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命を捨てる覚悟こそが己を信じ込ませる理由になるだろうか

謎の浮遊感に襲われながら私の視線の先では扉を貫く巨大な角、そして轟音。


2人の屈強な男の肉体と肉体のぶつかり合いであった。


「どぐっ!?」


浮いたからには落ちる、当たり前の事だが受け入れる奴は少ないかも知れない、実際私はちょっともがいてからカエルのように地面に叩きつけられた。


「落ち着けよぉ、兄弟!」


「人間…人間!」


血管がいくつもの浮かび上がった丸太のような腕が手四つの状態で力を拮抗させる、ギユウ氏の話によると彼がビフン氏なんだろうが…最初から本気で殺しに来ているじゃないか!


「離せギユウ!」


「落ち着けってんだ…てめぇの家族を殺った奴じゃねえんだよぉ。」


手四つの状態のまま頭を下げ丁度牛同士の力比べのように角も使って押し合いを始める御両人、これ逃げるか?ギユウ氏抜かれたら私は間違いなく死ぬとは思うが。


いや、違うな。


人を怨んでいると言うならばここで逃げるのは違う、まあ私が人間代表と言うわけでは無いがここで逃げてしまうと解決にはならない。


ならばどうするか?いつも通りだ。


危険だからと毎度背中を見せて逃げ回る人間に誰が信頼を置く?誰が協力をする?


私はこれからビフン氏と交渉をするのだ、どのみち1人の力じゃ詰むからな。


「どけ!殺してやる…!」


「この…ちったぁ話を聞きやがれっ…!」


徐々に押され始めているギユウ氏の横を通ってビフン氏の隣に来る、恐らく地団駄に巻き込まれれば即死するだろう。


「すまねぇあんちゃん!一端引いてくれ!」


 ギユウ氏の言葉は耳には入るが通り抜ける、恐怖と緊張でそれどころじゃない。


「おい、あんちゃん!」


 そして私はビフン氏に向かって土下座をした。


「…?何だ…?」


「…あぁ?」


 地面に虫のように這い蹲る人間(下等生物)に疑問を持つ、何故?少なくともここにいたら死ぬことは明らかなのに更にやりやすく這い蹲る?



「ビフン氏、貴方がされたことは私はまだ知らないがそれ程の怒りは尋常ではない。」


「黙れ人間が!」 


 頭の真横にマッスルな足が振り下ろされ、爆音とともに地面が大きく凹む。

 

 しまった漏らしそうだ。


「聞け!私を殺すことは簡単だ、だがそれが復讐になるか!」


 一瞬でも相手が止まればたたみかける、口先八丁でいけるか私!?


「私には何の後ろ盾もない、人里に知り合いもいないただの流れ者だ。」


「貴方のその怒りをこの身一つで静められるとは思わない、だから復讐の機会はくれてやる。」


 返答がない、つまり混乱している。


 即死は無くなったか?


「私はこの世界の人間の味方をしてやるつもりはない、恩義のためにミノゥース族に従う!貴方の復讐のためにも命じられれば助けとなろう、それでも信じられぬと言うなら!殺すと言うなら好きにするがいい!その足をこの貧弱な首に乗せてみろ!」


 地面に頭を擦り付けながら叫ぶ、のども痛いし不安のせいで声が荒くなる。



 しかし待てども待てども衝撃は来ない、成功だ。


「……落ち着いたかよぉ。」


 少し顔を上げるとギユウ氏と繋がれていた手を離し表情が読み取れないが少し気が落ちたようなビフン氏。


「…すまんギユウ…中、入れ。」


 ふらふらと先程破壊した扉を外して中に招き入れる。


 どすどすと足音が遠ざかっていくと頭上から声を投げ掛けられる。


「…お前もだ人間。」


 それを聞き初めて土下座を解く、もう殺される事はないだろう、我ながら良くやるな私…


「…お邪魔します」


 膝や額の土を払って一礼してから家に上がらせて貰う。


「…え…」


 そして一歩家に踏み込むと言葉を失った、それはそこにあった内装のせいである。


組木や自分がわかる限りでは日光や京都の建物に酷似した装飾の施された柱や天井。


明らかに日本、それも宮大工とかの技術が加わっている?


 あれは三猿?


 あっちは竜か?



「これは…」


「何も触んな、(おい)の爺様が作ったもんじゃ。」


「いえその…すみません。」


 まあ、いいや。


 どうせ後で聞けるし多分流れ者案件だろ。


「さて、そんでお前ぇ等は何しに来た?」



「引きこもりがぁ…お前さてはあの宴会来なかったなぁ?」


「最近この世界に流れ、タロスローザ氏に助けられて手前の知識をブルゴ氏に買われました。」


「転移か、ニホンとかいう国か?それとも…あー、何だったか…るっしぃ…あ?」


「ロシア?」


「それだ、あとは…どぅいちぇあ…」 


「ドイツですね」


「それか?まあ外の世界から来た連中が言ってた場所じゃ。」


 3つの国?まあ誰も生きてはいないんだろうが…て言うか言語が通じているのか?いやまず私の言葉は今何語を話している?


