第十六話
「あの、すみません」
「なんじゃい?」
「ここへは初めて来たのですが。酒場はどちらに?」
お婆さんは渋い顔で横に向けて顎をしゃくる。
「余所者かい。あそこに看板が見えんのか」
そこに視線を向けると思いっきり酒瓶が描かれている看板があった。
き、気づかなかった。
「これだから最近の若者は……」
お婆さんは呆れたのかぶつぶつ言いはじめる。
「ありがとうございます」
それに妙に恥ずかしさを覚えながら俺はお婆さんに感謝をする
「金銭ではありませんが、もしよければこれを」
「ふんっ」
薄汚れた袋を見て訝しんだが、中を見た途端引ったくるように持っていく。
中は俺が森で倒した魔獣の牙や爪が入っていた。
『現金な人間だな』
確かにグラムの言う通り口は悪かったけど、なんだかんだ場所も教えてくれたし。
優しいお婆さんだと思うよ。
看板のところへ向かうと、階段付近で酒臭い悪人面が何人も潰れていた。
『お! ちょうどいい財布があるぞ、相棒』
このアホ剣に倫理観はないのか?
いや元魔王だったな……
グラムのせいで気が削がれたが、立て付けの悪そうなドアをゆっくり押す。
中からむわっとむせ返るようなアルコールの臭いと獣臭が立ち込めた。
くっさ!
やっぱ入るのやめようかな。
くそ、アホグラムの言うことを聞かずに森を散策してればよかった……
◆
ことは一週間ほど前、リンとその兄と別れた後のことだった。
『あいぼうー、その人間の指輪捨てないのかー?』
――捨てないよ
『はぁー、ワシよりそっちを取るなんて、はぁー‼︎ ワシは悲しい‼︎ 忌々しい勇者の指輪なんて……』
ん? 勇者?
――勇者の指輪なのか? そんな雰囲気も魔力も感じ取れないが
……受け取った時に言ってよ。
『魔力はないがワシには見覚えがあるぞ! ワシの超必殺超滅び超光線を防いだ指輪だったからな!』
だっっさ。超を使いすぎでしょ
――センスないね
『なんだとー‼︎ いくら相棒でも許せないことはあるぞ!』
――それで……
『それでじゃないぞ、相棒‼︎ これだから若い者は……』
話を変えようとしたらグラムが怒ってガミガミと喚く。無視してリンから受け取った指輪を見る。
いたって普通の指輪にしか見えないんだよなぁ。
あっ! ダサい魔法を防いだとか言ってたし、もしかして魔法とか魔力をぶち込んだら反応するとかかな?
物は試し俺は慎重に魔力を指輪に注入していく。
が、まったく変化はなくただの指輪のようで何も変わらなかった。
はぁ、グラムつっかえねぇ
めんどくさくなり俺は大量に魔力を一気に入れた。
その瞬間、指輪を中心に何も見えなくなるほどの光が爆発する。
ウガァ‼︎
な、なんだ⁈
視界がチカチカする中、なんとか指輪を見る。
指輪の見た目は変わらず同じだったが、俺から出ていた大量の魔力が跡形もなく消えていた。
『な、何してるんだ、相棒?』
――魔力を消したのか?
『相棒! ワシの話聞いていなかったのか! それは大規模な魔法や魔力を打ち消す<宝具>だ!』
――なるほど
『なるほどじゃない! 下手したら相棒の魔力も消えていたんだぞ‼︎』
グラムがカンカンになってまた説教を始めた。
――これだと魔法を使う限り、打ち消されないか?
『はぁ……それだったら勇者が魔法を使えなくなることになるぞ。ワシも厳密にはわからんが装備した状態なら大丈夫じゃないか? 相棒にも勇者の血が流れておるし。多分』
多分って……
話を聞いてなかった俺が悪いけどさ……あれ?
でも装備してるのに打ち消されたぞ? どういうことよ。
指輪を右手に通してみるがいい感じに嵌まらない、試しに左手に移して人差し指に入れるとぴったりとフィットした。
左手を広げて眺める。
ふむっ。
これで賢者レベルが上がったんじゃないか?
