やろうとしてることが違うようだけど?」


 落ちていた身の丈二メートル以上ある戦鎚を拾った。


「はぁ……戦うしかないようだね。気を引き締めな、坊や」





 ハイエルフだと? ありえぬ‼︎ どうして今になって‼︎

 なぜ忌々しいハイエルフが生き残って子などを残している?

 許されぬ……決して救われぬ……滅したはずだ、堕としたはずだ……深淵隷よ‼︎

 戦え、殺せ、滅ぼせ‼︎ もう一度、全てを‼︎


 何かが奥底で憎しみに満ちた声を上げた。

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