優等生のカノジョの秘密-2
「君は誰?」
透明感のある声が僕の耳に届く。彼女の大きな瞳が僕を捉える。僕は金縛りに遭ったようにそこから動くことも声を発することもできなかった。
息を吞むほどの美しさ、というのは彼女のための言葉なのだろうか。そう感じるほど、彼女は美しかった。手足も長く、顔立ちもハッキリしていてモデルをやっていても違和感はないだろう。体育館で見た時は黒髪に見えたが、太陽の光の下にいる彼女の髪は淡い茶系の色にも見える。
「あ……えっと、その……」
僕は自覚できるほど、狼狽えていた。「誰?」と聞かれたのだから、素直に名前を答えればいいだけなのに思うように言葉を発することができない。心臓がやけにうるさい。口が渇き、舌が上手く回らない。こんなことは初めてだ。
「――日下部、晃……くん?」
「え……」
僕は自分の名前を彼女に告げただろうか。いや、そんな覚えはない。
「同級生の二年生や上級生の三年生なら見覚えがあるけど、君の顔はまだ知らない。だから多分、一年生。でも、わざわざ一年生が一人でこんな人気の無い屋上なんて来るわけがない――そうなると、必然的にクラスの輪に溶け込めていなくて時間を持て余している可能性が高くなる」
言い当てられた恥ずかしさなのか、これまで出逢ったことのないほどの美しさを持つ彼女に見つめられているからなのか……。僕は何も言葉を発することができなかった。
そして気付いた。彼女が持っている、それに……。
「今、一年生のなかで明らかにクラスや学年に馴染めていないのは、復学した君くらいだよね――日下部くん」
ニッコリと笑顔を見せる彼女だが、言葉には少なからず棘を感じる。僕は変わらず言葉を発することはできず、彼女が右手に持っているそれを見つめていた。優等生には当然似つかわしくないし、校則どころか法律上ですら、未成年者には禁止されているそれ。
僕の視線に気付いた彼女は「ああ、これ?」と言い、僕が見つめているものに目を向けた。