第十二話
乗っている馬車の周囲を筋骨隆々の獣人さんたちが警護するかのように歩いていた。
チラッと視線を動かして彼らを見る。
巨大な斧を背負って腰身のだけの牛の獣人や短剣をうっとり見てる狐の獣人がいた。
どこからどう見ても山賊一行にしか見えない。
なんだろう。
明らかに山賊の類だよね。
いや……き、きっと気のせいだ。
『なるほど、見覚えのあるやつらと思えばそういうことか』
なぜか一人合点が落ちたグラムの声が聞こえた。
――何がだ?
『<山の民>だな」
――山の民?
『あぁ、獣人には珍しくワシの味方をした奴らだ』
えぇ、それって大陸を地獄に落とした魔王陣営ってことじゃん。
グラムの言葉のせいで、俺は虚な目になって馬車の隅で体育座りをする。
まさしく売られていく家畜のような気分を味わって数時間、馬車が洞窟の前で止まった。
俺は顔を少し出し洞窟を見ると、そこには顔面傷だらけの筋肉マッチョマンの獣人が何人もたっていた。
うん……たぁすけてぇぇ!
俺は逃げようと幾度なくヴァンに遠回しに帰ると言うが、なぜか遠慮するなと言われ山賊たちに大歓迎された。
俺は結局逃げることはできず、夜までいることになり宴会が開催された。
多くの獣人たちを助けることができたということで大量の酒が振る舞われ、血気盛んな若い獣人達はバカスカ飲んで、殴り合いをしていた。
血の気がありすぎじゃない?
帰ってもよろし?
俺は隠れるように隅っこの席でサラダを頬張っていると顔を真っ赤にしたヴァンが絡んでくる。
「のぉぉんでるかぁー!」
すでに泥酔しているのかヴァンのテンションは振り切っていた。
背中をバシバシ叩くのやめてくれませんか?
俺、か弱いエルフなんですよ……ハハハ
ヴァンは大笑いしたかと思えば、突然無表情になって俺の横に座る。
き、気まずいんだけど。
ヴァンは俺の心境がわかっているのか、わからないのか酒をチビチビ飲んでいた。
な、何か話題を出さないと胃がキリキリして死にそう。
えーと、えーと……
ヴァンを見ていたら人狼を思い出し試しに話を振ってみる。
「人狼に……心覚えはありますか?」
「人狼? あぁ、ヴォルのおっさんのことか? あの人は俺の師匠で親代わりの人だ」
一瞬だけ怪訝な表情になったが、すぐにわかったのか歯を剥き出しにして獰猛に笑った。
「俺はガキのころに人間に攫われてなぁ。闘技場の見せ物の時に出会ったんだ。戦闘奴隷としての振る舞いや戦い方、生き方を教わった。あの人は普段は寡黙なおっさんだけど、興奮すると言葉遣いが荒くてなぁ」
ヴァンがしみじみと言いながら一気に酒を呷った。
「いつだったかな。紛争地域に連れられた時に大勢の戦闘奴隷を率いて脱走を企てたんだ。まぁ、逃げれたのは俺を含め当時数名のガキンチョだけで、ヴァルのおっさんは捕まりそれ以外はほとんどが殺されたけどな」
さらっと言ってるけど重いよ、ヴァンさんや……別にそんな赤裸々に言わなくても。
「あぁ、別に深く考えることなんてないぞ。こんなのは今の世界どこでも起きていることだ。俺も悲劇振るつもりもない」
外の世界は修羅かな?
『人間どもは変わらんな』
「ガキの俺がヴァルのおっさんを探すも、一人じゃ何もできん。だから一度、故郷に戻って有志を募り一団を作りあげた。俺は今と同じように奴隷にされた獣人の解放を続けていた。そんなある日、ヴァルのおっさんの話が聞こえてきたんだ」
『なるほど、こいつは生粋の山の民か』
「俺は居ても立っても居られなくなり、少数精鋭で駆けつけてきたがすでにいなくてな、あの有様だ。人間のやつらに聞いたが処分するために魔の森に連れて行ったとな」
近くにいた肝っ玉お母さん風の獣人がヴァンに酒を注ぐ。
「悪りぃな、ありがとう。そう、それで捜索したある夜、ヴァルのおっさんの狂気の孕んだ声を聞いた。お前さんも魔の森から来たってことは、そういうことだろう? あの人が人間ごときに負けるはずもないからな」
ヴァンは目を瞑り、再び目を開くとおちゃらけた姿からは想像できないほどに真剣な眼差しで俺を見る。
「あの人は強かったか?」
その目に俺は少しだけ言い淀む。
「強く……気高かき戦士でした」
「はははっ……そうだよな。あの人は奴隷なんてもんじゃない……そう、戦士なんだ」
ヴァンは震えながら俯く。
コップにポタポタと水が入っていくと、ヴァンはまた一気に酒を呷って去っていった。
それを近くで見ていた虎人族のレーグが入れ替わりでやってくる。
「すまないな、エインセル。気を悪くないでくれ。あいつはヴァルさんを救うことだけに生きてきたから……な」
「いえ。もし私が同じ立場でしたら同じようになると思います」
レーグは律儀に軽く頭を下げた。
「すまない。寛大な心に感謝を」
その後、レーグは堅苦しい雰囲気に見合わず、自分が経験した下世話な話を披露してくれた。
話し方がとても上手く、ついつい聞き入ってしまい俺は慣れない酒を飲んでいた。




