人の理が通じない故のファンタジー
タロス氏の屈強な背中に揺られながら野山を爆走していると既に木々の影で薄暗くなった道の奥に光が見える、どうやら日の光ではなく文明の光のようだ。
そして何故か私は手を後ろに組まされそのまま手首を荒い縄で縛られたまましっとりと水気のある地面のみ上に打ち捨てられた。
抵抗?はは、できると思うか?
まあまあとはいえあくまで冷静に行こう、深呼吸していつも通りの思考回路を取り戻し慌てず気をつけて丁寧に話せばきっとすぐにでもタロス氏が助けてく「タぁロぉスぅ!貴様何故今人間などこの村に連れてきたぁ!」
地面に転がされてるから見えないがやや高めの女性のような声色でとんでもない怒号が聞こえた、迫力的には幼い頃見た映画のティラノサウルスの咆哮のようであった。
若干の脱水症状のおかげでズボンを汚さず済んだことは幸運と言えるだろう。
ひとまず辺りの声に耳を傾けよう、場合によっては私のこれからを決める大切な話なのだから。
「落ぢ着けイザベラぁ、行ぎ倒れてたから拾ってやっただけだぁ…」
「だがもし村の人間であったらどうするつもりだ!まるで誘拐ではないか!」
「その心配はねぇ、こいつは流れだぁ…こごいらの者じゃねぇよ。」
「…別の世界から来たと?そんなものを信じたのか!」
背中にめっちゃ視線を感じる、縛られながら冷たい目線とか目覚めてしまうじゃないか…いやこれとっても険しい顔してそうだな…本当に言葉間違えたら挽き肉ルートか。
「おらぁは戦争がしてぇわけじゃねえ…弱ぇ者を守るのがカウル様の教えだぁ…」
「だが貴様の勝手な行動で村長のやってきたことが全部台無しになってしまうかも知れないのだぞ!」
「責任の取り方ぁわがってる…それに、おらぁは賢くねえがらな、難しいこたぁ良ぐわがんねえけど…上手く行く気がすんだぁ。」
「そんなものただ勘ではないか!」
「…あのすみませ「貴様は黙っていろ!」
参ったな、泣きそうだ。
どうやらイザベラ氏?は人間を嫌っている様子だがどうにも恐怖や敵対と言うよりはどちらかと言えば嫌悪に近いような印象を受ける。
この世界での人間の立場がどの程度のものなのかはまだわからないが戦争という言葉の通りで行くならば場合によっては敵対も辞さない種族という扱いが無難なところだろうか。
とにもかくにも人類文明や技術レベルを知らないことにはめったな事は言えないが現時点では人類がこの仮称ミノタウロス族に勝てるビジョンが一切見えない。
「………村長に取り次ぐ、沙汰は長が決めるが貴様にはその人間の監視を命じるぞ」
「構わねぇ…どうせ逃げやしねぇだろうしなぁ」
そう言うと私を縛る縄を切ってくれた、どうやらこの場で惨殺ルートは無いようだ。
「長は今外に出ている、よって貴様は捕虜と同じ扱いを受けるが私の一存では勝手な事はできん…だからそこを動くな、わかったか?」
顔をあげるとそこにいたのはタロス氏より二周り程大きく鼻や口周りなどに特徴が見られ、頭のてっぺんには大きな二本の角があるが体毛が薄くかなり人間に近いような女性の姿だった。
薄い服のようなものの上に革…いや生物の骨か何かか?まあともかく手作り感溢れる鎧を前掛けのように着けているため体はわからないがフォルムだけで見れば筋骨隆々な巨人のようにも見える。
この姿ならば声色にも納得が行くが如何せん威圧感が凄すぎるために百歩譲っても鬼神の類いだ。
動くなと釘を刺されたのでその場から村を見渡した限りだと色々な姿の牛、恐らく全て仮称ミノタウロス族の住民だろう。
目に付く小さな個体は猿人のような歪な四足歩行から時折立ち上がろうとする動きが見られ、個人差とは到底思えない所から鑑みるに仮称ミノタウロス種の子供、幼児個体と考えるのが自然だろう。
幼少期から成熟個体にかけて姿が大きく変わる生物は少なくないがここまでの変化は流石に私の知る中にはいない。
「ふ、ふひ…ひひ…最高だ…」
「…モリチカぁ?気持ち悪ぃぞ…」
失敬な、こんな素晴らしい生物を前に学者が笑みをこぼさずいられるものか。
「…時にタロス氏、この村では何を食事として扱っているんですか?」
「んぁ…言葉が難しくて良ぐわがんねえけんど…食いもんなら子供はそこらの草でも食ってるなぁ…大人は肉ばっかだぁ。」
ふむ、つまり幼児個体は食事を植物に絞り、ある一定の成長ラインを超える事で大きく姿を変えて類人猿に近い骨格を獲得、そして食性を肉食に近い雑食性に切り替える事でより体を肥大化させる事にしているのか。
今良くわかったことはここでは私のいた世界の常識が一切通用していないという事だろう、何だ幼少期から大人にかけて進化する生物って、確実にファンタジーの類ではないか!嫌いじゃないが現実では現実の法則に則ってくれ!
