その者、悍ましきことこの上なし。
「背中を狙え!中にいるぞ!」
ロイさんが叫ぶ、背中と言ってもそもそも足が竦んで思うように動けないのだからスピーディーに回り込むなんて不可能だよ。
立ち込める腐乱臭にえずきそうになるのをぐっと我慢しクワを前に振ってつかず離れずをたもつが正直此奴が何で動いてるのか全くわからん。
これだけの腐臭、肉が腐っているのは丸わかりだが、肉虫と言うものが取り付いて動いているのかそもそもが擬態なのか。
幸にも動きは極めて遅いから避ける分には問題無い。
「この……大人しく死んでいやがれ!」
ロイさんがバスターソードみたいな大剣でぶん殴る、動きとしては彼はちゃんと戦士のうようだ。
所謂ヘイト管理をしっかりしてくれている事で私の方にあまり攻撃が来ない、少しずつ冷静になってきたからこれならやれるか。
そんな希望、一撃で吹き飛ばされたさ。
うん、物理的にね。
「おい大丈夫か!」
正直今何が怒ったのか私には理解ができなかった、肉虫が腕を振った際に伸びきった関節にクワを振り下ろしてやろうと思ったら呆気なく掴まれ、そのまま放り投げられたのだ。
外側の人間の体ではなく、手のひらを突き抜けて飛び出すおぞましい灰色の…何だろう、触手的な何かに。
しかしクワを力強く握っていたのはまだ不幸中の幸いと言えるだろう、下手をすればそのままこの農具で殴られていた、そうすればきっと私は地面に脳の一部を垂れこぼし静かに雄大な大地に還っていく事になった筈だ。
「ご……あっ……」
背中から木の幹に叩き付けられ背骨が粉々になったような錯覚を覚えた、タロスの激励のハグ以来だこんなの。
まあつまり折れてない、なら立てるさ。
「何ですかあれ…いってぇ……」
訂正、立てない。
どこかが折れた感覚は無いのだが一撃で心がポッキリ言ったのかもしれない、もしくはアドレナリンで気付いてないだけで普通に折れているのか。
「馬鹿野郎あれが肉虫だ!」
私を無理やり立ち上がらせたロイさんがそのまま剣で相手を指すと樹木の根に引っかかり前に倒れる姿が見えた。
その背中には、先程私の攻撃を掴んで放り投げた色と同じ触手。
その本体がいた。
肉が削げ背骨が露わになっているであろう位置に骨格に巻き付くように鎮座する暴力的な見た目の生物。
少なくとも私はあんな生物を知らない、あれほどの力を瞬間的に出すとなると骨格を他の生物から借りて全身の筋肉で作動させる寄生虫の類いなのだろうか?
これはもっと隅々まで見たいが、恐らく死ぬので今は戦いに集中だ。
「ロイさん、奴の弱点は…」
大腿部をぺちぺちと叩き震える足にかつを入れる。
まだやれるだろう私の体!
無理!
よぉし、逃げていいかな?ロイさんを囮に走れば逃げられるかな?
まあその場合村に戻ってさっきの惨殺シーンをリテイクするだけになるが。
「だから弱点は背中だ!」
「いつもはどうやって倒しているんですか!」
「寄ってたかって殴りゃあその内動かなくなる!」
何で2人で来たんだよ。
物量でしか攻略出来てない生物をたった2人で……何なら実質1人で戦う気なのかこのおっさんは。
まあ弱点が背中はわかった、多分そこに脳があるんだろう。
だがいくら軽いと言え私を放り投げる腕力はまずい、そもそもあれはミミズか?蛇か?まあ恐らく既存の生物でにたところではタコ的な何かなのだろう。
ネタが割れればどうということは…あるけど無い。
「ロイさん、さっき転んだところを見るとこいつは足元はあまり見てないのかもしれない。」
「見りゃわかんだよそんなもん!」
だよね、さあどうしようか。
クワは放り投げられる際にへし折られたので先っぽがない、ぶっちゃけヒノキの棒みたいな物だ。
ヒノキよりは丈夫だろうけど。
まてよ?後ろに本体があるならどうして私の攻撃を簡単に受け止めた?
