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天は何より原始を欲する

 鍛冶屋の仕事とは何だ、金物?武器?防具?それともその全ての研や修繕?


 うん、ぶっちゃけると全部正解である。


 だが彼等は鉄で作った高い武器などで狩りをする必要は無いと言っている。

 

 まあそれはそうだ、そもそも武器何て素手で出せない力を延長するように補助するための道具でしかない、ならばそこらの木を削ってある程度硬さを見いだせればそれを投擲するだけで大体はどうにかなってしまう。


 しかしそんなの寂しいじゃないか、製鉄を極め武器を打つ、爆ぜる火花に焦がれる皮膚の火照りそんな一撃一撃魂を打ち付けるように最上を目指した武器の数々が効率的で無いからと埃を被りその身を錆びに被われていくのだ。



 といった事を長々と私に語った彼は私の「どうにかなるかも」という言葉で大いに喜んでくれた、しかしながら今じゃない。


 本当に戦争するならミノタウロスこんなものは使わない、ならばどうするか?


 簡単だ、よそに売る。



「と言うわけで近隣の村の物と取引に使うのは如何でしょう?まあその際リビルドする事にはなるでしょうが錆びていくよりはいいかと。」


「売るったって…基本的には敵対種族だぞぉ?」


 私の言葉に半信半疑といった様子の親方、武器が売れるなら他の国と貿易も捗るってものだ。


 どうせ確実に必要になるのだからな。


「近いうちに必ず味方に引き入れて見せます、どうせ敵は一緒でしょうから…」


「だけどな…本当に最近まで飯の確保のために小競り合ってた連中だ…そう上手くは…」


「ええ、ですから今じゃない…それに取引にこんな重たい物持って行っても商談は成立しませんからね…ミノタウロスしか使えない武器をゴブリンに売っても首を傾げられるだけでしょう?」


「だがなぁ…そう簡単に行くか?」


「…だからこそ親方の腕が輝くのではないですか、ゴブリンが、コボルトが、エルフが、それを見た瞬間欲しいと言わしめるほどの業物を作ってください。」




「ミノタウロスの武器は最高だ!と言わせるほどの物を。」




 ニヤリと笑い、ギユウ氏に詰め寄る。


「お…おお?」


「打ちましょう最高の武器を、和平や交渉は私が取り付けます。」


「まだミノゥース族は小さな村ですが…これから先我々の群れが他の群れを取り込む際必要になるのは食料と武力です、ならばそれを担うのは親方達です…引き受けてくれますか?」



「…へへ、あんちゃんの話しを聞いてたら騙されてる気分になるなぁ…だがいいぜ、打とう。」


 どういうことかねギユウ氏?私嘘つかないヨ。



「ああ、あんちゃんにも何か作ってやるよぉ…何がいい?」 


 待て、目を輝かせながら不穏なことを言うんじゃないよ。



「い、いえ私は戦えませんので結構です、」


「馬鹿言うなよ、男に産まれたからにゃあ戦場こそが最高の居場所じゃねえか…遠慮すんな、何がいい?」


 おい逃げるコマンドが使えないぞ。


 ま、まあ…私が戦うことは無いだろうからな…作ってもらうこと自体は悪くない。


「えー…ではその…飾りの少ない鉈でも…」


「おう!任せとけぇ!」


 いい笑顔で胸をどんと叩くギユウ氏、絶対必要になることは無いと願いたいが取り敢えず仕方ない、貰えるものはありがたく頂こう。


 しかしどうやらこの村には旋盤の技術は無いようだ、まあ動力無いしそれは仕方ない、しかしどうにかして旋盤か何かを作らなければいつか生産者側が倒れる事態が来そうだ。


 さてどうする…回転エネルギーが欲しいなら風か水か…まあ水だな。


 水車は確か無かった筈だが何で作ってないんだろうか?滑車とかがあるなら作りそうなものだが。


「親方、この村に水車…水を動力として動かす輪っかのようなものはありますか?」


「ああ?水車かぁ…あることにはあったが…あれはなぁ…」


「…何かあったんですか?」


「あ、いや…まあいいか…人の国でだがなぁ、昔水車を使って空から降ってくる光の矢の力を使おうとした連中がいてな。」


 光の矢、雷かな?


