浮かれた奴から頭を押さえられる。
諸君よいお知らせだ。
コカトリスはどうやら岩場や穴蔵に生息しているようだ。
そして悪いお知らせだ。
私と同じことを言ってた奴は指先一欠片も残らなかったらしい。
彼等は存外知能が高い、そして嗅覚もだ。
待ち伏せをされて巣穴に辿り着く前に四方八方から啄まれて即死するとの事だ。
「武器は原始的でなくてはならず、待ち伏せができる程度に知能の発達した鳥…いや小さめの恐竜だなあれはもう、まあそいつらの群れに勝てと。」
成る程、成る程…成る程。
「ふむ、無理だろ。」
「いや兄ちゃん諦めないでよ!?」
無茶を言うなラッセル少年、私とて神様ではない、て言うか戦闘力とか多分君と対して変わらないぞ。
「そもそも彼等を根絶やしにする理由もなければそんな量の食料を手に入れても持て余すだろうからな。」
「でも…あいつ等は人を喰うんだよ?」
「ああ、我々もコカトリスを食べるのだろう?なら食って食われて、結構な事だ。」
「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ、別の世界から来た人ならどうにかできるでしょう?」
できねえよ。
もう一回言おう、できないです。
昔高田(先輩)に無理やり読まされたライトノベルだと所謂チート能力を貰っていれば魔法の力でどんな敵も倒せただろうが…あいにく身一つで来てるんだよ私は。
魔法ならあるさ、多分生物の進化をこうすると固定した何かの力とかな。
「ラッセル少年、コカトリス達は定期的に来るだけで大勢で襲ってきたりはしないのかい?」
「え、うん…毎回多くても七匹くらいで来るから皆で協力して倒せてるけど…」
待ち伏せをして戦うだけの知能がいる生き物が何度も確実に負ける戦力で挑む…不可解だな。
正直話を聞く限りではコカトリスはかなり大勢で群れを形成していて普段穴蔵から出てきているのは大半が斥候か警備要員のようだ…つまりこのコカトリスの襲撃には何かしら目的がある。
群れを形成できる生物がそうそう完全に死ぬとわかっている戦いに兵を出すことはあるまい。
「…生け贄、いや生け簀か?」
「いけす?」
生け簀、ちょっといい寿司屋とかで店の中の大きな水槽に魚を生かしておいて鮮度を保つ機構だ。
つまり我々が魚、襲撃してくるコカトリスは餌。
そしていい塩梅に増えた我々をぺろりと頂く何か。
「ラッセル少年、ここの村の人数は?」
「えと…最近マクガイヤーさんの家で子供が2人産まれて…丁度100人くらいかな。」
「不味いな、どこがリミットだ…?」
「ど、どうしたの兄ちゃん!」
「いいかい、ラッセル少年…コカトリスは私達が思っている以上に頭の良い生き物かもしれない。」
「え…?」
「私は村長のところに行ってくる、君はその鶏の後始末を頼む…あと鉈もマダムに返しておいて。」
「え!?それも俺!?」
すまんな、もしかしたらピンチかも知れないからさ。
慌ただしく扉を叩く。
「おや、どうしました森近殿…何かお急ぎで?」
「村長、不味いことになっているかも知れません。」
こんな時にチート能力なんてあったら1人で解決できたんだろうが、無いならマンパワーに頼むしかない。
「不味いこと?とにかく中へどうぞ。」
招き入れられるがままに部屋に入ると椅子に座る、思ったより息が切れているな…焦りが見えるぞ私よ。
「この村でコカトリスを食べ始めたのはいつ頃ですか?」
「ええと…確か二十年前…それが何か?」
「ではその頃の村の人数は?」
「その頃は飢饉がありましてな…減り減って三十人程でした。」
「…そして、同じく飢饉に喘ぐコカトリスが襲ってきたからこれ幸いにと殺して捕食をしてきたと。」
「ええ、その通りですが…?」