あの反応速度は確実に見ていないとできない、音だとラグがあるからな。
職種に眼球のような機関は見えなかった、サーモか?
「全身ピット器官の蛇擬き…なら、逃げられないな。」
私が考えている間にもロイさんは果敢に戦っている、だが長くは保ちそうにないな。
触手がいつ飛び出すかわからないからか動きづらそうだ、と言うか私を守ってるからか。
「おい学者、そろそろいいか!?」
しまった、思考していないと死ぬが思考しているとそっちに集中してしまう。
「ロイさん、私が合図したら前に剣を向けて突貫してください。」
「ああ!?死ねってか!」
「やらなくても死にます、準備を。」
モットーはどうせ失敗したら終わりだし全力でやろう、だ。
と言うわけで私は所々血の染みだったり泥汚れだったりが付着した白衣を脱ぎ、別れの挨拶を告げると物言わぬ動く死体に全力でなるべく広く被せた。
「今!」
「うらぁ!」
前傾姿勢から真っ直ぐ体を投げ出すように走り、全体重を乗せた刺突。
死体をいとも容易く貫き、胸部に湧いたうじの様な謎の虫を散らしながら背後の肉虫を狙った一撃。
流石に一度死んだ身にそれは耐えられるわけもなく…て言うか背骨が切断されたみたいだな、骨格として機能しないのだろう、動かなくなった。
ふっはっは、後ろに回り込むのが厳しいなら正面から貫通させてしまえばいいのだ、サーモセンサーなぞ私の汗が染み付いて暖かい白衣を被せられれば一瞬くらいは動かなくなるしな。
そのかいあって私の白衣は死体の腐り汁と謎の生物の体液に塗れ、なおかつ巨大な穴が空いてしまった。
はは、きったね。
「……ギリギリでしたね。」
「いや、いつもなら前衛2人くらいは死ぬか怪我する…上出来だ。」
2人しかいねえのに2人は死ぬようなやつと戦わせたの…?
「そんなに犠牲がでるのに良く村が保ってますね…」
「普段はこっちに来ねえからな…ほらこの服、向こうのヘレンデンの村の奴だ。」
大剣を胸部から引き抜き、白衣を剥がすと顔見知りでは無いようだが特徴的な兜飾りの半分腐った死体の顔があった。
「縄張りを主張する程度に頭がいいのか…死体はいただいても?」
「構わねえよ、気味悪がって誰も食いやしねえ。」
それは重畳、と言うか流石に食わないのか。
上手く料理すれば食えないことはないかもしれないが何分死体に取り付く暫定不明の生命体を焼いて食おうとは私も思わない。
て言うか衛生面が怖い、人間を食った生物を補食し直すとなると何らかの病にかかりそうな気がする、昔あったろ?牛が脳みそスカスカになっちゃう奴……む、また牛か。
それはともかくとして許可がおりた。
ではでは、と遺体をひっくり返して早速確認しようじゃないか…この未知の生物…を?
「……空っぽだ。」
「あん?」
空っぽなのだ、先程まで抉れた背中にすっぽりと納まっていた生物は数本の細かな触手をのこして消え失せ、そこには切断された背骨などがあるだけだった。
では中身はどこへ?
先程の決死の攻撃は外れたのか?
否、飛び散った体液は確かに触手の化け物から溢れていたはずだ。
「後ろだ学者ぁ!」
何かを疑問に思う前に背後を見た、目に映るのは木にへばりつき此方の様子を伺ってたであろう無数の触手を携えた生物。
そして、今まさに飛びかかり新たな宿主を作ろうとしているという絶対的な意思を確かに感じ取った。
これ、死……
テスト期間で長らく書けておりませんでした!
ごめんなさい!




