死にそこなった僕-5
「仕方ないだろ……初日だし。それに僕は本来だったら二年生になってるはずで……」
机に肘をつき、ぶつぶつと不満を訴える僕に「ねえ」と長門が問いかける。
「なんでそんなに自分が一番不幸だ、みたいな表情するの?」
カチッと僕の脳内のスイッチが入る音がした。「はあ?」と不機嫌な声が出たかと思うと、長門に掴みかかりそうな勢いで立ち上がり、言葉が次々に出てくる。
「不幸じゃなきゃなんなんだよ! 希望していなかった高校に入って! おまけに病気で一年も無駄にして同級生より一学年も下になって…! 病気じゃなかったら滑り止めに受けた高校に過ぎなかったのに……!」
教室の雰囲気が一気に変わった。それまで、物珍しそうに――でも、どこか同情のような感情が入り混じった目が、軽蔑のそれに変わった。視線が僕に集中する。注目に耐え切れず、僕は長門の腕を掴んで廊下へ出た。
「何?」
廊下に出たものの何を言うべきか分からず、僕は押し黙った。
「……ごめん」
僕がそう呟くと、長門も「こっちこそ言いすぎちゃったね」と頭を掻いた。
「とりあえず――私は日下部くんのこと友だちだと思ってるからさ。何かあったら言ってね、できることはするからさ」
僕は「ありがとう」と短く答えた。おそらく、長門は本当に復学初日の僕を心配して様子を見に来てくれたのだろう。そう思うと自分の大人げない、子供じみた態度に嫌気が差す。
「じゃあ、自分の教室に戻るね」
そう言って背を向けた長門。しかし、すぐに振り向くと「私のせいでクラスに馴染めなくしちゃったらごめん」と泣きそうな顔をして僕を見た。
その言葉の意味が分からず「なんのこと?」と聞こうとした瞬間、僕は自分が教室で言ってしまったセリフを思い出した。
やってしまった……。
僕の本心とはいえ、この高校を第一希望に選んで入学したクラスメイトたちはどう思っただろうか。本音だったとはいえ、僕が一つ下の学年になったことを不本意に思っていることをクラスメイトたちはどう感じただろうか。そんな僕と打ち解けようなんて考えるような人間はいないだろう。
長門が去った廊下から教室に足を踏み入れると、クラスメイトたちはわざとらしく僕から視線をそらした。なかには睨むような目で見てくるクラスメイトや蔑んだような表情をする人もいた。僕は誰とも目を合わせず、ゆっくり自分の席に座った。
僕は、つくづく運がついていない。長門があんなこと言わなければ……。いや、長門のせいではなく、僕自身のせいだ。
復学初日――というか、高校生活初日から『ぼっち』決定である。