学者の身分で戦えと?
村に帰る頃には何だかんだ日は完全に出てしまっていて、村人は…というかロクサリーヌさんがめっちゃ探してた。
「森近様!いったいどこに行ってらしたのですか!」
村の門をくぐる私と目が合った瞬間物凄い勢いと剣幕で迫ってくる、怖いからこのまま走り去ってしまいたい気分に刈られるが流石にそれは不味いので大人しく怒られるなら怒られてしまおう。
「や、やあ…おはようロクサリーヌさん。」
「いったい!どこに!行ってたのですか!」
気さくに挨拶をしても逃れられない辺り怒り心頭なんだろう、土下座するか?
いやまあこの人盗み聞きしてたし隠す理由もないからいいや。
「少しコカトリスの情報を探ると同時に色々とね…まだ他の人には内緒にしてくれ。」
「それは…ですが!勝手に外について出ては危ないでしょう!」
何か母親に叱られているような気分になるな…鬱陶しい。
「私は転移者ですよ…多少の知識はあります。」
「それでも特別な力は無いと仰ってたではありませんか…!」
あー、これあれだな…多分村長に絶対逃がすなとでも言われているんだろう、必死さが私を心配してる感じじゃないもん。
「…村長には私から口利きしておきます、それと…言葉には気をつけなさい、私は現在この村の村長…扱い的には国王のような者の客として来ています。」
うざったいから立場のパワーを生かしていこう。
「っ……はい、申し訳御座いません。」
一瞬苦虫を噛み潰したような顔をされるがすぐにやめて膝を地面につき頭を下げられる、ううん…心が痛いね。
そうでもねえか。
何かこう、好感度パラメーターみたいなのがあったら多分だだ下がりなんだろうけど、私が生活する上で権力者が絶対な世界なら特段気にすることでもないからな。
しかしなー…わざわざ人間に手を貸す理由がブルゴ殿がそうしたいからって理由だけだと正直モチベーションが微妙なのである。
私そもそも人間嫌いだしね?
「もういいです、村長は?」
「まだ眠ってらっしゃいます…」
「そうか、起きたら話したいことがあると言っておきなさい。」
「かしこまりました…」
足速に立ち去っていくロクサリーヌさんの後ろ姿を眺めてから体を伸ばす、そういえばお腹がすいたな。
朝食はコカトリスジャーキー(仮)をかじっただけだったが正直不味いなこれ…淡白な味わいかと思いきや、一口目を飲み込んだ後二口目を拒絶する胃から込み上げる獣臭。
ミシュランでいくつ星か聞かれたら確実にブラックホールと言う評価をいただけること請け合いだろう。
しかし贅沢は言えないんだよなぁ…仕方無い、仕方無いとは言え現代人の味覚は肥えすぎているのでつらいものはつらいのだ。
早急に改善するにも私は料理などできない、ならばこの先どうなるかわからんが場合によっては料理のできる仲間がほしい、それかカップめんとウイダー入りの某ゼリーを無限生成できる機械がほしい。
「あら転移者様、こんな早くからお散歩?」
恰幅のいい女性に話しかけられた、誰だっけこの人…ああ、あの時の鉈マダムか。
「おはようございますマダム、気持ちのいい朝ですね…この間は鉈を直接返しに行けず申し訳ございません。」
「いいのよそんなの、転移者様は忙しいんだから。」
そこまででも無いけどね、さっきまで鳥人間2人のコント見てただけだし…なんなら君らを見捨てる方向なら今日にでもこの村を立ち去れるからね。
「朝食まだだったら家でたべていかないかしら?息子もいるし…麦粥くらいしか出せないけど。」
ありがたい提案だ、炭水化物が欲しかったところだしな。
「ええ、是非御一緒させてください。」
と言うわけで鉈マダム…どうやらリジー・ゲイジーさんと言うらしい、リジーさんに言われるままにお宅にお邪魔させてもらって朝食を待っている。
…ゲイジーってあのオッサンも確かそうだった気がするが夫婦だったのか?
