死にそこなった僕-2
「日下部くんは本来だったら二年生ということになるんだけど、一年以上休学していたということで一年生からスタートということになります」
「はい。それは理解しています」
「担任や教師間ではその理由を共有しているけど、生徒たちは日下部くんの病気のことはほぼ知らないと思ってくれて構わない。話すか話さないか、誰に話すか――誰にも話さないか、それは日下部くん自身で判断してもらっていいから」
僕は頷く。教師たちが特に僕の休学の理由などを生徒に言っていないなら、おそらく、僕の休学理由や病気のことを知っているのはアイツだけになるのだろう。
「日下部くん、体調面で何か気になることが出て来たときや調子が悪いと思ったときはすぐに教えてください。もちろん、体調以外のこと――勉強面とかクラスメイトのこととかも気になることがあれば言ってください」
そう言って僕ににこりと微笑むのは、僕の担任となっている溝口京子先生だ。溝口先生は僕の復学決定と同時に担任になることが決まってから数度、家に来たことがある。
「分かりました。ありがとうございます」
教師たちとの面談を終え、母は帰って行った。
僕はそのまま、担任の溝口先生と共に教室へと向かった。校舎の四階にある一年C組の教室だ。ちなみに二階に三年生、三階は二年生の教室という配置になっているらしい。また、二号棟や三号棟もあり、そっちには音楽室や理科実験室、図書室などがある。
これは教師たちから教えてもらったわけではない。入院中、暇で暇でしょうがなかった僕は意味もなく、自分が四月から通うはずだった高校のパンフレットを眺めていたのだ。校舎内の地図や部活案内、は穴が開くのではないかというほど見ていた。
そして、未練がましく捨てられなかった公立の進学校のパンフレットも同じように見ていた。
もしもあの時、熱が出ていなかったら……。もしも病気になっていなかったら……。いや、逆に一年――せめて半年くらい前に分かっていたなら……。僕は、第一希望のこの高校に行けていたのではないか。ごく普通の高校生活を送ることができたのではないか。
そんな「たられば」が僕の頭を占めていた。さすがに自分が情けなくなり、公立高校のパンフレットは夏前に破って捨てた。