 水の力で作れる雷の力…ああ、つまり水力発電か。

 まあ私と同じ転移した奴らの仕業だろう。


「最初は上手く行ってたみたいだが…どうにも何かが逆鱗に触れたらしくてな、めったに姿を見せねえ古龍に周囲の森ごと全部焼き払われちまった。」


「…それはただの偶然では?」


「俺もそう思ったがなぁ…そう言う技術を使ったところは遅かれ早かれろくなことにならねえ…まあ水車だけなら問題ねぇだろうが。」


 つまり纏めると、技術を進めすぎると不思議な引力で滅びに向かう、そしてどこがリミットかはわからない。



 諸君、私は冷静だ、いや一周回ったとも言える。


 だってさっきまで蒸気機関なら作れるかとか考えてたもん。


と言うかカウリが言ってたのもそう言うことなのか?いかんな、全てが疑わしく思えてきた


 しかしこんな事で私は挫けない、かかってこい古龍に天変地異!


 いややっぱ帰れ。


「たとえそれが迷信だとしてもあまりおおっぴらな道具は作れませんね…指揮に関わります。」


「あぁ…あんちゃんのあのちっせえナイフも使わねえ方がいいだろうな。」


 うーむ、持ったないな…まあわからん殺しされるよりはましだが。


「進みすぎる技術は謎の力によって淘汰される異世界…謎、謎か…くく…研究のしがいがある話じゃないか…」


「…あんちゃん大丈夫かぁ?」


 滅茶苦茶怪訝な顔を浮かべてくるギユウ氏にそっと向き直ると笑顔で話す、どんなときでも笑顔が大事だ。


「失礼、大丈夫ですよ。」


「うっ…不気味な顔だなぁ…本当に大丈夫かぁ?」


 どうやら私の笑顔は不気味なようだ、畜生もう二度と笑わんからな。


「ところで親方、鉄があるってことは鉄鉱脈があるんですか?」


「まぁ大したもんじゃねえけどな…いろんな種族がばかすか掘って穴だらけにしちまったから今じゃあんまり取りにもいけねぇよ。」


「ふむ…洞窟はありますか?」


「ああ?そりゃぁあるにはあるが…毒で死ぬから誰も近寄らねえぞ?」

「毒…呼吸が出来なくなったり体が痺れたりですか?」


「いや魔物の住処になってんだぁ、岩場で擦り傷なんて作ったらそれだけで切り落とさねえと腐っちまう。」


 成る程、それは元の世界でも聞いたことがあるな。


 まず蝙蝠が住み着いてその糞を食べる虫が住んでそれを食べる蛇やもっと大きい生物も住んで…蝙蝠の糞で雑菌だらけだから噛まれたり擦り傷でも作ったらえらいことになる洞窟、硝酸はとれるかもしれないが危険がすぎるな。


 なんだってミノタウロスが危険視する洞窟に挑まねばならんのだ。


 となると…ああ駄目だここ水洗トイレか。


「ことごとくあてが外れますね…洞窟に蝙蝠だけなら硝酸も確保できるし便利ですが自分の世界の生物の尺度で考えては死ぬでしょうし…氷室も作りたいですがその分じゃ難しいですね。」


 私がぶつぶつ話していると困ったように後頭部をかきながらギユウ氏が降参と手を上げる。


「…あー、悪ぃがあんちゃん…俺は鉄以外の事はからっきしでな…大工のビフンならわかるだろうが、紹介するか?」


 この世界の名前の付け方本当にそれでいいのか?


 下手すると過去の転移者が適当に付けてるとかありえるぞ。


「ビフン氏…ですか?ええ、今日は村を回る日だったのでありがたいです。」


「おお、じゃあいくか!」


 そう言うとギユウ氏は私の脇の下を掴んで軽々と自分の肩に乗せた。


 ああ…うん…遅いよね、人間。

 


「~でな、昔からあいつとはよく腕を競ったもんだ…だが偏屈な奴だから気をつけろよ?下手な事言ったらハンマーが飛んでくるかもしれねぇ。」


 楽しそうにずしずしと重低音を響かせながら歩くその姿はまさに金剛力士のような迫力を思わせる。


「っと、あそこだ。」


 ギユウ氏が指差す先には豪邸、と呼んで差し支え無いような豪勢な飾り細工を施された家だった、やはり床は土間が必須なのか平屋のようだがそれを差し引いても見事な作りと言わざるをえない。



「おーい、俺だ、ギユウだ…いるんだろう?ビフン!珍しい人間の客だぞー」


 ノックをしながらそう言うと建物の中から大きな足音が慌ただしく近付いてくる



「ん、あぁ…まずい…」


 そうつぶやくと体に力を入れて踏ん張るギユウ氏。




 そして謎の浮遊感と共に私は風を感じた。


初めて評価いただいちゃいました!嬉しい!

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