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第十一話

 青々とした美しい森の中を誰かが歩いていた。小さな草木や木の枝に至るまで意思を持ったかのように彼を傷つけないよう自分から折り曲げり道を作り上げる。

 彼のかき上げた髪は日差しによってキラキラ輝き、黄金のように煌めく。


 もしうら若き少女が彼を見ただけで、ため息をしたくなるほどの美しさがあった。彼の耳の先端はピンッと尖っていて、瞳は黄金を直に埋めたかのような魔性がある。

 その姿はまるですでに滅んだ古い伝承にあるエルフのような……



 うぉぉぉん!!


 なんだかんだマナは着いてきてくれると思ったのに、本当に来ないなんて……

 俺の人望、低すぎない?

 あっ妖精望かな? どっちでもいいや。


 意気揚々と家を出て獣道を進んでいたが、すぐにそれもなくなり俺は草木をかき分けながら茂みの中を歩いている。


 別に迷子になったりしてないですよ?

 本当ですよ?


『相棒、そっちだ!』


 あ、本当にこっちで良かったのか。

 よかった、よかった。


 グラムレーダーを頼り森の中を進む。


 極力、草木を傷つけないように枝や葉っぱを手で優しく押す。

 そうして歩いていると見晴らしがいい小高い丘に出た。


 丘の先に登って新鮮な空気をスーハースーハーして取り込んでいると、なにやら遠くで争いごとが見えた。


 ――どういう状況だ?


 賢者になれそうな場所を探しているだけなのに、どーして争い事に巻き込ませようとするんですかね。

 この聖剣笑は……


 目を細めて遠くを見る。


 地面には大勢の人間達が倒れ伏し、その代わりに獣感が強い人間らしき人たちが魔獣と戦っていた。

 戦っている彼らの多くは断ち切られているが手足や首元に太い鎖があった。


『<獣人>と<ブラッディーベアー>か? もしや、昨日出会った人狼と一緒にいたやつらじゃないか?』


 ――ありえるな


『今ならブラッディーベアーをぶっ飛ばし獣人どもを味方に付けて、人間を滅ぼしにいくぞ! 派手に行こうぜ、相棒!』


 なーんですぐに人間を滅ぼそうとするかな……

 でも、確かに助けなかったら寝覚めが悪い。

 昨日は状況がわからず手を出すのが遅かったけど、今度の争いは明白だしな。


 俺は丘の先から少し後退して距離を作ると丘を駆け上がった。


《風よ、追い風を》


 ジャンプする寸前、風魔法を使い大きく飛ぶ。


『ヒャッハー‼︎』


 グラムは何をとち狂ったのか俺の後方に大量の魔力を放出した。


 あっ、このアホ!

 何しやがる。いったいいつ、こんな機能をつけたんだ!


 それのせいで獣人たちがいる場所までものすっごい勢いでぶっ飛んだ。


 それでもかなり距離があったので、俺は空中を飛びながら獣人たちをつぶさに観察する。

 遠目からでは彼らの耳や尻尾が戦いで千切れたいると思っていたが、実際には根元から引きちぎるようにしてなかった。


 俺はそのことが気になってグラムに訊ねる。


 ――切り落とされたのか?


『違うな。おそらくワシの時代と同じであれば、獣人の親が生まれた我が子が人間の国で迫害を受けないように切り落としたんだろう。他の可能性としては人間どもが獣人を奴隷にしたときに奴隷の証として切り落としたか……だな』


 む、むごい。


 人間の恐ろしさに引きつりながら彼らの真ん中に降り立つ。

 突然、上空から現れた俺に獣人たちとブラッディーベアーがギョッとした顔で俺に振り向く。

 が、ブラッディーベアーはさすが魔獣なだけあって、すぐに意識を戻し歯を剥き出しにして威嚇をしてきた。


「ゴァアア‼︎」


 森に帰ってくれないかなぁ……無理か。


 俺が帰ってくれないか祈って見守るがそんなことがありえるはずもなく、ブラッディーベアーがその巨体に見合わない早い動きで幹のような太い腕を振りかぶった。


 足に力を入れて横へ回避する。


 ドォン‼︎ と強烈な地響きを立てながら地面が抉れる。

 ブラッディーベアーは体勢を戻すと、もう一つの腕をボクサーがフックを打つように下から飛ばしてくる。


 俺はその腕に交差するようグラムを添えた。


「グ、グァラアア‼︎」


 ブラッティーベアーの叫びと共に切断された腕がスパッと飛んでいく。

 片腕がなくなったブラッディベアーは痛さも相合わさり、怯えながら俺から距離を取った。


『あぁ……素晴らしい魔力だ。生前あまり期待していなかったが、なかなかに美味い魔力じゃないか』


 グラムが剣に付いた血と魔力を美味しそうに脈動しながら吸っていた。


 きっも、新機能増えすぎだろ。

 もう聖剣じゃなくて、魔剣じゃん……


「ガァァァァ‼︎」


 突如、横から咆哮が聞こえた。

 それに驚いたブラッディベアーはそちらに顔を向ける。


 誰かはわからないけど、アシストありがとう!


