烏頭では毒だが一本足すと馬鹿になる
起床、それは読んで字の如く床から起きると言うことだ。
では果たして私は今目覚めたこの状況を起床と言えるか?
私は言えないと思う。
何故か?
まず床が無い。
まあこれはいい、今に始まった事じゃないしミノタウロス族の体重では下手な木製の床なんぞ抜けてしまうからな。
では寝床と書いてみたらどうだろうか?
これはもう簡単な話だ、これは寝床じゃない。
藁だ。
とまあ言ってはみたが別に家の事に文句を付けたい訳ではない。
それよりもこの、私の上で眠る見覚えのある羽毛布団によって起き上がれない事に問題があるのだ。
「昨日のハルピィヤじゃねえか!ええい起きれん!退け!」
あ、軽いから肩を掴んで引き剥がすことはそう難しくなかった。
「タロス氏!タロス氏起きて!」
隣で眠る巨体の尻の辺りを叩いて隣人を覚醒させる。
「…んだぁ…もう朝がよぉ……うぉ…?」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がるすこぶる巨大な友人は未だに眠り続けている鳥類的な何かを見て一瞬怯んだ。
「タロス氏!目が覚めたら此奴が!」
「ん…んぅ…」
結構うるさくしてしまったからか起きてしまったようだ、私は現時点ではタロス氏もいるし隣にはイザベラもいるからあまり危険は感じていない。
しかし、普通に飛び乗られて昨日は気絶したし背中も抉られた。
少しの恐怖もあるというものだ。
「…寝てた、おはよう、元気?」
こうして顔を見るのは二度目だが一度目があのざまだったのもあってか無性に新鮮に見える、ややトラウマになるような出会いのせいで正直この場から一刻も早く離れたいが私の研究者として性がそれをさせず相手の肢体を舐め回すように目が動く。
「お前ぇ、どこのもんだ…ここはミノゥース族の村だで。」
「カカ、は…ご馳走貰った、嬉しい」
「あぁ、聞いでる…勿体ねぇ」
こちらに向けられるタロス氏からの視線にやや恨めしそうな何かが紛れ込んでいるように感じるのは気のせいだろう、うん気のせいだ。
「恩返し、する、お前の子供産むか?」
「尋常じゃない病気にかかりそうなので結構です。」
どうせ総排泄孔だろ?
「そうか、なら何、欲しい?」
さて、どうやら昨日の虫の恩を返しにきたらしい仮定生物Aは私を発見したが起きるまで待っていたら寝てしまっていて朝あのざまだったと…しかし欲しいもの…この生物に頼んでもなぁ…
「何ならくれます?」
「羽とか、いるか?」
「いらないです。」
予想以上に等価交換がガバガバだった。
「んー…タロス氏、どうすればいいと思います?」
「…ハルピィヤは結構美味ぇらしいけんど、人間は剥製作っだりしてるらしいなぁ。」
あらやだ野蛮、流石に見た目だけで言えば多少人に近い生物を解体して食べたり剥製にしたりは少々私の胃が痛みそうなので無い方向で行こう。
「あ、じゃあ体調べさせてください。」
「うん、好きに、しろ。」
お許しが出たので上着がわりに付けている様な布…いやこれ皮だな、まあぼろ切れを剥がすと人間のような所謂乳房のようではなく発達した筋肉の板のような感じの部位があった、乳頭がないあたり何故人型に進化したのかはわからないが本格的に鳥類から進化した人類種に近い何か、と言ったところか。
次に羽に触れる、ぎっしり詰まった羽毛は思ってたよりふわふわで熱を逃がさない方針のようだ、渡り鳥の類なのかもしれないな。
肩から肘にかけての骨は軽いが特段脆いと言うわけではない…解剖して見てみたいが精神力が足りないな。
「腕は指がなく翼腕って感じか、飛ぶときはどうしてる?」
「腕、こう。」
ピーンと両腕を伸ばすとガゴッと言う音がして軸が真っ直ぐになる。
まさか関節を組み替えているのか?
