死にそこなった僕-4
案の定、一限目が終わっても二限目が終わっても僕に話しかけてくるクラスメイトはいなかった。僕は本当に運がついていない。というか、運に見放されたのか? 見放したのは神様か? まあ、神様なんて信じてもいないけれど。
心の中で悪態をついていると、ポンと肩を叩かれた。
「え?」
驚いて目をやるとそこには、にかっと歯を見せて笑うアイツがいた。
「お……お前、何で……?」
「何でって、そりゃ同じ学校じゃん」
僕の肩を叩いたのは長門葵衣。僕と同じ中学校出身の高校二年生。つまり、同い年。
とはいえ、中学じゃほとんど会話したことも無い。なのに、この長門という女子はどこから聞きつけたのか、僕が入院してすぐのころから病院に頻繁にやって来た。抗がん剤の治療や無菌室に入っていたときは面会謝絶で、会わなかった時期もあるが、なぜか二週間に一度は僕の病室を訪れていた。
「同じ学校でも、お前は二年だろ? 教室が違うどころか階まで違うのに……」
「だって昼休みじゃん? 階が違っても友だちのクラスに顔出したって問題ないでしょ?」
「友だちって……」
「え、違うの? じゃあ彼女?」
思わず「そんなわけないだろ」と大きな声が出てしまった。ちらちらと様子を窺うように僕らを見ていたクラスメイトたちが一斉にこちらを見てくる。長門はそれを気にする様子もなく、今は昼休みでいない、僕の前の席の名前すらまだ知らないクラスメイトの椅子に座り、こちらを見る。
「まあ、看護師さんたちに何度も同じこと聞かれても否定してたもんね、頑なに」
何がそんなに楽しいのか。彼女は僕のことをニヤニヤしながら話しかけてくる。
「嘘はついていないし、嘘をつくのも嫌だし……」
「真面目だねえ」
馬鹿にしたような言い方に感じた僕は返事をしなかった。長門はそんな僕を気にする素振りもなく、言葉を続ける。
「そういえばうちのクラス、めちゃくちゃ綺麗な子がいてさ」
「……へえ」
「日下部くんも綺麗な美人さんには興味ある?」
「別に」
「あ、女の子には興味ない系? それともただの草食系男子?」
「……何が言いたいんだよ」
「特にないよ。ただの世間話。せっかく日下部くんが復学したんだし、顔見に来ただけだよ」
長門はそう言いながら教室をぐるりと見渡す。「馴染んでないねえ、日下部くん」と何とも言えない表情で僕を見る。