「なぁ、モリチカぁ…さっきから何でぞんなにころころ顔変えてんだぁ?」
「失礼、癖です。」
そんなに百面相していただろうか…まあいいや。
「やっぱり怒られちまっだなぁ…悪ぃ。」
少し申し訳無さそうに(表情よくわからんが)タロス氏がそう言う。
何を言うか、私なんぞタロス氏に拾われてなければあの場で二時間もすれば死んでいたぞ。
「いえそんな…助けてくれなければ野垂れ死んでいたでしょうし…改めて御礼を言わせてください…本当にありがとうございます。」
「なんもなんも…むず痒ぃよ。」
やや照れたように(気のせいかもしれないが)頭をかくタロス氏…うぅむ、一言ごとにタロス氏の私からの好感度が高くなる。
暫く談笑をしていると村の入り口?の方だろうか、人だかりと共に騒がしくなってきた。
「村長が帰って来たなぁ…おらぁも行っでくるから…動くんじゃねえぞ?…あどあんま見んな。」
「ええ、わかっています」
わかってるから不審者を見るような目でこっちを見ないでタロス氏。
ここからじゃ良く見えないがどうやら長は皆で迎えるようだ、独裁をしているわけでもなく純粋に周囲から慕われているが故の待遇かは今のところ未知数だが、タロス氏の言葉に長に対する恐怖は無さそうだったことから話の通じる相手であると思われる。
まあイザベラ氏はめっちゃ睨んでたけども。
少し待っているとタロス氏が戻ってきた。
「モリチカぁ、今から村長のとこに連れてくけんど…一応な、お前ぇが人間の村の遣いじゃねぇとはまだ思われてねぇんだ…だからその…目隠しだけするからな?」
革の帯のようなものを取り出すとそのまま私の顔に巻き付けた、そんな事くらいわかってるから気にしなくてもいいのに…大凡だがここは村と言うよりか一つの小さな国に近いような感覚のようだ。
山中にある国でそれを治めてる国王の部屋、そんなもの隠してあるに決まっているではないか、ならばそもそもよく思われていない人間など手足を縛って受け答えができる程度の拘束くらい考えていたとも。
「タロス氏、私は気にしませんからどうかそう気を使わないでください。」
「んん…人間はどこで怒るがわがんねえからなぁ…」
あ、これタロス氏が優しいってよりめんどくさいんだな人間は。
「恩人に怒ったり何かしませんよ…今を生きるのに精一杯ですから。」
「…んなら、連れてくからな…」
すると突然の浮遊感。
下からすくい上げて背中に乗せたんだろうが見えない状態でやられるのはとてつもなく怖い、股間がひゅんとした。
どのくらい歩いただろうか、恐らくは数分程度だが見えていないと様々な事がわかりづらくなる。歩行による揺れとタロス氏の逞しい足が地面を踏み締める足音が止まるとゆっくり地面に降ろされたようだ。
「村長ぁ、こいつがそうです」
目隠しをとってもらうと目の前には先程見たイザベラ氏やタロス氏に比べてかなり小さい、というか私と大してサイズが変わらない老婆がいた。
「世界を旅するお方…ミノゥース族、族長のブルゴです…ああどうかそう気を張らないで、お婆さんの話を聞いてくださるかしら?」
気品あふれる佇まいのブルゴ氏はそう言うと視線だけでタロス氏を下がらせた、一国の王に匹敵する種族の長が目線を合わせて話をしてくれるのだ、ならば私も相応に受け答えをせねばならないというもの。
さあ今こそ冴え渡れ私の脳細胞よ、下手なこと言ったら挽き肉オチだ!
書き溜めをあまりしていないので更新は不定期になってしまうかもしれませんがなるべく毎日投稿続けていきます。
備考:タロス氏は照れると角の付け根をかく、イザベラはくっころ系