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第9話

「だから魔法の並列起動の練習してたのか」


「貴様、見てたのか」


「まぁチラッと」


 キッと睨んでくるケイ。


 気持ちは分からないでもないが見ようとして見たわけじゃないから許してほしい。



「じゃ、お詫びと言ってはなんだけど教えるよ、並列起動」


「はぁ? 貴様、何言ってるんだ」


「いや、出来るようになりたいんだろ? だったら教わったほうが手っ取り早い」


「そういう意味じゃない、教えたって貴様にはなんの得も無いだろうが」


「じゃあ要らないのか?」


「いや、それは……」



 逡巡するケイ。


 自分のプライドと多重起動の技術、どっちを取るかで悩んでいるようだ。


 だが、俺には1つ確信していることがある。

 それは……



「……分かった、教わってやろう」


「なんでそんな偉そうなんだよ」


「ふん、僕がウィンドレア家の人間だからに決まっているだろう」



 ケイは絶対に断らないということだ。


 アレだけの完成度の魔法、才能、というだけじゃ片付けることなどできない。


 きっと今見たような努力を重ねてきたんだろう、多少態度は歪んでいたがあの自信はそれに裏打ちされたものだ。



 何より、コイツは昔の俺に似ている。


 魔法の魅力に取り憑かれた者なんだ。


 魔法について学べば学ぶほどにもっともっとその先が知りたくなる。


 だからこそ、例えプライドを捨てたとしても魔法の知識が欲しいのだ。



「まぁいいや。まず、魔法陣の空間固定の仕方から。といっても、お前はもう殆ど出来てるんだけど」


「出来ている? すぐ消えてしまうのにか?」


「それは固定が甘いだけ。慣れないのに俺の真似をして何もない所に固定しようとするからそうなる。両手を突き出して、そこを基準にして固定してみろ」


「こう……か?」


 両手を突き出すケイ。


 そのまま、手のひらに2つの魔法陣を生成して、固定。


 先ほどとは違い、かなり安定した状態になっている。ギリギリ合格点といった感じだが、少なくともすぐに壊れてしまうことはないだろう。



「そう。そのまま起動だ。ちゃんと詠唱付きでな」



 そう言うと、ケイは素直に頷いた。



「分かった。氷の精よ、我が敵を凍てつかせろ!」



 その言葉とともに魔法陣が起動、2つの氷柱が放たれた。片方は的を砕いて、もう片方は外れた。



「出来た……? 出来たぞ……! おい、見たか!? やったぞ僕は!!」


「わ、わかったから。離れてくれ」



 出来たのが余程嬉しかったのか我を忘れて大興奮のケイ。


 だがすぐに気が付いて恥ずかしくなったのだろう。飛び退くように俺から離れる。



「お、おい。今のは忘れろ……」


「はいはい。でも凄いな。正直なところ、1発で出来るようになるとは思わなかった。」



 どうやら思ったよりも、ケイには魔法の素質があるらしい。


 それに加えて努力も欠かさない、鍛えればかなりの魔法使になるに違いない。


 そんなことを考えていると、ケイが口を開いた。



「……貴様、名前は?」


「試合の前に名乗っただろ」


「知らん。聞いてなかった」


「お前な……」



 この性格だけはなんとかならないものか……。



「ペイル。ペイル・サルバラージだ。今度こそ覚えとけよ」


「あぁ、分かった。……ペイル、貴様には僕のことをケイと呼ぶことを許そう。いや、最初からそうだったから今更だが」


「本当にな」



 どちらからともなく、自然に笑いが起きた。


 最初はクスクスと、だんだんと大笑いになって、2人で訳が分からなくなるくらい笑った。



「フフ、ハハハハ! お前は本当におかしななやつだ!」


「ヒーッ、ヒーッ、お前こそな」



 一通り笑い終えた時、残ったのは心地よい疲労感だった。


 辺りは既に真っ暗になっていて、空には星がとても綺麗に瞬いていた。



 ◇



「僕は一旦部屋に帰ろうかと思うんだが、ペイルはどうするんだ?」


「俺は……」



 どうしようかな。


 塔を調べよう、と思って出てきた訳だがケイとなんだかんだしているうちに大分遅い時間になってしまった。


 このまま調べに行ってもいいが、今すぐに行かなきゃいけないって訳でもない。


 俺も今日は部屋に帰るか。塔はまた明日にでも見に行けばいい。



「俺も戻るよ、部屋」


「そうか。僕は片付けてから戻るから、先に戻っててくれ」


「分かった。じゃあな」


「ああ」



 言われるまま、自主練習場から出て寮へ向かおうとする。



「……おい!」


「なんだ?」


「今日は、すまなかった。……あと、ありがとう」


「どういたしまして」


「だが、次は負けないからな!」


「楽しみにしてる」



 本当に、いつか俺のライバルになってくれるかもな。


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