プロローグ-3
――悪い結果なんだろうな。
医者は僕を見て、軽く息を吐いた後「これが血液検査の結果なんだけどね……」と言葉を発した。
一枚の薄い紙を僕の前に置く。理科の授業で聞いたことのある文字や見覚えのないアルファベットの略称が並び、その横には正常値と今回の僕の数値であろう数字が並ぶ。
「熱が出ている場合、感染症が考えられる。その場合、CRPという炎症反応の数値は上がる」
そう言って赤ペンを取り出し、ある項目に丸印を描く。
「ここの数値、これが白血球の数ね」
WBCと書かれた項目に赤丸がされ、僕の数値に赤線が引かれた。正常値は3000から8000と書かれているそれは、僕の数値が異常であることを示していた。
「今日の日下部さんの数値は14万……明らかに異常な数値になっている」
隣に座る母の手が震えているのが横目に見えた。
「大学病院に紹介状を書くので、なるべく早く受診してください。詳しい検査をしてもらえると思うから」
「あの――」
医者がゆっくりと僕の方を見る。その目からは何も読み取れない。医者は嘘を吐くのが上手いのかもしれないなとふと思った。いや、誤魔化すことに慣れているのか……。
「僕、重い病気ってことですか?」
「――まだ、何とも言えないよ。とにかく、大きな病院で診てもらって、きちんと詳しい検査をしてからじゃないと何とも言えないんだ」
昨日、スマホで調べた病名が頭をよぎる。心臓の音が痛いほど強く、大きくなる。呼吸も息苦しい。でも、それは僕が生きている証拠のように感じた。
翌日、僕は紹介状を手に医大の附属病院を受診した。さまざまな検査を受け、医師に告げられた病名は、僕がスマホで何度も目にしたものだった。
「急性骨髄性白血病です」
僕は、とことん運のない男だ。
中学生と名乗れる最後の日、僕は長い長い入院生活とツラくて過酷な治療を始めることになった――。