第7話
試合が終わったあと、サラ先生は
「色々疲れたでしょうから、今日は一旦解散にしますー。明日からは授業なので、そのつもりでー」
と言って演習場から出て行ってしまった。
そのあとで、やはり相当悔しかったのだろうか、ケイも無言で立ち去っていく。
この後は……そうだな、体を動かしてお腹も減ったし食堂でも行こうか。
そう思って俺も出て行こうとすると、ミーアとマホに呼び止められた。
「あの、ペイルくんだっけ? 同じSクラスになったんだしさ、みんなで夕飯食べないっ?」
「みんなで?」
「そ、親睦会ってやつ?」
なるほど、それは面白そうだ。
ミーアもマホも、まだ名前を聞いただけでどんな人間か殆ど知らないし。
あれ、でも……。
「ケイはどうするんだ?」
「えっと……、ウィンドレア様も本当は誘いたいんだけど……」
「多分、イヤミみたいになっちゃうんじゃないかな……? ってミーアと、話したの」
仲間外れみたいになっちゃって申し訳ないんだけどね、と苦笑する2人。
まぁそれもそうだろう。あの感じだと、誘っても素直に来るとは思えないし。
ケイには悪いが今回は3人で親睦を深めさせて貰おうか。
俺が了承の返事をすると、2人で嬉しそうに「やったね」とハイタッチ。
女子2人はもうだいぶ仲良くなっているようだ。
「じゃ、早速食堂行こっか! あ、でも私食堂の場所知らないや。2人はは知ってる?」
「悪い、俺も知らない。昼は部屋で弁当食べてた」
「私、知ってるよ。あの、お昼、食堂で食べたから」
「じゃあマホ、案内お願いしますっ」
「わ、分かりました、頑張ります」
そんな感じでワイワイ話をしながら、俺たちは食堂に向かったのだった。
◇
マホの案内で無事食堂に着いた俺たち。
いくつかある定食の中からそれぞれ選んで空いている席に着く。
……だがその間、俺たち3人は周りからの視線を受け続けていた。
「ほら、あの人がウィンドレア様に勝った人だって」
「入ったばっかなのにもう魔法2つを並列起動出来るってすげーな」
「私試験会場で見ちゃったもんねー」
「えー、良いなぁ」
「ってか他の2人も可愛くね?」
「確かに。Sクラスって顔もいいんだな」
ワイワイガヤガヤ……。
なんか今朝も見たなこの光景……。
「えっと、これはすごいね」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいかも……」
ミーアとマホも困惑しているようだ。
「悪い、俺のせいでこんな感じになって……」
「ううん、ペイルくんのせいじゃないよ」
「そそっ、気にしない気にしない!」
「そう言ってもらえると助かる」
ところでさ、とミーアが話を変える。
「すごかったね、さっきの試合。もう魔法の並列起動ができるなんて、びっくりしちゃった」
「私も……。確か、あれって卒業までに出来るかどうかくらいの技術だったよね?」
確かに、並列起動が10歳で出来るというのは200年前の基準でもかなり早い方だ。
驚かれても無理はないだろう。
まぁ前世で俺が10歳だった頃は既に4つの並列起動が出来たのだが。
「もしかしてさっ、ペイルくんは入学前に誰かに教えてもらってたとか?」
「いいや、全然そんな事ない」
「確かに、魔法と魔術の違いも知らなかったらしいしねー」
そう言って笑うミーア。
「ふと思ったんだけど、なんでミーアはその話知ってるんだ?」
「おじいちゃんがね、言ってたんだ。入学試験におかしな生徒が来たって」
「おじいちゃん?」
「あのね、さっき聞いたんだけど、ミーアって校長先生のお孫さんらしいの。だから、貴族様なんだって」
「え、そうなのか?」
「そうでーす。ぶいっ」
ピースサインを作るミーア。
人当たりが良く、いい意味で貴族っぽくなかったから全然気がつかなかった。
というか校長も貴族だったのか……。
「貴族ってことははやっぱミリオン様、とか言った方がいいのか?」
「いいよいいよ今更。私、そういうの堅苦しくて嫌だし。今まで通り気軽にミーアって呼んで!」
「というかペイルくん、ウィンドレア様のこともケイって呼んでたよね……?」
「いや、まぁそれはそうなんだけど……」
「そうだよ、ミランダ王国最大の名家ウィンドレア家の長男を呼び捨てにするんだから。私すっごいびっくりしちゃった」
あいつ、そんなに凄い貴族だったのか。
同じ貴族であるミーアも様付けで呼ぶってことはそれより上だろうとは思っていたが、そこまでとは。
「もしかして俺、不敬罪とかで捕まったりする?」
「いやいや、そんな事にはならないと思うよ? 学院に入ったら身分関係なく生徒っていうのが原則だから。私は昔からの癖で様付けしちゃうけどね」
そうか、なら一安心。
流石に犯罪者になってしまうのは避けたい。
『俺』の名前が出て少し熱くなりすぎたのも反省しなければ。
「ちなみになんだけど、マホも貴族様だったり?」
「う、ううん。私は全然。ただの平民だよ」
「じゃ、平民仲間ってわけだ」
手と首をブンブン振って否定するマホ。
それに合わせて揺れる胸は意識して見ないようにする。
「こうやって見ると、私たちのクラスって身分バラバラなんだねぇ」
「確かに」
「私、貴族様と話すのなんて初めてだから……。緊張しちゃう」
「もー、気にしないでって言ってるのに」
「そ、それでもー」
和気あいあいと話しながら食事が進む。
入学最初の夕飯の時間は、こうして楽しく過ぎていったのだった。