第十三話
話が上手いなぁ……
俺も賢者になったときに話し方を上手くなきゃ威厳がないかな?
やっぱり旅をした方が……い、いや! 修羅の世界でなんて生きていけそうにないから却下だ、却下!
レーグに耳を傾けているとモフモフした可愛らしい女の子が近づいてくる。
『なぜ<コボルド族>の小娘がいる?』
――だめなのか?
『魔を多く孕んだ亜人と獣人はそれこそ憎しみ合い嫌悪していたはずだ。ワシの配下で戦っていた時にも互いにずっと敵視していたぐらいにはな』
ふーん。
混血が進んだせいじゃない?
モフモフ感がすごく人狼さんみたいな怖い雰囲気ないし。
『コボルト族は知能も高く手先も器用だが、それ以上に知的好……』
「あ、あの! いいですか!」
「どうした?」
コボルド族の少女の言葉にレーグは怪訝な表情をした。
「エ、エインセルさんのことを知りたくて!」
あっ、俺?
グラムの知恵袋を聞いていたら突然名前を呼ばれて、意識が浮上する。
「好きにしろ。と言いたいがエインセルは構わないか?」
「えぇ、問題ないです」
ドンっとお兄さんになんでも質問しな!
「エ、エインセルさんはハーフエルフって聞いたんですけど! もしかして、大昔にいた精霊様と一緒に世界樹で暮らしていたあのエルフですよね。今もそうなんですか⁈」
「そう……ですね。概ねその通りですよ」
お、大昔はそうだったんじゃない?
世界樹なんて見たことし、ただの森育ちですけど。
「やっぱり‼︎」
少女はニパっと可愛らしい笑顔を咲かせた。
「私、いろんな本を読んで知っていました! エルフってまだ存命だったんですね! 両親はどうされているんですか?」
両親のことを聞かれて言葉に詰まる。
「父と母は……」
引きこもりたい俺を旅立たせて森にいるよ!
絶対に良さげな場所を見つけて森の賢者になってやる!
メラメラ闘志を燃やしている俺を横目に宴会場がシーンと静かになっていた。
あれ?
なんでみんあ静かになってるの?
殴り合っていた獣人たちも悲しげな表情になって、宴会場は奇妙な雰囲気に包まれた。
き、気まずい。
「気にしないでください」
酒を一気に飲み干して立つ。
は、恥ずかしい。
もしかして俺の引きこもりの野望がバレた?
恥ずかしさと久々に転生して初めての酔った感覚に襲われながら茂みに逃げるように入った。
ワサワサと茂みに苦戦して数十秒すると、宴会場の方向から賑やかな声が聞こえてきた。
……俺がいなくなってすぐまた賑やかになるって、ひどくない?
『いいのか? 相棒』
いいも悪いもないよ。
恥ずかしさいっぱいで立ち去ったのに今更戻ってどんな顔すればいいんだ。
ぐぅ……
茂みと格闘しながら数分、小高い丘を見つけた。
俺は丘の一番高いところに行き格好つけて腕を組む。
引き籠れそうな場所がないかなぁ。
呑気なことを考えながら魔力を放出して周囲を観察して、すぐにガックリして諦めた。ただただ魔獣が森の至るどころにいることだけがわかった。
魔獣多すぎだろ、どうなってんの。
『相変わらず魔の森は魔境だな』
――相変わらず?
『いや、厳密には違うな。世界樹が倒れてすぐの時はもっと多くのドラゴンや巨人が暴れまわっていたから、それに比べると今は大分大人しくなった、だな』
よ、よかった。
そんな時に生まれなくて。外だけじゃなく森の中も修羅だったってやばすぎでしょ。
俺はついでとばかりにさっきコボルトの女の子が言っていた世界樹のことを尋ねる。
――世界樹は本当に存在していたのか?
本の中じゃ小さな国一つ分ほどの大きさがあったって書いてあったし、信じられん。
『あぁ、存在してたぞ、相棒。本来、ここら周囲一帯は世界樹によって聖域になっていたが……人間どもが何を思ってか知らんが、世界樹を破壊したんだ』
この世界の人間、戦闘民族すぎない?
――聖域……
『そうだ。相棒の先祖が統治し暮らしていた場所だ』
ふーん。あっ、世界樹の種とか落ちてないかな?
それを見つけて植えれば世界樹を守る番人的な賢者になれそう。
うん?
俺が先ほどかき分けた茂みの方から虎人族のレーグが現れる。
なぜか神妙な顔を貼り付けていた。
「……エインセ」
どうしたんだろう?
「……お前は今の世界をどう思う」
「種」
「種?」
やっべ、世界樹の種のことを考えていたらつい出ちゃった。
「まだ芽すら出せていない未熟な世界だ」
そ、そう。俺と言う賢者の芽がまだ出てきてないからな。
ま、間違ってない。
「……未熟」
「世界は争いに満ちている。太古の魔王は混沌で統一しようとしたができず、芽を出すことをできなかった」
……自分で何言ってるかわからなくなってきた。
「エルフが守り続けた世界樹は倒れ、朽ちた。エルフも同様に」
「……すまない」
「謝らなくともわかっている、レーグ」
こっぱずかしいから謝らないで!
『うむ。謝るのはいいことだ!』
「世界は混乱に落ちた。差別、迫害、紛争……当時の魔王が憂いたのか、ただ自分の欲を求めて統一をしようとしたのか、今となっては誰も知らない」
『超すごい魔王のワシが知っているぞ』
いちいち合いの手をいれてくるな!
「芽を出すには誰かが全てを飲み込みなければならない。獣人に限らず、人間以外の多くの種族は深く人間を憎み恨んでいる。だからこそ、人間を排除するのではなく共存の道に進まなければならない」
レーグに考える余地を与えちゃいけない!
「……わかる、わかるが、それを頭で理解しても到底、共存できると思えない!」
うっ!
「その通りだ、レーグ。一方だけではなく、全ての種族を深く知っている者ではなけれならない」
「……」
「大陸最大の領土を誇る帝国である血筋を持つ父、そして滅びたはずのハイエルフの母を持つ私が清濁併せ呑みこもう。そして……」
「エインセル‼︎」
最後に賢者になるよって締め括ろうとしたがレーグに遮られた。
ど、どうしたの?
もしかして俺が適当に言ったことに矛盾でも感じた?
「どうか……俺の剣を受け取ってくれ」
う……うん?
『俺から見てもこの虎人族はかなりの強さと器量を持っている。ただ、どこかで……』
何の話?
『どうした相棒?』
こっちのセリフだけど……どうやって断ればいいんだ?
――どうすればいい
『剣を受け取って肩を叩いてやりな、相棒』
さっすが博識のグラムだぜ!
すまないな、レーグ。俺は外の世界に行く気なんてさらさらない、引きこもって森の賢者になるんでな!
「レーグ……私には正式な所作を知らない。ただ……それこそ大昔のものでもいいか?」
「あぁ‼︎」
『あぁ、血が薄くなっていたがようやっと思い出したぞ! 獣人の王として最後まで我に反抗したやつの末裔か! 山の民の一員になっていたとは。ククッ、それが我らに下るとはな!』
下る?
『さぁ! 早くやってやれ、相棒!』
もうなんでもいいや。
ええい、ままよ!
剣を受け取り肩を叩く。俯いたままのレーグは感極まったのか肩を揺らしてポタポタと涙が落ちた。
こ、断ったことに対してそんなに気落ちしないで。
心が痛むから……