『やはり勇者の末裔らしいな』
――なんのことだ?
『かつての勇者もそこにつけていたよ、相棒』
ふーん。
『ラタトスク帝国もくだらないことをする。憎たらしいが自分たちを守ったはずの勇者の装備をばら撒くなんて……いや! 相棒の先祖を馬鹿にしてるわけじゃないぞ!』
――わかってるよ、グラム
グラムが魔王笑やってる時代から続いてるってすごいよなぁ。
あ! 思い出したラタトスクって確かパパンが言ってた皇子笑出身の国だっけ。
――統治を円滑にするためか、支配を強めるためだろう
しかも父さんはその超続いている帝国の第二皇子って……ありえないでしょ。
あっ、俺もつい「超」って使っちゃった。
くそぉ、なんか負けた気分。
『ワシもそう思うぞ、相棒。当時は荒れに荒れまくっただろうからな! ククッ』
お前のせいだろ……
『相棒、更なる力を求めるなら勇者が使っていた装備を集めるのもいいかもしれんぞ』
一応元魔王なんだから勇者が身に付けていた物は嫌じゃないのか?
――一応元魔王なのにいいのか?
『い、ち、お、う、じゃない‼︎』
あ、つい言っちゃった。
『そしてワシは元でもない‼︎ 今でも偉大なる魔王だ‼︎』
うるさっ。
『ワシの手にかかれば勇者の装備なんてすぐに支配下に置いてやれるぞ!』
支配下? どういうことだ?
グラムが奇妙なことを言うもんだから左手の指輪を見るといつのまにか、光すら遠さない漆黒の指輪になっていた。
えぇ……呪いの装備になってるじゃん。
『ククッ、相棒も気づいたか! 愚かにも相棒を浸食しようとしていたからな、逆にワシが襲いかかって一部にしてやったわ!』
い、いらねぇ。というか侵食って……
『まぁ、しかしなかなか面白いことがわかったぞ』
――何がだ?
『勇者が使っていた装備には記憶の断片が入っていたようでな。ククッ、いやこれは後のとっておきの情報にしよう。相棒がさらに強くなりたいのであれば、帝国に行って装備を収集するのもいいぞ! ワシがすぐに支配してやるから、安心してくれ!』
安心できるわけないだろ!
お前も俺のこと呪おうとしてたくせに……
――さっき俺の魔法を打ち消したが、もう大丈夫ってことか?
『もちろんだ‼︎ すでにワシの一部だからな!』
まぁ、でも森の神秘的な賢者になるなら、勇者に装備を授けたりしないといけないしな……
――グラムの支配下なら、まだ機能するのか?
『う……うむ。大丈夫だ! 大船に乗った気分でいてくれ、相棒!』
泥舟の間違いだろ。しかも一瞬言い淀んでいたの気づいてるぞ。
というか剣の癖に言い淀むってどうなってんだよ。
――そうか。なら、次の場所はわかるか?
『ちょっと待ってくれ。うーん、おっ! グラムレーダーがビンビンとあっちの方向を示しているぞ!』
グラムレーダーって自分で言うのかよ。
ますます元魔王の威厳がなくなってるぞ……
俺はぐったりしながらグラムレーダーの方向へ歩く。
ふと、もし辺境伯へ言った時にこの指輪じゃ通れないんじゃないか? と思い、冷や汗を掻いたが記憶から抹消した……
抹消した!
ふむ。
散り散りになっていたはずの勇者の装備がまたもや、勇者の元に戻ってくるとは。
運命なのか神のいたずらか。生前、勇者の装備は神の贈り物だとか聞いたことがあったが――それだけではないな。
まぁ、相棒の莫大な魔力なら洗脳されることもないはずだ。
すでにワシの一部と化してるしな、物は試し相棒に装具一式全て集めさせてみるのもいいかもしれんな。




