第3話
「素晴らしい!!! ペイルくん!! 貴方魔法が使えるのですね!!!!!!」
はぁ? どういうこと?
困惑するおれを他所に教師は大興奮した様子で素晴らしい、素晴らしいと繰り返す。
「どうして最初に言ってくれなかったんですか! こうしちゃいられない、すぐに特別クラスの手続きをするので待っててください!」
「え、ちょ、待ってください、話を──」
えぇ……。
何がどうなっているのか聞こうとしたが、そんなことはお構いなしに走っていってしまう教師。
いや、意味が分からない。
本当に1番簡単な魔法を使っただけだぞ?
何を興奮する理由があるんだ?
というか魔術と魔法は違うのか?
じゃあ魔術ってなんだ?
ダメだ、疑問しか浮かばない。
あ、後ろの生徒たちグループのザワザワも大きくなってきた。
「おい、あれ魔法らしいぞ」
「えー凄い! 私初めて見ちゃった!」
「私もー、友達に自慢しちゃおー」
「ってかよく見たらカッコよくない?」
「確かに! 私タイプかもー……」
「おい、だれか話しかけてこいよ」
「えー俺やだよ、お前が行ってこいよ」
ワイワイガヤガヤ…
……居心地悪っ。
なんでも良いからとりあえず移動させてくれないかな。後ろからの視線が痛い。
そうして散々好奇の目に当てられること3分、先程の教師が戻ってきた。
あー、やっとこれで解放される……。
「すぐ担当の者がくるので、すみませんがペイルくんはもう少しだけ待っててください。他の方は試験を続けますよ。次はバニさん、バニ・レイナさんお願いします」
おいおい、まだ待たされるのかよ。
ゲンナリしている俺はほっといて試験は進む。
バニ、と呼ばれた女の子が前に出てきた。
あ、俺のことチラチラ見てる。
しかし、流石に試験の方が大事なのかすぐに意識を的の方に集中させる。
両手を前に突き出したかと思うと、小さな声で呟いた。
「ライトニング、ボルト」
瞬間、手の平から電気の矢が放たれて石の的に命中、霧散する。
それを確認するとバニは安堵した表情を浮かべ、教師も感心した顔をする。
「ほう、中々良いですね。ちゃんと予習してあります」
「えへへ……」
照れたようにバニが笑って、生徒の集団の中に戻っていく。
その様子を見た俺の頭の中では、さらに深い困惑と驚愕が広がっていた。
え、何アレやば。
今の何? え、魔術? 嘘だろ?
あまりにも魔法と違いすぎる。
◇
この驚きを皆さんに分かってもらうためには、まず魔法の発動プロセスを説明しなければならない。
魔法発動には5つのプロセスが必要になるのだ。
①標的に狙いを定める。
これが出来ていないとあらぬ方向へ魔法が飛んでいく。最も基本かつ最も重要だ。
②魔力を集める。
体内の魔力を集める。これは結構感覚的なもので、魔法適性のある者は大体意識せずに出来る。
③魔法陣を生成する。
集めた魔力で魔法陣を作る。ここでどんな魔法をどんなふうに発動させるかを決める。
④詠唱する。
これは魔法陣がしっかり出来ていれば省略できる。が、詠唱があれば魔法陣の精度が低くても発動できるようになる。
⑤発動。
魔法陣を起動し、魔法を発動する。
この5つのプロセスを経て、さっきの火の玉は発現したわけだ。
しかし、バニの使った魔術は違う。
体内の魔力を使っていない。
熟練した魔法師は他人の魔力の流れや総量が分かる。
まぁ勿論俺も分かるわけだが、今の魔術ではバニは一切体内の魔力を消費していない。
それどころか、動かした気配すらなかった。
しかも、魔法陣を使っていない。
今のバニの動きをしっかり見ていたが、確かに魔法陣は影も形もなかった。
予め魔法陣を書いてどこかに隠し持っていたとか?
200年前には予め魔法陣を生成して何処かに写しておき、それを起動する魔法師がいたし。
いや、それでも魔法陣は発光するし起動時に魔力を使うから、バニが持っていれば気付くはずだ。
つまり、魔術は世界最強の魔法師である『極魔法皇エルギスト・ハルメロード』にとって、未知のものであるということだ。
◇
えぇー、すご!
ヤバイぞあれ、思わず語彙力がなくなるくらいヤバイ!
魔力を使わないってことは、無限に撃てるってことか!?
アレが!?
しかも魔法陣も要らない!
めっちゃ早く撃てるじゃん!
うぉぉぉぉぉぉぉぉ魔術すげーー!!!
200年後に転生して良かったーー!
内心大興奮していると、グラマラスな金髪の女性が走り寄ってくる。
ほわほわした雰囲気がなんとなく母さんに似てる気がした。
「黒目黒髪……、君がペイルくん? 遅れてごめんねー」
「あ、はい、ペイルは俺ですけど……。あなたは?」
「あ、ごめんごめん。私はサラ。この学校で教師をしてるのー。魔法特別クラス、Sクラスの担任予定でもあるよー」
自慢げに胸をはるサラ先生。
かなりの巨乳なのでなんとなく目のやり場に困る。
「えっと、じゃあ俺はどうすれば良いんですかね」
「とりあえずこれから一回校長先生のとこかなー? 正直イレギュラー過ぎて私たちじゃちょっとどうすれば分からないのー」
サラ先生はついて来て、と言うと校舎に向かって歩き出す。
色々と聞きたいことはいっぱいあるけど、しょうがない。
俺はサラ先生についていくことにした。