「筋肉じゃなくて骨格で支えるから疲れることなく風を掴んでいられるのか…」
今度は口の端を指で広げて口腔内を見てみると歯のパターンは人間に近いがどちらかと言えば本命の歯は喉の辺りにうっすら見える石臼のような蓋だろう、人間の歯は噛み千切る用と喋りやすくするためと見た。
やはり、と言うべきかはわからんが生殖器は人間の様に肉に包まれていると言うよりかは完全に鳥類の特徴を残している、まあ予想通り総排泄孔だ。
つまりは卵生だと言うことがわかるが果たして卵の形成プロセスは従来の鶏と同じなのか…
「仮定生物Aさん、卵を産んだ事は?」
「かて?えー?」
「失礼、貴女の名前は…カカでよろしいですか?」
「ああ、カカ!」
「じゃあカカ、卵を産んだ経験はありますか?」
「子供は、ない、卵は、ある。」
「…成る程。」
無精卵は産むとかそういうニュアンスか?しかしそれなら味を確かめるのに抵抗も少ないな。
まだ調べ切れてはいないがひとまず纏めに入ろう。
種族、ハルピィヤ。
個体名、カカ。
年齢、どうせ時間の概念すら曖昧な世界だし気にしない事にする。
この生物は人間に良く似ていて脳も大きく発達しているが恐らくはまだ進化途中なのだろう。
体の軽量化をはかるために骨格や筋肉は軽く、しかし分割したことで稼働域が広くなっていて多少空中での浮力を生むために風を拾いやすくなっていると言うことだ。
関節を自由に組み替えられる生物なんぞ私の知る限りでは聞いたことがない…筈だ。
よって考えても無駄なのでそこら辺の原理は死体が手に入ったら見てみることにする。
まあ恐らく複数箇所から筋肉で骨を吊っていて組み替える際に脳が自動で力を入れる箇所を変えているとかだろうが。
「はい、いいですよ。」
「もう、いいか?」
「ええ、虫の代金はこれでチャラでいいですよ。」
「わかった、人間、困ったら、カカ、呼べ。」
「……待った、貴女は何を食べて生きていますか?」
「ネズミとか、虫、あと魚。」
「よし、一緒に住みましょう。」
言葉を発した瞬間タロス氏に指で小突かれた。
「何言っでんだぁ…お前ぇ。」
あ、この表情はわかる…怒りだ。
「い、いやね…この子がいたら私は魚を毎日二~三匹捕まえて来て貰えば食料には困らないしミノゥース族に迷惑もかからないかなって…」
「…でもハルピィヤ飼うっでのは…正気じゃねぇ…」
そんな嫌われてんのこの子達?
「カカ、此処、嫌だ、外なら、いい。」
「魚、取って、くる。」
「虫、いたら、貰う。」
「ほら、こう言ってますし…」
「…おらぁ…村長に説明ずんの嫌だがんなぁ…」
よし、まあブルゴ殿は何とかして言いくるめよう、安定した食料供給先ゲットだ。
「私、カカ、お前?」
「えー、ああ…名前ですね?森近です。」
「モリチカ、覚えた、じゃあな。」
それだけ言うと足早に、と言うか本当に速く走って家を出るとそのまま村の道をダッシュし羽を広げて空へと滑るように登って行った。
「そうか、重たくなる筈なのにやたら発達した足なのは全力で走ってセスナみたいな飛び方をするためなのか!て言うか速いな、もうあんなに…」
隣に隣接された家からドタドタと地響きのような音が聞こえる、重量級のもう一人の隣人が目覚めたようだ。
「何事だ人間さん!」
飛び立っていく一羽の隣人を見守っていると凄まじい剣幕のイザベラ氏が部屋に突っ込んできた。
「モリチカがハルピィヤ飼うんだどよぉ…」
「貴様そんな……え、何で?」
おっと口調がぶれた、本当に疑問なんだなこれ。
「魚を毎日持ってきて貰えば便利かなって……駄目ですかね。」
「…明確に禁止はされていないが…まずこの村も貴様の顔も覚えられるのか?あのハルピィヤだぞ?約束を覚えているかも危うい。」
もしかして:鳥頭?
最近階段で脛を良くぶつけるので柔らかい素材を取り付けたら今度は入り口の隅に足の指をぶつけました。
家の角という角を削り取ろうと思います。