 あ、駄目だわからんこれ。



「全て私が住んでいた世界の国の名前です…私は日本から来ました。」


「まあ、俺もそこまで覚えてはいねえけどな、小さい頃じゃ。」


「では流石に会って話すのは不可能ですね…子孫の方がいればよかったんですが。」


「…少なくともヤヒコ…日本から来た奴に子供はいない…」


「…それは何故?」


「俺らと人間さんじゃ子供はできねえ、オークやアマゾンは違うかも知れねえが…それでも人間は生まれねえ。」


 ふむ、まあそれは予想していた通りだ。


 犬と人間じゃ子供は産まれない、牛も同様にな。


「…そのヤヒコさんはミノゥース族と共にいたんですか?」


「いや…俺の母親の妹連れて逃げちまった…あの頃は子供だったから良くわからんかったが…まあ当時の村長が何かしたんだろ…」


 駆け落ちか…ブルゴ氏と似たような感じなら技術を危険視されたか?だが見たところただの大工だろうしな…不味いな、なにもわからん。



「なぁ、あんちゃん…あっちの話はいいんかぁ?」


 しまった真面目に忘れてた。


「そうだ…洞窟内に氷室を作りたいんですが何かいい案はないかと思いまして。」

「無理じゃろ。」


 即答!そんな無理?食料の保存とかは結構重要なんだけど…いやまあ基本この世界の生き物巨大っぽいから無理は無理か…


「でも食料庫は…いやまずこの村の食料保存法ってどうなってます?」


「干したり煙を浴びせたりじゃな。」


 ふむ、最低限の保存技術はあるのか。


「氷室が作れれば生のまま保存はできますが…いっそ掘るか…」


「多人数でやれば早ぇだろうがよぉ…村の食料ってなると相当掘ることになるぞ。」


「今はやってる場合ではありませんね…」


 仕方ないが…これから他の種族も合併するなら食料庫は絶対欲しいな。


「ひとまず置いておきましょうか、取り敢えずビフン氏にお願いがあるんですが…」


「…物によるが、まあ聞いてやらんでもない。」

「…では水車を作っていただきたい。」

 

 間髪入れず発した言葉を聞いたギユウ氏が驚いて私の顔を覗き込む。


「おいあんちゃん…結局作んのか?でも指揮に関わるって…」


「ええ、ですから小さいものを作り目立たないように使います…」


 あんまり構造覚えてないからやや感にはなるがな。


「まあ構わねえが…(おい)はあんなもん迷信だと思ってるしな。」


「助かります…工作が楽になる物が作れるとは思うので更にそれで精密な物を作れる…」


「それも、交渉のためかぁ?」


「ええ…今のままでは人間には敵わないでしょうからね…とにかくまずは研究をします、そして技術を売って同盟を増やす。」


「…ゴブリンやオークはいけるだろうがよぉ…コボルトは難しいかも知れねぇぜ?」


「…つまり?」


「コボルトは自分達の爪と牙を信仰してるからなぁ、武器の類は興味示すどころか敵意持たれるかも知れねぇ。」


 しまった、そりゃそうだが欲しいものは種族によって違うだろう。


 名前がコボルトで爪と牙って言うと恐らくは私の知っている顔が犬のようで骨格は霊長類ヒト科に近い架空の生物…犬…骨?


「骨とか与えたらどうですかね?」

「殺されるだろうよぉ。」


 駄目か、そうか。


 何がいいんだ…犬…実家で飼ってた時は塩分不使用のチーズとかが好きだったが、作れないんだよな。


「コボルトの連中は光り物を好んで集めているとは聞いてるがなぁ…そんなもんケットシーかカーバンクルでもいねぇと手にはいらねぇ。」


 知らない名前がコロコロ出てくる、ケットシー?猫だったっけ?カーバンクルは…額に宝石がめり込んでいる妖精か?


 わからん、もっと詳しく調べておけば良かった。


 だが光り物か。


「人の国を取ったあかつきには財宝を多めにわける、と言ってみてはどうでしょう?」


 外道な考えではあるがこれくらい言わないと伝わらなそうだしな




「まあ俺等は必要ねえしな…貴金属の装飾なんざ溶かしちまえ。」


「聞き捨てならん、装飾が何だ言うんじゃ刃物馬鹿。」


「あぁ?使えねえ飾りなんざ何のために作るんだよぉ?」


「使いもしないってだけならお前の武器も同じじゃろうが。」


「使えないと使わないは違うってんだよぉ、アクセサリーがいざという時何の役にたつ?」


「表出ろ、今日こそわからしちゃる。」


「おー、上等だぁ。」


 お二方の鼻息が荒くなる、これはまずい。


「あー、ありがとうございました御両人、私は少々やることがありますのでここいらでってどわぁぁ!?」


 ビフン氏が放り投げギユウ氏が弾いた大きな木製の椅子が私の真横に突き刺さる。




 いかん、これは死ぬ。





作者はTwitterやってるのでよければ世紀末肩パッドで調べてみてくださいね

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