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嘘は人生を豊かにする

 足が痛い。


 つま先、踵、土踏まず、そのすべてが痛い。


 痛みとは何だろう?


 感覚?脳のエマージェンシー信号?


 それともただそう思っただけの気のせい?


 それは私には見当もつかない。



 そして難しく考えたからと言って疲れが取れるわけでは一切無い。


「ずぁあ…遠いよ人里、やっと見えてきた。」


 当初の予定では獣から逃げてきた転移者の予定だったのに普通にボロボロな有り様だ。


 あの後結局キャタピラー(なにがし)とは出会わなかったが私の疲労の溜まり方からしてスライムに出会った時から五時間は経過してると見た!


 うん、日の位置的にいいとこ一時間半だな。


 私の体内時計は時々心配になるな、腹時計は正確だと思うのだが…


 ああ、今はお腹がとても空いているからお昼だよ。


「カカ、取り敢えずここまでで切り上げてくれ、ここからは私だけで行ってくる。」


「わかった、カカ、もう、いらない?」


「いや、ミノゥース族の村に伝令を頼むよ…『モリチカ、無事到着』だけでいい、覚えたか?」


「モリチカ、無事到着、覚えた。」


「ではそれで頼んだ…ああ、ちょっと失敬。」


 跪きカカの逞しい爪の付いた足を掴む、そして覚悟を決め、息を大きく吸い込んで自分の右腕の肌を勢い良く斬り裂く。


「づぁ!…ぐぅ…」


いっってぇ…!



 やっぱり覚悟してから付ける傷は痛い…目頭に溜まった涙が零れ落ちる。


「人間!何、してる!?痛い?助けて?」


「っ…ふぅー…大丈夫だ、傷一つない体じゃ怪しまれるかも知れないからね。」


 呼吸を整えて不安そうに此方を見るカカの足を離す、血が思ったより出てしまったが取り敢えず白衣を脱いで包帯代わりにしよう。


 さよなら白衣、こんにちは赤衣。


 まあ言うてそんな染まらなかったから殺人事件を起こした科学者みたいになったがな。








 カカを見送ってからこれからは一人の時間だ、間違えないように全てを一度見直す。


 潜入前にこれからやることを整理しよう、まず私の最終目標…ブルゴ殿の思いの通り蹂躙はしない。


 だが奴等はこのままでは変わらない、近く亜人と人間はぶつかることになる。


 負けることはないかもしれない、だが犠牲は出る。


 なら出来る限り戦力を揃え自分達を国家として発足させる。


 そうすれば無闇に戦争にはならないだろう。



 私とて人間だ、同族を殲滅するのは嫌だし人の命どころか意図して生物の命を奪った経験すらそこまで多くはない。


 だから、なるべくは人類と共存を目指す。


 おかしな話だな、私は人間なのに人間との共存を目指さねばならないとは。


 失敗したら亜人にも人間にも居場所はない。




 ああ…ちょっとアンニョイな気分だ、成功…するかな。



 いかんいかん、やると言ったらやるのだ。


 私の生存と研究のためにはやるしかない。


 さあいざ行かん!







 十分くらい歩いて随分村の近くまで来た、おや第一村人発見。


 すかさずふらふらと今にも倒れそうな足取りで追い掛けながら手を振る。


「おいどうした、見ねぇ顔だなあんた…随分ボロボロで…」


「ゲホ…助けて…ください、変な生き物に…」


 村人Aの前で膝の力を抜き倒れ込むとガシッと受け止められた。


 随分と筋肉質な腕だ、だが無理やりトレーニングでつけたようなものじゃない…農業で付けたものだな。


「しっかりしろよ、おい人呼んでこい」



 彼は見張りをしていたのだろうか?一言叫ぶと大勢が慌ただしく集まってきた。


 音で判断するに6人前後か?



