僕とは住む世界の違うヒト-2
「あ、やっぱり日下部くんも綺麗な美人さんには興味あるんだ?」
「その流れも前回と一緒。話が進まないんだけど、何?」
長門は「あ、ごめんごめん」と謝り、話を戻した。
「その美人さん、生徒会長なのね。今朝、全校集会で挨拶してたの覚えてる?」
「……高階、さん?」
長門は驚いたように目を丸くして僕を見た。
「日下部くんが名前覚えてる! やっぱり日下部くんも綺麗な美人さんには――」
「興味とかじゃなくて! ていうか、この流れ何回繰り返す気だよ」
俺は苦笑いしながら、昼食用の焼きそばパンを頬張った。
「だって私の名前覚えるまで、ものすごーく時間かかったじゃん。なのに高階さんは一回で覚えるってことは興味あるってことでしょ?」
確かに長門の名前と顔を覚えるまでにかなり時間が掛かった。同じ中学校だったとはいえ、初対面は僕が入院した病院だった。
いきなり、病室に入って来て「日下部くん?」と言われても僕は長門に見覚えすら無かった。急に話し掛けて――それも見ず知らずの人間の病室を突然訪ねてきた「変な女子」としか認識できなかったのだ。
「いや、長門が病室に初めて来たときは僕も余裕なかったし……」
それも事実だ。嘘はついていない。
いきなり「君は急性骨髄性白血病です。入院が必要です」と言われて、僕の世界が一変した時に現れた長門。自分のことで手いっぱいというより、自分の置かれた状況すら呑み込めないのに長門の名前を覚えている暇はなかった。――とまで言うのはさすがに気が引けたので黙っておいた。