 心の中で咆哮してくれた誰かに感謝をしながらブラッディベアーの懐に入った。

 俺は三日月を描くように身体を回しグラムを振るう。


 骨を切る手応えすらなくスパッと回転したが、グラムにはベットリと血が着いていて歓喜に震えながら脈動をしていた。

 俺は大量の血液を被る前に急いで懐から離れグラムから血を払う。


『あぁ……相棒。まだ吸っていたのに』


 うるさい!


 ドンっと音を立ててブラッディベアー上半身と下半身が泣き別れして倒れた。

 それを見て歓声でも上がるかと思ったが、そんなこともなく獣人たちとの間に妙な静寂が訪れる。


 コ、コミュ力雑魚なんですけど。

 ど、どうすればいいんですか?


 ゴクリッと誰かが唾を飲んだ音が聞こえてくる。

 そんな緊張感に包まれた中、体躯が良い縞模様の獣人が近づいてきた。


「助太刀感謝する。俺は<虎人族>のレーグだ」


 さっきの咆哮の声質と似てるし、さっき援護してくれた人だよね?


 虎人族のレーグが俺に感謝をするが、なぜか鼻をひくひくさせながら頭を傾けた。

 すると奥からもう一人の獣人がやってくる。


「すまねえな。俺らもなんとかしようとしたが、人間どものせいで混乱状態に陥ってな。助かったよ、俺は<狼人族>のヴァンってもんだ」


 なぜかこっちの狼人族さんは鼻を動かしている。


「おい……レーグ。この兄ちゃん何もんだ? 半分は人間の臭いだけど、他に混じっている臭いは……嗅いだことがないんだよな」

「俺も初めて嗅いだ臭いでわからない」


 レーグとヴァンはこそこそしながら会話しているつもりなんだろうが、俺の目の前で堂々と話していた。


 丸聞こえですが。


「初めまして、戦士レーグ、戦士ヴァン。私は――旅人のエインセル、残りの半分はエルフです」

「エルフ? どこかで」

「……エルフ? なんだそりゃ」


 それぞれが違う反応をしたがすぐに切り替えて俺の顔をまじまじ見る。


「まぁ耳も長いし。半分人間なら大丈夫だろ、悪意も感じないし」

「ヴァン。お前が言うなら俺はとやかく言わないが……まぁいい、改めて感謝するエルフの旅人エインセル」

「当然のことです」


 俺がそう言うと狼人族のヴァンが俺に手のひらを差し伸べてきた。


「助かったよ、エインセル」


 続け様に俺に手のひらを差し伸べてくる。


「よかったら集落に来てくれ、歓迎する。もし俺たちだけだったら仲間たちにもっと死傷者が出ていたかもれないからな」


 ヴァンは続け様、俺に集落の誘いをかけてきた。


 集落? 集落かぁ……


「安心してくれ、何も取って食らうわけじゃない」


 黙った俺が不審に思っているように見えたのか、横からレーグが苦笑いをしながら答えた。


 うーん。この人たちも悪そうに見えないし、もし森の賢者になったら近隣の集落さんとの付き合いも必要だよなぁ、よし!


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさていただきます」


 この森の賢者カッコ仮に美味しいサラダ用意しな!


 俺の言葉に安心したのか隠れて伺っていた獣人たちが現れる。

 彼らはテキパキと倒れ伏している獣人の治療を始める。


『ほう。隠れていたのは気づいていたが、珍しい獣人もいるな』


 グラムの言う通り二足歩行の牛の獣人や馬、狐といった様々な獣人がいた。

 さすがに棒立ちで見てるだけなのもあれだと思い、俺は倒れ伏している獣人に近づく。


 その獣人は見るからにつらそうにして喘いでいた。

 俺は少しでも和げないかと思い治療魔法を唱える。


《大地よ、癒しの恵みを》


 地面からは間欠泉のように魔力が湧き出し、その獣人だけではなく周囲にいた他の獣人たちにも吸い込まれていく。

 見る見るうちに彼らの傷口が塞ぎ、荒い呼吸していた獣人もゆっくりとした呼吸になる。


『相変わらず、相棒の魔法はとんでもないな』


 グラムがボソッと呆れ声で言った。


 聞こえてるぞ


「あ……ありがとぉ。お若いのぉ」


 馬車にもたれかけている獣人のお爺さんが感謝をしてきた。


「お気になさらず」


 俺は老人に肩を貸し遠くからやってきた獣人の馬車に乗せる。

 周囲には事切れている獣人も多かったが人間に比べればマシだった。人間は一人残らず全員死んでいたからだ。


『ふん』


 グラムのつまらなさそうな鼻息が嫌に頭に残った。

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