死にそこなった僕-3
一年C組の教室に入ると、生徒たちが一斉に僕の方を見た。それもそうだろう。担任が連れてきた見たことのない生徒。転校生が来る時期でもないというのに……。
「あれ、誰?」
「知らなーい」
「あ、もしかしてずっと休んでた人?」
「あー、本当は一つ年上の人って噂の?」
「そうじゃない? 高校入学前に問題起こして一年間停学のままだったって人でしょ?」
「そうなの? 私はなんか事件起こしてとりあえず休学になったって聞いたけど……」
どこからどこをツッコめばいいのか……。というか、どう訂正していけばいいのか。
そもそもそんな噂になっているくらいなら教師側から何か説明してくれてもいいのではないだろうか。
「ごめんね、センシティブな内容だったから……」
僕の考えに気付いたのだろうか。溝口先生がコソッと僕に耳打ちする。
「いえ……」
ざわざわとさざ波のようにあちこちから聞こえてくる言葉。僕は、ふうっと息を吐いて「日下部晃です」と名乗った。
急に静まる教室。居心地が悪い。
「病気療養のため、一年以上休学していました。今日から学校に通えることになって嬉しいです。よろしくお願いします」
僕が礼をすると、パラパラと拍手が起きた。戸惑っている――というのが、見なくても伝わってくる。それもそうだろう。
一歳年上。本来であれば先輩となるはずのクラスメイト。
社会人になれば一歳、二歳年上なんて誤差の範囲だろう。でも、学校はそうじゃない。たった一歳の違いで「先輩」と「後輩」と呼ばれ、上下関係が生まれる。
まだ、四月の入学式のタイミングで同じクラスで顔を合わせていれば、違った印象を受けたのかもしれない。今はもう五月。特定の仲良しグループも出来ているだろう。クラス内のポジションもある程度決まっているだろう。
ましてや「病気療養で一年以上休学」していた相手が復学してきたのだ。それが事実であれば、重い病気を患っているとすぐに分かる。嘘ならば本当の理由を隠す必要がある危険人物だ。それを確かめようとするのは、自ら地雷を踏みに行くようなものだ。パンドラの箱を開けるに等しい。