増えない鶏に明日は無い。
何故だ、何故私は思わぬところから射抜かれた上に道徳の授業のように長々とブルゴ殿に諭されたのだ。
「…タロス、番作らないってそんな駄目?」
「ああ…駄目だなぁ。」
まあ、理屈はわかる。
この世界に生きるものたちは全て進化途中の生物なのだろう根本的には。
産めや増やせやの世界でそれを断ってしまうと白い目を向けられるのにも納得は行く、がしかしだ。
諸君、私はモテない。
もう一度言う、私は!モテない!
そう理解はしているのだ、不健康そうな見た目に理屈っぽい性格、おまけに私はそこまで女性が好きでもない。
ざっと考えるとこれは実は非常に不味い、何せその内は合衆国を作ろうとしている組織の参謀の辺りに収まる筈の人間が実質生物としては無職って何の冗談だと民は考えるだろう。
「思わぬところから仕事が増えたな、嫁探しもしないといけないのか。」
「タロス…私って好みじゃないの?」
「ああ、人間はなぁ…つるっどしでるし…細ぇ。」
成る程種族柄の問題か。
「あと…あんまり頭いいやづは疲れるなぁ…」
成る程性格も問題か。
「…笑った時ににちゃっでするのも嫌だぁ。」
ほう、顔付きも含まれるのか。
ふむふむ、成る程。
「……君私のこと嫌いだろ。」
何がマブダチだちくしょうめ!
私は膝から崩れ落ち、慟哭しそうになる衝動を抑えて震える声でタロスと応答していたがそろそろ限界だ、弁慶も倒れるわこんなもん。
「嫌いではねぇ…けど番にはなりたぐねぇ。」
貴方は素敵だけど付き合うとかは無いかな、って感じか…ははん、わかるぞ。
自称恋愛マスターの高田さんが幾度となく遭遇していた事態だ、しかし異種族はこの様子だと受け入れられそうにないな。
よく考えたら進化したルーツが違うんだから当たり前っちゃ当たり前…てか異種族だと子供できねえじゃねえか。
「と言うかタロスと番になっても意味無いのか。」
「あぁ…異種族がいいんなら…エルフかアマゾンかだなあ。」
「まあ別に誰でも良いんだがね、群のトップの方の奴が一人者は指揮に関わりそうだから手っ取り早く済ませたいだけだしな。」
「…おらぁだからいいけんど…それ他の奴に言っだら殴られんぞ。」
実際心から誰でもいい、子供も好きでもないからな。
いやでも少し人とのハーフがどうなるかは気になるか…労力が多すぎるな。
ともかく私は基本モテない中で人族の番を見つけないといけないのか、私下手すると人間滅ぼすことになるんだけど大丈夫かな。
「最悪…あのハルピィヤとか。」
「子供はできねぇし…ハルピィヤはぞこまで義理堅くねぇ。」
と言うかカカはお礼に何とか言ってたがそもそも卵生な時点で子供なんて産まれないだろうよ。
「やること多いなぁ、私。」
「まあ…手伝ってやっがら。」
「嫁探しも?」
「それは…自分で何どかしでぐれ。」
人類種で探すなら、他の人間が滅ぶことになっても嫁になるなら命は助かるよとでも…魔王が私は。
いかんいかん、流石にそう言うのは後味が悪すぎる。
あくまで紳士的に行こうじゃないか。
アイアム、ジェントルメン。
おかしいな、私こっちきてから頭悪くなってきてない?
「人里に何か持っでいぐんかぁ?」
「いやあくまで転移して獣達から逃げ、命からがら初めて辿り着いた村と言うのを強調したい、だから…取り上げられると困るからナイフはタロスが持っていてくれる?」
「ああ、隠しとぐかぁ?」
「タロスが持ってれば隠すより安全でしょ。」
「…おらぁは別にそこまで強くねぇ、イザベラのがいいか?」
「心から信頼しているタロスだから渡したのさ、持っててくれ。」
どうだこのイケメンムーヴ、これなら多少は
「荷が重てぇなぁ…」
少し迷惑そうに渋々承諾するタロス、くそぅ世のイケメンはどうやってるってんだ。
まあいい、準備を続けよう。
次は…地面に寝て軽くのたうち回ってと。
「……何してるべ。」
「こんな小綺麗な見た目して獣から逃げてきました!…何て説得力無いからな、汚して傷もつけた方がいいだろう?」
「…狡賢いなぁ、お前ぇ。」
頭が切れると言っておくれ?
