第十五話
な、なんかめっちゃ俺の可愛い耳を見てるよね。
もしかして耳フェチの人?
「亜人が何のようだ?」
イケメン騎士は剣先を向けながら聞いてきた。
『なっ! 助けておいて! なんてやつだ、やっちまえ、相棒!』
「私は旅人のエインセル、エルフです」
敵対心がないですよー、とアピールしながら自己紹介をしたら、馬車の中から女の子の声が聞こえてきた。
「エ、エルフですか⁈」
むむむ?
「本当にエルフなのですか? ですが、エルフはもういないはずだと……」
「エルフだと?」
「私も本でしか知りませんが……確か、耳が長く髪色は黄金のように輝き、とてつもない魔力を持っているだったかと……」
「確かに耳が長いし金色の髪だな。それに腹が立つが魔力もあるようだ。が、所詮は低脳の亜人の類だろ? 何の区別がある」
し、辛辣すぎないか?
「お、お兄様! そういうのはよくありませんわ!」
「だがな? リ「命の恩人の方なんですよ! 早く謝ってください!」」
そうだそうだ!
「チッ……わりぃな」
おいっ、舌打ち聞こえてるぞ
「お兄様‼︎」
「はいはい。助けてもらってどうも」
『この男……なんて失礼なやつだ! 叩き斬ってやれ、相棒!』
……何の茶番を見せられてるんだ。
呆れればいいのか怒ればいいのか困惑すると馬車の中から女の子が降りてくる。
その女の子は純白のドレスを身につけ、頭にはちょこんと小さなティアラが乗っていた。
どこか絵になる見た目もあり、まるでここが舞踏会のように見えた。
ただし、周りに何人もの騎士が伸びてなければもっとよかったが。
ほえぇ、すんごい可愛い。
やんごとなき貴族や王女様とかかな?
「はぁ……ごほんっ。兄がご無礼をおかけしまして申し訳ございませんでした」
しかも性格まで良いって……成長したら結婚してください!
「いえ、謝らずとも。警戒して当然です」
高感度を上げるために丁寧に接するぜ。
「ありがとうございます、エインセル様。私はラタトスク帝国辺境伯のリンツ・エヴァンスです」
ラタトスク? なんか小さい時にパパンから聞いたことがあるような、ないような。
「シュナイゼルだ」
「ごほん! 兄のシュナイゼル・エヴァンス、帝国騎士をしております」
リンツは兄の態度にムッするが紹介をした。
「何度も申し訳ございません。お兄様……いえ、兄はかなりその……」
「構いません、エヴァンス様」
兄のシュナイゼルのような亜人嫌いが普通だと思っていたが、妹のリンツの態度に逆に俺が驚く。
「命の恩人の方にそんな他人行儀にされてしまったら祖父に怒られてしまいます……リンとお呼びください」
女の子は眦を下げながら俺に言った。
リンツさんとやら、あなたが良くても横にいる人の顔がすごいんですが……
呼び捨てしたら三枚に下ろされるとかない?
「リンさ……リンたちはどうしてこちらへ?」
ニッコリ笑ってるのにゴゴゴッと音が聞こえてきたので、言われた通り呼んだら今度はお兄さんがすごい形相で睨んでくる。
どうすればいいんだよ……
「祖父の命によって参りましたが……お恥ずかしながら帝国の政敵に襲われてしまい……」
「政敵――ですか。ですがここは王国の領土だったはずだと記憶しています。どうしてここに?」
「お前に何の関係がある、亜人」
「お兄様‼︎」
「ふんっ」
「はぁ……度重なるご無礼、申し訳ございません。ただ、かなり込み入った話になってしまうので……ちょっと」
「いえ、むしろ私のような怪しい亜人に対し、丁寧に接していただき感謝いたします」
何かの琴線に触れたのかリンがクスクスと笑う。
「ふふ。やはり本に描かれていたエルフ様と同じで、見た目だけではなく優しい方でした」
『なっ! なんて失礼な小娘なんだ、相棒を見て笑うだと! ワシに手足があったら叩き斬ってやるというのに!』
手足も何もお前、剣だろ。
切るぐらいできるが……やらないけど。
「エインセル様、もし良ければ近くの街まで一緒に行きませんか?」
「なっ、リン! 亜人なんて連れてみろ、父にドヤされるだけじゃすまないぞ!」
「しかしお兄様……」
……なんかめんどくさそうな雰囲気だなぁ、断ろ。
「私にはまだすることがありますので」
『よくいった、相棒!』
賢者にならないといけないからね。
まだ外の世界には行かないぞ!
絶対に!
「そう……ですか。でしたらこれを」
「リン!」
お兄さんが血相変えて叫ぶが、リンは無視して付けていた指輪を外し俺に手渡した。
……鉄? 鋼?
いや、どれも違うな。
「私が十歳の誕生日に祖父から頂いた指輪になります。もし帝国へいらっしゃる時にこの指輪を見せれば、問題なく通れるはずです」
……そんな大層な物をいきなり渡されても。
「後で父に何を言われても――俺は知らないぞ!」
急いで返そうとするがリンは頭を振って頑なに受け取ろうとしない。
「命の恩人ですのでこれぐらいしないと。もし、どうしてもと言うのであれば、辺境伯領に来て下さった時にお願いします」
お兄さんは苦虫をかみつぶしたような顔で「ふんっ」と強く鼻息を立て腕を組んだ。
「わかりました。その時に是非寄らせていただきます」
心なし頑張ってニッコリしたつもりだが表情筋が動かなかった。
悲しみ。
「リン! 行くぞ!」
リンはスカートの両端を摘み、俺に一礼して去っていった。
『せいせいする。相棒、次はもう人間なんて助けるなよ!』
――何度でも助けるさ。
チンッとグラムを鳴らして歩き出す。
森の大賢者を目指すために‼︎




