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様式美ともいえる開幕即死

 君達は自分が人間であることをこの場で証明することはできるかね


 私は、いやおそらくそれは何者にもできない、できることではない。

 では人間の定義とは?


 二足歩行ができて脳が発達していて会話ができる?


 それだけの権能を持っているから己等を万物の霊長だと言えるか?


 言える、と考えてしまえばこの話は終わってしまう、しかしそれを私にはとてつもなく乱暴な話に聞こえるのだ。


 環境が違っていたら我々の地位に立っている生物は変わったかもしれない。


霊長類人科など塵芥の如く搾取され淘汰されるだけの世界かもしれない。


 それこそこの世に蔓延っていた生物が幻想の怪物ばかりであったら真なる人類種とはどうなっていたのか。


 これはそんな世界を旅し、観測する青年のお話







 真夏日だと言うのにじめじめと蒸し暑く、限りある大学生活の殆どを研究という名の趣味に没頭する。


 そんななんとも縁起の悪い顔をした、堕落した学生達が集まる研究室。


 その中の1人が自身のノートパソコンに映し出される蜘蛛の胴体に人間の上半身のみ乗った、何とも生物学的にアンバランスな生命体と性行為を行う絵を見ながら呟く。


「アラクネってどうやって体支えてんだろうな。」


「えー…普通に考えて外骨格だし人間だいの蜘蛛ってだけで相当な重量ですよね…ってか研究室でエロゲーやらないでくださいよ高田さん。」


「あー…可愛いアラクネ娘と付き合いてぇ…なんなら突き合いてえ」


 パソコンの前に突っ伏し汗臭そうなYシャツの袖で額に滲む肉汁を拭う肥満体の男に、痩せ細り顔に対して明らかに大きな眼鏡をつけた後輩が苦言を呈する。


「下半身は蜘蛛でしょう?それも人間サイズの…身動ぎでもぎ取れそうな質量してそうですね…やっぱ亜人種ならエルフですぞ。」


「ロマンが無いねぇエルフスキーは…あんな耳が長いだけのほぼ人間の何がいいってんだ。」

 

この一言がかんに障ったのか後輩の伊達は顔を耳まで真っ赤に染めて息継ぎ無しの早口でまくしたてる


「はー?まず第一にエルフが耳が長いだけとか言う安直な考えを訂正していただきたい、あれは森林で僅かな音と光を頼りに動くために耳が発達した姿で体だって木々の上を走ったり捕まったりする事に特化した長い手足とか投石や弓術も扱える繊細な指先とかエモい機能美が詰まってるんですが!?

そもそも下半身蜘蛛とかいう物理的に動けるかも不安な生命体よりよっぽど実在している可能性も高いですぞ!」


「お前が今言ったエルフの機能美まとめたら殆どチンパンジーじゃねえか!いいんだよ物理的な解釈とかは!俺はあの長い手足で包まれて甘やかされたいだけなんだ!」


 対する先輩の高田もだらだらと流れる汗を振り乱しながら叫ぶように反論する。


 この二人はいつもこうして不毛な争いと言わざるを得ない論争を繰り広げてはクーラーの壊れたこの研究室の体感温度を3℃は上げている。


 例えエルフやアラクネの類が実在したとしても人類種のこの二人だけは相手にしないだろう、そして決まって話がヒートアップするとこの二人は言うのだ。


「「お前は(貴方は)どう思う!?」」

 

 そして私も決まってこう返すのだ。


「知るかボケ。」

 手にしていた緑茶のペットボトルで2人を全力でひっぱたく。


「「ぐあぁぁあ!?」」


「高田さん、いつまでもゼミに籠もってゲームやってないでさっさと自分の研究してください、てか明日までに風呂入って来なかったら次は瓶で行きます。


 伊達はうるさい、本当に何もかもがうるさいからなるべくなら静かにしていてほしい、呼吸も含めて。」


「俺に働けと!?」

「私に死ねと!?」


 2人の絶叫のような言葉を聞く前に研究室を出る、大学生活は有限なのだ、(主に経済的な事情も含めて)少しも無駄には出来ない。


 と言うわけで下宿に向かう前に研究室の前の花壇に留まるアゲハチョウを大層興奮した様子で眺める老人に声をかける。


「教授、柿原教授。」


「し、静かに……今アゲハチョウが蜜を吸いにきたところなんだ…可愛いだろぅ…はぁ…美しい。」


 類は友を呼ぶと言うが存外教授もこんなキャラなのであの二人がこの研究室に招き入れられたのも無理はない、と言うか納得できる。


「何でもいいですけど…私帰ります、研究したい事柄があるので」


「む、そうか…すまないね結果を出してないからかクーラーを直す費用すら貰えなくて、蒸し風呂のようだろう?」


「ええ…鼻も麻痺しましたよ。」


 視覚情報で小汚い2人に鼻まで封じられ2人の論争により耳を失ったら次に失うのは味覚だろうか?


 その前に理性を失ってあの二人を殺め、花壇の肥料にしてやるのが先かも知れない。


「ああそうだ…これを。」


 何かを思い出したように人差し指を立てると、右ポケットから掌よりやや大きいラッピングが施された箱を取り出し、私に差し出す。


「君にはまだ渡せていなかったからねぇ…こんなものを研究室の子達に渡すのもおかしな話だが…研究で野山を歩かないと行けないときには便利だ…開けてみなさい。」


 言われるがままに箱を開けるとそこにはやや高級そうな多目的用途ツール、わかりやすく言えば十徳ナイフだった。


「これは…なるほど、ありがとうございます。丁度、というわけではありませんが買おうと思っていたので…嬉しいです。」


「ああ、それが必要な事態はなるべく起こらないほうが平和だが…だが遭難したときには金塊よりも魅力的に見えるさ、自然界において野生を忘れた我々は食べやすいおやつも同然なのだからね。」


「肝に命じて置きます…それでは教授、失礼します」


「うむ、沢山学びなさい」


 よくわからない仙人のような言葉を最後に教授と別れ下宿に向かう。


 山での散策はまだ予定していなかったが、私は何を隠そう新しい玩具を貰ったらすぐに使ってみたくなる人間だ。


 そうだ、次の休日には手近な野山にでも行ってキャンプ紛いの研究と称した散策を行ってみよう。


 何てことを考え歩いていたら突如腹に衝撃、前から歩いてきた男とぶつかったのだ。


 玩具も貰って上機嫌である私は笑って許し快く立ち去ろうと思ったがふと違和感を覚えた。


 どういう訳か男は顔色が悪く目線は安定せず脂汗をかいて震えている、すると突然男の身長が伸びた。いや、私が膝を折ったのだろう。




 体に力が入らない、それに腹が熱い。


 ここで違和感の正体に気づく、私はこの目の前の男に刺されたのだ。


「あっ…ぐぅ……な…」

 何で、その一言すら喉を通過する前に赤い濁流にかき消され口からは血が滴る。


 そして激痛、気づかなければあるいはもう少しだけ痛みに疎くいられたかもしれない、しかしそうはならず突如舞い降りた感じたことのない痛み、血液を失い急激に寒気を感じる肉体、霞む目に朦朧とする意識。


 余すことなく感じる怒涛の感覚に理解したくないことを嫌でも理解してしまった。


 死ぬのだ、私は今ここで20年間の短い人生を締めくくることになるのだ。


 そして



 私の世界は暗転した。

処女作になるので書き方が覚束無いところはありますが何となく設定や気になった点があれば見ていってください


そして指摘はガンガンお願いします


作者は生物学を学んでいる訳ではないのでツッコミ所などがあれば是非コメントにて

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