「…失敗したらブルゴ殿に消されかねないですからね…カウリやビフン氏との約束もある、出来る限り精一杯やるさ。」
「…すまねぇな、一緒に行ってやれなくて。」
「タロスが付いて来たら本当に侵略になってしまうよ、あくまで自分の素性を開かすのはしばらく後だ…終わったら褒め称えてくれ。」
「また撫でるかぁ?」
「軽くやってあの様なら次は頭もぎ取れるんじゃないか?」
激励のハグがサヨナラの鯖折りになりかねない腕力の方々だ…頑張って仕事してその上で褒美が即死トラップなんて笑い話にもならない。
「じゃあ、調べさせてくれ、と言いたいが女性に貴方の体を調べたいなんてほざこうものなら私の元いた世界では一発で警察…まあ憲兵の世話になることだろう。だからそれ以外だな。」
「ああ…流石に嫌だなぁ。」
「…んー、浮かばん。」
「んなら…考えとげ。」
「そもそも助けられた恩でやってるから気にしなくていいよ。」
「ん、なら…行くか。」
ああ、準備もできた…ならば行かねばなるまい。
これ私ここから人里まで1人で行くのか?徒歩で?
「タロス、私まず人里に辿り着けるかな…」
震える声でそう言うといつかのように肩に乗せられた。
「最初の草原までは送っでやる…まぁ、そっがらは歩きだなぁ…」
「それはありがたいな…あの辺に人は来ないの?」
「来ねえ、キャタピラーが出るがらなぁ。」
「何て?」
「キャタピラー…でけぇ芋虫だぁ、とにかく硬ぇ。」
「そんなのがいる平原を私に走れと…?」
「…お前ぇには、ハルピィヤがいるだろ。」
あ、そうか…空中にいられるからそこまで見付からないし索敵も得意そうだ…しかし…
「まずカカが来ないことには始まらないよ…まあ近くにいるらしいけど。」
「呼んでみろよぉ。」
えー…うーん、まあ呼んでみるだけやってみよう。
渋々だが肺に大量の酸素を溜めて勢い良く喉を震わせ音に変える。
「…カカー!いたら出てきてくれー!」
「何、人間、助けてー?」
何故か隣の家から顔を出すカカ、いや何でイザベラ氏の家にいるんだお前。
「いや何をしてるんだお前は。」
思わず頭の中の言葉が全部でた、イザベラ氏厳しそうだし食われるぞ。
「ここの家、飯あった、カカ、少し貰った。」
家主不在に貰うのは泥棒と言わないか?
「気にずんな…ハルピィヤはそう言う奴等だぁ、ちゃんと隠してねぇイザベラが悪ぃ。」
よかったな許されたぞ鳥人間。
「人間、カカ、何で呼んだ?困ったか。」
「ああ、人里まで行きたいから手伝ってくれないか?キャタピラーとかが来てないか見て報告してくれればいいんだけど、できる?」
「簡単、助けて、やる。」
それはありがたい、よしひとまずこれで準備は終わったな。
「んなら…行ぐか。」
かくして我々は、私はタロスの肩に、そして私の肩にはハルピィヤのカカが乗っている歪なブレーメンの音楽隊のような出で立ちで村を出発した。
亜人が安心して暮らせる世界を作る第一歩だ。
「カカ、地味に重たいし滅茶苦茶肩に爪がめり込んでる、降りろ。」
ブレーメンは一瞬で解散した。
もうじき総PVが1000になりそう!
ありがてぇ…ありがてぇ…




