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人は皆獣だと言うことに意図して気付かぬ振りをする

 さあ始まりました人里潜入大作戦。


 本日はカゴイの村からお届けしております、実況は私、森近でございます。


 今はまだ夕方ですが皆が寝静まったら一人一人寝首を忍killしていってやりましょう。



 なんてことは当然しない、と言うかわかりやすいなここの人間は。


 あからさまなVIP待遇じゃないか、まあ値千金のドル箱がいきなり舞い込んだようなものだからな…しかし残念、私の知識などあてにならないよ。


 実のところいくら生活様式が原始的であっても紀元前に城を作っていたところもあればボウガンをメイン武器にしていた国もあるくらいに昔の人間の知恵とは凄いものだ、私の現代の知識で何かを与えようにも大きな改革は起こらないだろう。



 っていうか私生物学専攻だからな?


 しかし専攻と言えば苦労して覚えた英語も中国語も異世界に来てしまっては無用なものだな、まずそもそも何で私の言葉が通じているのかもわからない。


 この世界の文字を読んでいないから未知数ではあるが日本語と言うことは無いだろう。


 んー…科学で説明の付かないことは嫌いなんだ、だがそもそも私が確かにあの時死んだ際にここに飛ばされた(又はここが死後の世界の可能性もある)時点で科学など合ってないようなものではある。


 しかし「魔法の力で不思議と言語がわかっちゃう☆」とかは言いたくない、ならば何が起こっているのか?


 この世界はもしかすると高次元な科学の集合体なのかもしれない。


 本来私は死んだか何らかの要因でここに飛ばされた、そしてそれが超科学やとんでもテクノロジーによるものなら私の脳に直接知識をインプットするなど造作もないことだろう。


 しかしそれを確かめるために一回死んでみようって出来るほど私の肝は座っていない、そして一連の転移などにもし意味があるとするならば…これがゲームであるならば何かをなさねばならないのだろう。


 まあ、帰りたい訳ではないんだ。


 強いて言うなら研究室にいる生体が気になるが私が居なくとも教授や先輩達が何とかするだろう。



 ……研究もできるしな、とんでもテクノロジーで作られた特殊な進化系を辿った生物達、燃えるじゃないか、最高だ。



 ……そう、だから帰らなくてもいいんだ。


 こんなゲームだなんて…そんなわけないのはわかっている。


 私はきっと、もう家に帰ることは無いんだろう。


 私の人生は本来腹を通り魔に刺された時点で終わってしまっていたのだ。


 だから…悔いは…




 ああ…


 家に帰りたい。


 悔しい、何で私があんなところで。


 自分はもっと、研究さえできていれば生きていられるような人間だと思っていた。


 家なんかにいても全てが煩わしいだけだったのに、うるさい両親…会えない今となってはその全てが愛おしい。





 よし、ホームシック終わり。



 いや、まあ…実際しんどいさ。


 だがある程度は割り切らないといけない、死ぬからね。



 まだ帰れないと決まったわけじゃない、何て希望は持たないさ。


 いいんだ、全ての出来事には理がある、そして同時に意味があるんだ。


 なら、私の役目を果たす。


 と言うわけでいい加減ベッドから這い出て村長辺りの人間と話そう、ロイことゲイジー氏は疲れているだろうし怪我もしてるから寝ていろ、と言っていたがぶっちゃけ元気は元気なのだ。


 籠城してるわけでもないし仮病をする理由もない、むしろさっさと会話で打ち解けていかないと計画が歪む。



「おや、旅人様…もうお身体はよろしいのですか?」


 部屋を出ようと扉を開けた瞬間目の前にいたのは目麗しい女性であった、服装は中世ヨーロッパの文化のようかと思いきや驚いたことに日本に近いようだ。


 割烹着?のようなものに髪を纏めるほっかむり、時代劇にいるような服装だな。


 とはいえ布よりも皮の方が比率が高いところから人間は本質的には狩猟民族なのだろうか?



