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プロローグ

 う、うーん。

 起きる、起きるから、あと一時間したら起きるから……

 すやぁ……


 適当に言い訳をして無視するが、身体をすごい揺らされる。


 わ、わかった。あと十分! あと十分……

 すやぁ……


 今度は身体攻撃だけではなく、耳元でもモゴモゴ喋りかけられる。


 んもう。さっきから、誰?

 めちゃくちゃ揺らしてくるじゃん。はいはい、起きますよ、起きます。


 俺は不機嫌気味に目をゆっくりと開ける。

 とてつもない大きな手が俺の頭に向かって迫ってきていた。


「お、おぎゃー‼︎」


 ぴゃー‼︎ きょ、巨人ー‼︎ 食われるー‼︎


 その手から逃げようと、もがくが身体がいうことを聞かない。

 俺はパニックになりながらも巨人を怯ませようともう一度大声を出す。


「おぎゃぁぁ‼︎」


 うん⁉︎

 なんで俺、赤ん坊みたいな声が出てるんだ⁉︎


 巨人は驚き固まった俺の頭を優しく撫でる。

 その手つきはすごく優しく、睡魔に襲われる。


 すやぁ……ハッ!


 が、なんとか踏ん張り、目をかっぴらき巨人を睨みつける。


 一瞬意識が飛んだのは気のせいだ!


「*****? ********」


 俺の鋭い眼光に気づいた巨人が何かを発する。


 ふむぅ……全く理解できん!


 身体だけじゃなく視力まで悪くなっていて、巨人の姿がぼんやりと写るだけだった。

 俺は目を細めて睨みつけてみる。


 それでようやくなんとか巨人が金色長髪なのが認識できたが、それ以外は相変わらずわからない。


 俺が鋭い睨み攻撃をしているというのに、巨人は俺に怖気付くこともなく身体を持ち上げた。


 クッ、俺はただでは負けんぞ‼︎

 お前の聴覚を壊してやる‼︎


「おぎゃぁぁ‼︎」


 巨人に対して嫌がらせで大声を出し、しっちゃかめちゃかに暴れる。

 そんなことに何の意味はなく、なんなく巨人の胸に抱きかかえられた。

 その瞬間、眩い光に包まれ俺の目がやられる。


 ウガァ‼︎


 目が焼けるような痛みから小ちゃなお手手で何度も目を摩る。

 少しずつ光りが収まっていきゆっくり開くと視力が戻り、普通に見えるようになっていた。


 俺は固まる。


 巨人の顔を見るとゾッとするほど綺麗だったから?

 違う。巨人の横に生えていた耳が異様に長かったからだ。


 み、耳長巨人……? こわっ


 馬鹿なことを考えていると巨人は無表情のまま俺の頭を撫でる。

 そのせいでまた俺の愛くるしい瞼が重力に引っ張られた。


 ま、負けんぞ!

 俺を倒せ、すやぁ……


「……お休み。私の……可愛い……エインセル」


 微睡みに落ちる寸前、なぜか今まで理解できなかった言葉がすんなりと頭に入ってくる。

 俺は暖かい何かに包まれがら、涎を垂らし眠った。



 ◆◇



 清廉さ漂う空気の中、男性が座っている。

 部屋に入る日差しによって、男性の髪はキラキラと黄金のように輝かせていた。


 何かを思案しているのだろう、憂いに満ちた雰囲気だ。


 おそらく机の上に置いてある一枚の紙のせいだろう。

 そこには帝国東部の伯爵家が帝国に不満を持っていると書いてあった。


 男性は情報を処理するように髪をかきあげると、そこから尖った耳が出てきた。


 不満、不満か――面倒な。まるでそんな心の声が聞こえてくると、同時に部屋中に圧がかかった錯覚に陥る。



 そんな男性の心を見てみよう。


 ビーフオアチキン……ビーフ、オア、チキン――いやフィッシュ、ポークも捨て置けないな。

 料理人め、いつも美味しい料理を出しやがって! ありがとうな!


 実際にはそんなことはなく単純に、今夜の晩飯を何にするかを考えているだけだった。

 彼は大陸最大の領土を有している皇帝、名をエインセル。


 かきあげられた髪がパラパラと戻り、紙を手に取って続き舐めるように読む。

 そこには帝国騎士を数十名を派遣済みの上、いつでも鎮圧及び制圧できるとある。


 えぇ、なんでぇ。

 ど、どういうこと? 俺そんな指示した覚えすらないけど


 手が震えるのを我慢して、深く息を吸い目を瞑った。


 だ、だめだ。

 やっぱり意味がわからない。


 フーっと息を吐いて目を開けると、いつのまにか机の先に人がいて驚いた。


 そこにはまるで精巧な人形で作られたようなの人物がいた。銀色の髪を後ろに束ね、耳の先端はエインセルと同じように尖っている。

 名前はアンネリーゼ。エインセルが皇帝に即位した時、すぐに宰相へ任命した男装の女性だ。

 切れ長の目のせいで気が強く見えるがエインセルを見る表情はどこか優しい。


 び、びっくりした。

 入る時ちゃんとノックした?


 エインセルの視線に気づいたアンネリーゼが一礼をする。


「勇者召喚の儀は無事、成功いたしました。陛下」


 なんのこと?


 疑問符に襲われ困惑しまくっているエインセルだが、表情筋が死んでいるのか無表情のままだった。


「万全を期して、近衛兵とそれに付随する……者達もすでに待機しております」


 勇者……勇者……あ! そういえば前にアンネさんと軽く雑談した時に勇者の話をした気がする。

 え、それだけで召喚したの?


 アンネリーゼが少し言い淀んだことにエインセルは気づいていない。


「そうか」


 ま、まぁ、うん……ちょうどいい。

 その勇者君もとい、勇者ちゃんを伯爵家に行ってもらって解決してもらおう。

 今日の俺は冴えてるぜ!


 何が冴えているかわからないが、エインセルは持っていた紙をアンネリーゼに渡す。

 受け取ったアンネリーゼは一瞬、固まる。


「承知しました。陛下」


 エインセルはアンネリーゼが固まったことにハテナになったが、「まぁいいか」と思い椅子から立ち上がる。


 ふー。いっちょ勇者様の顔を拝んで、先輩として揉んでやるぜ。


 立ち上がる時、机の横に立てかけてあった禍々しい剣が目に入った。

 それに気づいたアンネリーゼが声を出す。


「聖剣は……」

「よい」


 こいつ、いつも小言ばっかでうるさいからあんまり帯剣したくないんだよ。


「申し訳ございません。差し出がましいことを」

「謙遜するな。お前の忠義にはいつも助かっている」


 言い訳をするようにでまかせを並べると、アンネリーゼは深々と一礼した。


 いつもは口うるさくあのアホ剣を持って行けっていうのに今日は珍しいね。

 体調が悪いのかな、大丈夫?


 疑問に思ったが蒸し返されてもめんどうに思ったエインセルは特に指摘することもなく、そのまま部屋から出た。

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