雷鳥は託宣を下す
「それで…コカトリスだったね、どこまで気付いた?憶測でもいいよ。」
「…一定周期で我々に餌を与えて人数が増えるまで待っている?」
「うーん半分正解、だが肝心なとこはわからないってところかな?ではでは教えてしんぜよう。」
何かこのノリムカつくなー。
「彼等が何故そんなことをするのか…それはね、竜猿の仕業さ。」
さあ驚けと言わんばかりのドヤ顔に正直ビンタしたくなったが全く私はその竜猿某を知らない、名前的に猿っぽい竜か竜っぽい猿だろう。
「竜猿…ってなんです?」
あ、ずっこけた…何か動作の一つ一つが古い気がする。
「んん、えー竜猿ってのはね…火山の根元にある洞窟に住む亜人…て言うか、がっつり敵性亜人だあれは。」
敵性亜人、ブルゴ殿から聞いた覚えがあるが所謂自分達至高主義な種族なために別の種族との交流を行わない…まあ知能が亜人より若干低いからできないと言うのが妥当な線だろう。
「その分だと見たことは無いだろうから説明してあげよう、鱗と尻尾がある君らです。」
わーわかりやすーい、そして恐ろしさはわかりにくい…けど天然で鎧着てる推定人型敵性亜人とかシンプルに勝てる気がしない。
「火は吐かないがね、ただ…猿にしては頭はすこぶる良い。」
「どの程度ですか?」
「彼等は物を加工する能力にたけていて、まあ人間なら肉は食って骨は建材で髪は縄にでもされるかねぇ…ああ、それからかなりグルメで柔らかい脂肪が大好きさ。」
あ、滅茶苦茶敵性亜人だった。
「ただまあおぞましさで言えば君らには到底及ばないがね。」
「…つまり?」
「邪悪だが君らほどじゃない、捕虜に拷問とかもするけど子供は育てて戦士にするし…メスを捕まえても犯したりはしない…ていうかよく人間は見た目は似てても種族違う相手に欲情するよね、変態種族?」
え、人間ってそんなくくり?
いやまあ…人間の中でも白黒黄と別れてるが別人種のカップルはいるからな、多少見た目が似通っていれば行ける人は多いか…それか文化を伝えてきた他の転移者が変態だったか。
「一括りにされると心外だが…少なくとも私はしない。」
「あは、ごめんごめん…それでコカトリスは竜猿共に従えられている…と言うか共生に近いのかな?彼等は彼等で竜猿共から食料を分け与えられているし…まあバックが若干ある奴隷が近いかも。」
「奴隷ねぇ…しかしそれならどうして竜猿は自ら来ないんだ?」
「んー…奴等は基本的に人間より強い、その上戦いとなると幻覚作用のある木の実で士気を上げて攻撃してくる…つまりやりすぎて人間が全滅するのは避けたいんだね、奴等はまだ人間の養殖法にたどり着くほどの知性は持ち合わせてないからさ。」
………やべえ。
正直舐めてたところはある、サンダーバード…もといリリーとの交渉次第ではどうにかなるのではと…しかしやはりバックにいたのは霊長類、いや霊長類か?
わからん、それはいいや。
ともかく、これでは状況がかわってくる。
今までは襲いかかる獣を撃退するつもりだった、真の意味で獣を倒すとなると手は掛かるが人間の数によっては勝てないことも無いかもしれない。
しかし、相手は別方面で未だ進化を続ける類人猿…推定人類になりうる存在だ。
ならば撃退なんぞ生ぬるい言葉では足りない。
我々がこれからやらねばならないのは、自分達より体格に恵まれ、天然の鎧を着て、薬で恐怖を飛ばした原始人との戦争になってしまう。
「…洒落にならん。」
そう、戦争だ。
向こうにはコカトリスの群れ、此方は老若男女含めて大凡100人だ。
逆立ちしようがとてもかなわない。
ならばこれから行われるのはただの虐殺、ラッセル少年もロクサリーヌさんも、皆仲良く美味しく頂かれていくことだろう。
無論、私も。
怖い、ここまでは運が良かったから上手くも行ったさ…だが私はただの大学生だ。
胃がひっくり返りそうな死の恐怖、頭痛がする、背中に冷たい汗が伝う。
死にたくない。
「…絶望、って感じだね?いやしかし私もだ、飛ぶのは苦手でね…ここで竜猿と人間が戦うならさっさと退散したいところなのだが…ふむ、君も一緒に来るかね。」
光明、それはまさにこの一言に尽きる。
理解してはいけなかった、この根源的な死の恐怖を止めてくれるなら喜んでこの鳥を神と崇めよう。
しかしそれで彼等はどうなる?ミノゥース族との約束は?
