優等生のカノジョの秘密-1
高校に入ってガッカリしたことの一つは、屋上が立ち入り禁止だったということだ。ドラマや漫画で描かれていた「屋上でお昼ご飯を食べる」や「屋上に呼び出して告白される」なんていうのはただの幻想だと知った。
復学して一カ月が経とうとするというのに、僕の高校生活は相変わらずだった。長門以外に話し掛けてくる人間はいない。クラスメイトとも必要最低限の会話しかしていない。
それも当然だろう。僕は復学初日に教室で「こんな高校に入る気はなかった」なんて言ってのけたのだから。高校生活を楽しもうとするクラスメイトや第一希望で入学した生徒が「バカにしている」と感じても仕方ないと思える。そのため、僕は相変わらず「ボッチ」の高校生活を送っているというわけだ。
教室で手持ち無沙汰になると、僕はフラッと廊下へ出る。校舎内を自由気ままに歩いて、始業の時間まで暇つぶしをする。そんなときに「屋上へ行ってみるか」と思い付いたわけだが……。僕の期待を裏切り、屋上のドアは鍵が閉められ、ノブをいくら回してもうんともすんとも反応は無かった。
屋上が開いていないことは生徒全員が知っているのか、屋上へと続く階段付近にも生徒はおろか先生すらもやって来ない。誰も来ない環境であるなら、ここでもいいか……と僕は頻繁に屋上手前の階段で一人、本を読みながら時間を持て余すようになった。
今日も僕はその階段へとやって来たわけなのだが――何かが違うと感じた。頻繁にここへ来ているから抱く違和感。
僕は引き寄せられるように閉まっているはずの屋上のドアに近付いた。おそるおそる、それに手を伸ばし、右に回してみる。やけに大きな音がした。ギギーッと重く古びた音が響く。
「……開、いた?」
僕は重いドアを押し、初めてそこに足を踏み入れる。強い光が僕を襲う。吸血鬼が太陽を浴びたらこんな気持ちになるのかな、なんてことを思ってみる。
薄暗い校舎に慣れていた目に太陽の光は眩しすぎる。僕は、思わず目を細めた。無意識に太陽の方へ手を伸ばして、強すぎるその光を遮ろうとする。
「誰?」
声がした。女性の声だ。
先生だったらどう言い訳しようか。「開いてたから入って大丈夫だと思いました」なんて理由で、誤魔化すことはできるだろうか。というか、鍵が開いているのだから誰かがいるのは当たり前だ。ろくに確認もせず、好奇心から屋上に入ってしまった自分自身に腹が立つ。
僕は声がした方に目を向けた。太陽の光に少しずつ慣れた目が、その人の姿を認識していく。
「え……高階、さん?」
そこには長い髪をおろしたまま、風になびかせている高階紗英が立っていた。全校集会ではポニーテールにしていたから分からなかったが、彼女の髪はゆるくウェーブがかかっている。