友との契りは捩れれば千切られる可能性もある
「タロス氏…何で怒ってるんですか?」
此方に背中を向けて斧を研いでいるタロス氏、先程仮定生物Aことハルピィヤのカカが疾風の如く飛び去ってからと言うもの、タロス氏の機嫌が何だか悪い気がする。
「別に…怒っでねぇ…」
何だ怒って無いのか、じゃあいいや。
「しかしカカの飛行能力があれば斥候も出来ますし有翼生物を味方に引き入れるのもありですかね。」
「…あんな奴らは駄目だぁ。」
「…かなり信用できる飛行性能はあるのでは?飛竜と戦うわけでも無しに…飛竜っているんですか?」
「あれは勝でねぇ…」
いるんだ!ワイバーンいるんだ!
わ、普通に嬉しい!
「いつか調べて見たいですね!」
「…お前ぇ…さっきのはハルピィヤだから許されたがなぁ…エルフとかだったら殺されてんぞ…」
いややらんさ、て言うかこの世界のエルフってどんなのだ?私の知ってるエルフの認識で良いのだろうか…いやでも、魔法無さそうだからな。
高いところから弓使う種族って感じか?
「そりゃ…許されそうだから言ったまでですよ。」
「…おらぁは…駄目だがらな?」
ははは、恩人のタロス氏にそんな事できないさ…まあ寝ているうちに観察とかはするけど。
「タロス氏は恩人ですから…やるならカウリに頼みます。」
「…おらぁはな、お前ぇのぞのタロス氏ってのが気に食わねえ…カウリやあのハルピィヤみてぇに呼べ。」
「これは…ある種の線引きみたいなものですよ、敬いとかそう言うのです。」
「ああ、気に食わねえ…カウリや鳥は対等でおらぁは尊敬か、もっど仲良ぐならなきゃ駄目が?」
ああ、察したぞ。
ミノタウロス種皆軒並みデカいから麻痺してたけどタロス氏はまだ子供だったんだ。
友達は皆あだ名や下の名前で呼ばれているのに自分だけ未だに名字で~さんって呼ばれてる気分なんだな。
まあ中学生くらいの女の子って考えたらそりゃあ確かに疎外感感じてもおかしくはない、すまないことをしたか…尊敬が裏目に出るな全く。
「…じゃあタロスって呼んでもいいですか?」
「…ああ。」
まだちょっと不満そうだ。
あ、こっちもか。
「ついでにこの喋り方もやめるよ…まあだからって尊敬しなくなるわけでは無いがね、改めて友として扱ってくれると嬉しい。」
「それでいぃ…でも調べるのは無しだがんなぁ。」
「…わかった。」
ここまで頑なに断られたら仕方ない、私は紳士だからな。
「さてタロス、今後の予定は?」
「んぁ…村長が朝飯食っだら来いどよぉ。」
ふむ?私の仕事に進展があったのだろうか。
「じゃあささっと食べて行こうか。」
会話の後に朝食と言う名の干し肉を齧る、ううむ…ぶっちゃけ不味い。
いやこれは私が贅沢を言っているのはわかっているのだが、現代人類が過去に戻ると食べ物の不味さで餓死しかねないという話を聞いたことがある、確かに実際私は今の食事に不満が無いかと言われたら嘘になってくる、実際不味いのだ。
ハイボルテージボアはその性質上えらく肉が血生臭い、これは牛乳に漬けてからシチューとかのほうがいいと思う。
と言うかこれがご馳走の世界って下に行くほど私は食べられないんじゃ無かろうか?
まあ牛乳が手に入らないから仕方ないけども、カカが持ってきてくれる魚が実質ライフラインになりそうだな。
つまりカカがこの約束を忘れていた場合は死ぬことになる。
朝食を食べた後はタロスとブルゴ殿の家に向かう、もう目隠しはされていない。
担がれてはいる。
「村長ぁ、戦士タロス及び客人モリチカ到着しだ。」
扉を元気よく開けてから跪いてそう言う、ちなみに私も念の為ひれふした。
「よくきましたねタロス、モリチカ…何のために呼ばれたかわかりますか?」
思い当たる節はある、あれだろ?今朝の鳥系少女だろ?