「うお、客って転移者殿だったのか…すみませんね。」
んん?最初に会ったときと反応が違うな…村長に何か言われてんのか?
「敬語はやめてくださいよロイさん、あなたは私の恩人でもあるんだから。」
「おお?そうか、転移者ってのはどいつも妙な奴が多くてね…だがこっちから手が出せねえから下手に出るしかねえんだ。」
「まあ…私は村長からみたらかなり期待外れのようではありますからね…何せしがない生物学者崩れですから。」
「立派なもんじゃねえか、俺には無理だよそういう頭使うのは…木酢液だったか?兄ちゃんの言ったとおり作って畑に撒いたら食われる量も減ったしアリ野郎共も嫌がってたぜ。」
あ、効いたんだあれ。
「さあさあ、仕事の話はそれくらいにしてご飯にしましょう。」
朗らかながら豪快そうな声色でリジーさんが話し、机に麦粥と少量の野菜が運ばれた。
気を使って麦粥になけなしの野菜を付けてくれたのだろう、育ち盛りはもうすぎているが若者の胃袋を考慮してくれた温かみは深く私に刺さったような気がした。
まずいんだよな、こう言うの。
諸君の中に知り合いでコミュニティーを抜けるときに人間関係をリセットする人間を見たことは無いだろうか?連絡先も消して、音信不通になってる奴だ。
まあ、私がそうなのだよ。
それもな、何でそんな事をするって言われると怖いからとしか言い様が無いのだが…何度も言うが私は人付き合いが苦手でね、自分に関しての記憶も消してしまえれば良いと思っている。
だからリジーさん達みたいなこう言うのは駄目なんだ、別れすら怖くなってしまう。
私はまだこの世界に置いて今生の別れというものは経験していない、だがこんな世界じゃ別れなんてものは元の世界より各段に多いのだろう。
人と言うのは磁石の群れと言われているくっつきあえばお互いの磁力は増していくが、その人が自分にとって大切であればあるほどに別れる際はより多くを失うことになる。
今、タロスが死んだら。
カカが死んだら。
リリーは…いいやまあ。
私が生きる世界に別れのつらさなどいらない、必要ないのだ。
「どうしたよ兄ちゃん、顔が落ち込んじまって。」
「ああいえ…コカトリスの対策を考えていましてね。」
「…なあ、何かあったんだろ?村長の野郎が俺らにしきりに転移者様にお仕えしろとか言いやがる…俺はここの戦士の中でも上の部類なんだ、教えてくれ。」
「…コカトリスの襲撃は竜猿が関わっています、いつになるかはわかりませんが…近いうちに襲撃されるかもしらない。」
背後でガシャン!っと食器が落ちる音が聞こえた。
「そんな…」
「…確かなのか?」
リジーさんは膝から崩れ落ち、ロイさんは渋い顔をしている。
「ええ…そのようです。」
「…村長に話して、さっさと逃げるか。」
「ですが…」
「ああ、この辺りから逃げても…良いとこ他の村で奴隷扱いが妥当だろうな。」
ああそうだ、話に聞く限りこのあたりから少し離れると他にも村が点在しているらしいがどうやら敵対状態とのことだ。
亡命した場合の処遇は…まあ、わかるだろ?
「私がこの世界に来たのは何か理由があると思うんです…だから、必ずどうにかして見せますよ。」
「…にしてもなぁ、生物学者がどうするってんだ?」
「まあ相手が生物ならどうにか…と言うことで。」
さっきのロクサリーヌさんみたいな顔をされてしまった。
ひょろひょろの学者に何がたできるのかとか、考えたところで答えが出るかはわからんが…やらないで死ぬよりはやって死のう。
いや、死にたくないんだけどね。
そろそろ10万文字も近いのでちょっと手直しなどをして投稿頻度遅れているのは申し訳ない。