「ええ…もう随分休みましたから、ええと…」


「失礼しました、村長の身の回りのお世話をさせていただいているロクサリーヌです。」


 ロクサリーヌ、名前はヨーロッパなの?もう文化圏がわからない…


「ロクサリーヌさん…綺麗なお名前ですね。」


「まあ…ふふ、ありがとうございます。」


 くすくすとお淑やかに笑う女性の笑顔を見たのはいつぶりだろうか、適当に言ったお世辞でこんな笑顔が見られるならば破格と言うほかないだろう。


「村長とお話がしたいのですが…」


「ええ、ご案内致します…此方へどうぞ。」


 私を連れて建物の内部を歩く、床は木、壁も木、天井も木だな。


 足を床に落とした時に感じるギシリという木の音も些か懐かしく感じてきたのは私が今まで床の無い生活だったからだろうか。




「どうぞ、お入りください。」


 ある部屋の前で立ち止まるとロクサリーヌさんが扉をノックして開けてくれた。


「どうも…失礼します…っうぉぉ…」


 部屋に入ってまず目に入ったのは巨大な頭蓋骨だった、歯の形はやや歪ながら雑食の特性を持っていて、眼窟はそこまで大きくなく目が小さいことがわかる。


 そして何より特徴的な恐ろしげな気配を放つ二本の巨大角、ふむ…ミノタウロスのものか。


 そしてその骨の下で椅子に腰掛ける枝振りのよい枯れ木のような男が私に話しかける


「初めまして…どうかなさいましたかな?」


「ああいえ…初めまして、森近一葉です…その他の世界から転移…?してきてしまったようでして…」


「お話はロイから聞いておりますよ…村長のロバートです。」


 自己紹介がてら我々は握手を交わす、良き交友は第一印象と挨拶からだ。



「っ…随分と力強い握手ですな。」


「失礼しました…緊張してしまって…」


 危ない危ない…クールに行こうぜ私。


 獣がほかの獣を狩り食べるのは自然の摂理だ、そこに何も私は感じない。



 だが、頭蓋骨を、死体をいつまでも飾って辱めるのは違うだろう?


 私は会ったことのない彼もしくは彼女は…カウリの親子だったかもしれない、ビフン氏の家族だったかもな。



 私は何かどす黒い感情がまとわりついてくるのを感じた。





「あの…ああ、そこの頭が気になりましたか?」


「ええ…これは牛…ですか?」


「牛…まあそうですな、ミノタウロスと言うおぞましい化け物です…森に集落を作るので困っているんですよ。」


「こんな生き物が…困る?人間とは敵対しているのですか?」


「いえそう言うわけでは、ですが食べれば美味いし装飾品にも使えます。」


………。


「集落をつくると言うことは人並みの知性があるんですよね…話は?」


「話だなんてとんでもない、この生き物は皆私達二人分は大きいんです、恐ろしくてできませんよ。ああまあ、言葉を話すことは出来るようですがそれもきっと人の言葉を真似しているだけでしょう。」


……………。



「では…もしかしたら彼等は友好を求めているとしたら?」


「…何が言いたいのですか?」


 おっ…しまった怪しまれたか?


 頭に血が上ってしまった、私らしくない。


「いえその…」


「…例え話がわかろうとも、所詮は獣ですよ?」


「私が前にいた世界では…獣と人は共存していたものですから。」


「では、慣れるのに些か苦労するでしょうな…それかあの化け物共を間近で見れば気持ちも変わるでしょう。」


「機会があれば…」



「さてでは森近殿、いくつか質問をよろしいですかな?」


 私ともあろうものがこの程度の対話で心が乱されるとはな。


 今だけだ、今だけは彼等を獣と嘲るがいい。



 そして近くに、自尊心だけが肥え太った獣だと自らを貶めるだろう。






 駄目だ思考が魔王寄りになってきている、ちゃんと答えよ。


Q、ヒロインは出ないの?


A、タロス氏がいるだろう?

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