「その事に関しましては…その、村に仇なすとかではなくて個人的な契約を結んだと言いましょうか…」
「…あのハルピィヤの事ではなく、人里の話です。」
あ、そっちか。
わかってる、忘れてた訳じゃないからそんな目で見ないでタロス。
「成る程、それで私は何をすればよろしいですか?」
「…単刀直入に言うならば、あなたには人里に流れ者の転移者として入り込んで貰います。」
「つまりは、諜報ですか?」
「ええ、私の方針としては現段階であの人間たちをどうにかしない限り大きく動けないし異種族合併国なんて先の話になってしまう、だからこそまずは和平を。」
「村長、私も当初その予定でしたが…この村に滞在してる間に見てきたことを纏めると…それは村の指揮に関わると思います。」
「そうね…でもやるしかないのよ。」
「滅ぼせば別の国から兵が来る…それはわかっていますが…人間に家族を殺されたのはカウリやビフン氏だけでは無いでしょう。」
「ええ、だから騙すのです…カウリはそれを望んでいないのでともかく…ビフンには私から言っておきます。」
「同族を騙すことに負い目は無いのですか…ブルゴ殿。」
基本他人なんぞに興味は無いが、怨むべき自分に良くしてくれた人達を騙すと言うなら少し私の気持ちも変わると言うものだ。
だが私の言っていることは正直ただの我が儘に過ぎない、国がかかっているのだ、黙ってやることをやれと言い切ることもできる。
だが私は約束したのだ、もう血は流れない、誰も死なないと。
角に誓ったんだから慎重にもなると言うものだ。
私角無いから何のことかわからんけど。
「…勿論、負い目はあります…でもこうするしか無いの。」
「…ならばせめて、騙さずありのままを伝えましょう…嘘偽りで民を従わせる事はできても救うことは難しいのですから。」
ちなみにこれは昔読んだ漫画のセリフだったかな…とはいえ本心は本心だ。
「…貴方の気持ちはよくわかりました、でも私も長である以上割り切らないと行けないところもあるの…そこはわかってくれるかしら?」
「まあ…無理を言っているのは私です、それは本当に申し訳ありません。」
「いいのよ、それだけ民を…ミノゥース族を考えてくれているんだもの、私がそれを咎めることは無いわ。」
「…感謝します、それで私は手始めに命からがらといった様子で人里に向かえばよろしいですか?」
「ええ、先ずは人里の人達と打ち解けて…できるなら私達の誤解を解いてほしいの。」
「出来る限りやりましょう。」
「貴方1人での仕事だから不安はあると思うけれど…人間ならそんなすぐに殺されることはないわ、それに貴方は転移者だもの。」
「なるべくなら生きて帰りたいものですね…タロスと会えないのは寂しいですが精一杯やらせていただきます。」
「あら、随分仲良くなったのね?」
何を言うか、もう私とタロスはマブダチみたいなもんぞ?多分今のところ向こうからの私の評価は優秀な変態か厄介な変態のどっちかだとは思うけど。
「こいづは…良い奴だぁ。」
「口調を変えて呼び捨てにしただけですが、それでも友として認められたのは嬉しいです。」
「ふふ、では妻に…」
「嫌だぁ。」
すんげえ食い気味に嫌がられたぞ、何てことしてくれるんだブルゴ殿…一切そんな気が無くても心に来た。
「……好みじゃねぇ」
ぐはぁ!?
まじまじ顔をちゃんと見た上でそれは偉く傷付く…うん、本当にちゃんと傷ついた。
血を吐きそうな感情から絞り出すように言葉を話す
「わ、私も…タロスの事はあくまでも友人として接するつもりですので。」
「あら残念ね、人間とミノゥース族の夫婦が正式にできれば橋渡しにもなると思ったのだけれど。」
全部打算込みじゃねえか。
「それに私は研究が好きなので…特にそういう相手を作るつもりは…」
「「え…」」
え、何で2人ともそんな深刻そうな顔するの?
この世界の生物は基本交配、そして次世代に繋げることに本懐を置いているので
「研究したいから結婚しないよ」って人は
「遊んでたいから働かないよ」って言うのと同じようなイメージです。