タロスへの恩義は忘れるのか?
駄目だ。
正直カゴイの連中はどうでもいい、元々滅ぶ運命だったんだと割り切れようものだ。
だがミノゥース族を裏切って逃げることはできない。
「…竜猿は…人間を食い尽くした後ミノタウロスを襲う…か?」
「ミノタウロスか…どうかな、食糧が豊富ならそれだけ竜猿も増える…一度に沢山産まれるからね奴等は、勝てると見越したら戦うだろう。」
「まあ何だ、君がなにをしてきたのかは知らないけど…逃げたって良いじゃないか、生きるためだろう?僕がどこか遠くまで逃がして…何だ?」
真後ろでバサバサと羽ばたく音が聞こえた、そしてその瞬間甲高い子供のような気の抜ける叫びが周囲に響く。
「ほわっちゃぁぁぁ!」
「ごっはぁぁぁ!?」
見覚えのある鳥少女が目の前の自称神の背中に文字通り全身全霊のタックルを放つ、空中で強く羽ばたき、回転を付けて。
「か、カカぁ!?」
「人間、下がれ、お前!何人間、たぶらかしてる!」
「いったた…何だこのハルピィヤ、君の?」
「ええまあ、友達と言うか契約対象と言うか…でっかい虫の幼虫をあげたら色々と助けてくれるんです。」
がばっとカカに羽腕で体を引き寄せられる、最近女性と近距離になることが多いな、滅茶苦茶鳥臭いけど。
「随分な挨拶じゃないかハルピィヤ…何の真似だい?」
あ、明らかにリリーが憤慨しているご様子だー…!
まあ、真後ろから頭突きされればそうだろうよ。
「こいつ、カカの羽、奪う気なら、お前、殺す!」
気迫は凄まじいが鳩とイヌワシのような体格差だ、このまま放っておいてはカカが死にかねない。
「待ってくれ2人とも、落ち着け。」
取り敢えず肩に乗っているカカをひっくり返す。
「………」
あ、ひっくり返すと静かになる特性は鳥のままなんだ。
「落ち着いた?カカ、何でいきなり頭突きなんてしたんだ?」
「人間、連れて行かれる、嫌だ。」
成る程、あのままでは私がリリーにどこかに連れて行かれるのが嫌だったのか。
「大丈夫、どこにも行かない…タロスとの約束もあるんだから。」
「嘘だ、揺らいでた。」
ソンナコトナイヨー。
「冗談じゃないかさ…しかし羽か。」
何だねそのニヤニヤした顔は。
まさか旦那だの番だの言うんじゃないだろうな?
「どういう意味だ?」
「奴隷とか使いっぱしりとか。」
「………」
後ろから餅のような両頬を引っ張る。
「ぎにゃぁぁ!ひゃめろ!いふぁい!」
そんなことを言う口は取ってしまおうかね。
手を離すと地面にべちゃりと落ちた後にヨヨヨと泣き始める。
「ごめん…カカ、人間、友達。」
わかればいいのだ。
しかしだ、カカのおかげでやや冷静にはなれた。
ならば後は考える時間だ。
「リリー、逃げるよりここらでまた何かを救って崇められてみないか?」
「んあ…何、残れっての?」
先程の頭突きでやや乱れた服を羽腕で器用に整えながら立ち上がるリリーに手をさしのべる。
「ああ、まあその相手は人じゃ無いかも知れないがな。」
「君が何を考えるか分からないけど…その方が楽しそうだね、いいよ。」
嘘っぽく笑う
「カカ!こいつ!嫌い!」
「だがいくら怪しくても知識はある、我慢しろ。」
「失礼じゃないかね君ぃ!神ぞ?僕神ぞ?」
「なら私は魔王様だよ、いいから協力しろ。」
「何だか傲慢になったね……僕のせいかぁ?焚きつけちゃったかなぁ?あだ!痛い!」
少なくともカカにすがりついて蹴られてる姿に神らしさは一切無い。
竜猿なんのそのだ、やんなきゃ死ぬならやるしかない。
これから私はこの言葉を何度も反芻する事になるだろうよ。
カカの羽、には使いっぱしりの他に餌をくれる人とか相棒的な意味があります。
ちなみにカカは使いっぱしりとして使っている。