「おいあんた!どこから来たんだいったい、あっちにゃ危ない亜人や魔物しかいねえぞ。」


「…に…ほん…日本から…来ました。」


 我ながらいい演技だと思う。



「どうする、ロイ。」


「にほん…転移者かもしれねえ、お前等、村長呼んでこい!」


 ここらでひとまず意識を手放すふりをしよう。


 教授からの小言を回避するために狸寝入りは得意だ。






 目を瞑っている間に運ばれたようで今はベッドに寝かされている、堅いし腰にも悪そうなベッドだ、日本なら粗悪品もいいとこの安物だな。


 だがここ数日を藁で寝ていた私にとっては高級品だ。







 本当に寝てしまった。


 やっべ、今何時間経った?


 …まあいいや、取り敢えず起きるか。


「…ここは…」


 体を起こし周囲を見渡してみると皮紐と枝を組み合わせた質素な鎧を着たおっさんが隣で椅子に座っていた。


「起きたか、ここはカゴイの村ってんだが…あんた、何者だ?」


「…わ、私は…気がついたら草原にいて…」


「やっぱりか…噂程度にしか聞いたことはねえが…あんた余所の世界から来たな、」


「余所…ええ…恐らく。」



 よし、ひとまずは怪しまれていない!


「…腕、どうした?」


 液体、恐らくは水の入った皮袋をぶっきらぼうに投げ渡しながらおっさんが顎で私の腕を指す。


「ここにくる途中…怪物に襲われたんです…」


「……あ?」


 っ…何だ?目の前の男が纏う気配というかプレッシャーが増加した気がする、て言うか怖い。


「…なあ、このあたりでそう言うキズを付けられる生物はそう多くねえんだ…しかもそいつらは全員人の足じゃどう頑張ったって逃げ切れねえ…そんでもう一回聞くぜ?あんた、何者だ?」


 しまったな、打撲か何かにして転んだとでも言うべきだったか…


 まあ、()()()()なら問題ない。


「ええ、あの時…鳥の化け物に襲われたときに私だけなら間違いなく死んでました…でも殺される直前で別の怪物が横入りして…何とか助かったんです。」


「…どんな見た目だそいつは?」


「…犬…犬みたいでした。」


「犬?コボルト共か?」


「そんな名前なんですか…?」


「ああ…だが彼奴らがコカトリスに横入りなんてするか…?いや、そこまで飢えている…?」


 顎に手をおいて考え始めてしまうおっさん、ひとまずは回避したかな?



 さてじゃあ、次は此方が質問する番だ。


「あ、あの…」


「あ?どうした。」


「さっき私のことを余所の世界から来たって…他にもそういう方がいるんですか?」



「この辺りにゃあ知らねえよ…言ったろ?噂程度にしか聞き覚えはねえ。」


「そんな…」

 

 絶望したようにうなだれる、帰る見込みなんて無いからな。


「…あー、何だ…転移者ならどこ行っても知識を買われて大概は金も名声も手に入る、そう悲観的になんなよ。」


「でも…帰り方もわからないのに…」



「…ま、あんたが寝てる間に村長が滞在許可をくださった、心配すんな。」


「……はい。」


 わかりやすく落ち込んでおこう、しかし意外と私は演技派なのか?簡単に騙せてしまっているが…いや、まあこんなボロボロで嘘つく理由もないからわからないのか。



「…そういやあんた…名前は?」


「…森近…森近一葉です。」



「そうか、ロイ・ゲイジーだ。」


 そう言うと右手を差し出された、握手の文化があるのか?まあ別世界の人間が持ち込んだかもしれないが…



「よ、よろしくお願いします…ゲイジーさん。」


「おう…お前何か鳥臭くねえか?」


「……元の世界では鳥小屋で寝泊まりしていたもので…あと襲われた時についたのかな…」


「……そうか、大変だったな。」







カカめ、次あったときはデコピンしよう。


急に寒くなりましたね、お腹がとても痛い。

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