何故気付かない、いや気付かねえよ普通。
だって見た目鳥だし実質トカゲだけどそこまで頭良いとか考えないもん。
むしろ私だってまだ気のせいかと思っているよ。
「村長、この村の人間達は…意図的に増やすためにコカトリスを食べていた、いや食べさせられていたのかも知れません。」
「…詳しく。」
「コカトリスの行動に少し違和感があったんです…死ぬ寸前の生き物にしてはやけに大人しいというか…我々の思惑通りに動きすぎている。」
「……」
「そしてそれに加えて彼等の行動を話に聞く限りでは、統率が取れすぎているのです。」
「森近殿…コカトリスは巨大で強いと言えどただの鳥ですぞ?それに己等が食うために己等を犠牲にしていては本末転倒ではありませんか。」
「これは私の元いた世界の虫の話ですが、強力な敵に対して大勢で纏わりつき蒸し殺す習性をもっているものがおりました…そして最初に飛びつく数匹はほぼ間違い無くしぬのです」
「だから、ここははっきりと言いましょう…ある程度の知能のある生物はそういうことをやります…と言うか我々も子供を逃がすためなら多少大人を生け簀にする事はあるでしょう?」
「…それが本当なら大変ですな。」
「ええ…何より斥候を此方が放てない。」
「ですが、勿論森近殿ならばどうにかなるのでしょう?」
ん?
「転移者様は皆何か大きなことをなしてその都度国を救ったりとしている文献が残っています…森近殿も何か特別な力が?」
あ、それ多分文献残ってる人がたまたま凄かっただけだと思うよ?
ていうか凄かったから文献が残っただけで有象無象の方が多いよ転移者は、ミノタウロスの村に来てまず水洗便所作る奴もいるんだぞ。
「村長、私に特別な力などありません…ただの人間です。」
「そんな…」
「でも…彼等の知能がどの程度のものかはまだわかりませんが、どうにかならなくは無いかも知れません。」
「…そ、それはどうすれば?」
「…これから考えます、なので一度部屋に戻ることにします。」
そう言って立ち上がり扉を開ける。
すると目の前にロクサリーヌがいた、正直普通に心臓に悪いから扉の目の前にいるのはやめろ、マジで。
「ろ、ロクサリーヌさん…どうしたの?」
「いえ…その…お茶でもと…」
その声は震え私の目を見ようとしない、ああ…聞かれたのか。
参ったなぁ、ひとまずパニックを防ぎたかったんだが。
「ロクサリーヌ、私がどうにかするから安心しなさい…それから村の者にはまだ言ってはいけないよ…怖がらせてしまうからね。」
するとすかさず村長がロクサリーヌの肩から首へとかけてその枯れ木のような腕を滑らせながら優しい声色で諭すように言う。
へぇー、ほぉーん…はぁぁぁん?
まあいいや、部屋帰ろう。
部屋につくなり取り敢えずベッドに飛び込む。
「ぐっ!…固ぇ…鼻が…」
自分のベッドの感覚で飛び込んではいけない…鼻が折れるかと思った。
さぁて、どうすっかね…例によって私はまだ何も考えていない。
正面からぶつかってどうにもならないのは考えるまでもない、砦を築くか…?
いや、あの足の形なら登って来かねないな…逆に掘りを作るか?
子供老人を含めなければマンパワーはおよそ50は超える程度だ、ならば短時間で掘りを作って何か投擲物の製作も回れるだろうか…
どれも微妙だな…ううむ、前回来たコカトリスの数が7~8、肉にしたら少ない数じゃない…ならばまだ肥えさせようとしているとも考えられる…なら、まだ猶予はあるか。
何にせよかなり無理な状況だ。
ひとまず何とかしてミノゥース族かカカに連絡を取るしかないな。
最近は徐々にPVも増えてきて嬉しいですぞ。
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