登場人物に関わらないとは言っていない
主人公の語りと喋りで口調が違います。読みづらかったら申し訳ないです。
どうも、転生令嬢です。エレナ・チネリと申します。
死ぬ時の話はさして重要ではないのでパスしよう。
私が転生したのは乙女ゲーム、ではなく小説の世界。まぁ、どちらにせよ日本人が考える中世ヨーロッパ風ファンタジー世界ってことにはかわりはない。
物心ついたときには転生者で、前世の知識を持ってはいるが、世の常識をわきまえた子供であった。私が転生した小説は有名ではなく、偶然私が死ぬ直前にネットで漁って読んでいた話だったのでこの世界と同一であると気が付くことができた。
小説は自分に自信のない公爵令嬢と、彼女を一途に思っているのにその気持ちに気が付いてもらえない王子との恋愛物語である。そして私はその殿下の一学年下で同時期に学園に通うことを除けば共通点も接点もないしがない伯爵令嬢である。伯爵という地位は決して低いものでもないが、普段は領地にいるので王都にいる王子や公爵令嬢と顔を合わせることもないのである。
そういうわけで私は物語のモブであると結論付けてよいであろう。貴族の子供達は一定年齢になると王都の学園に集められ、そこが物語の舞台になるわけだが、入学前だろうが後だろうが私は小説のことなんで気にせずに暮らすのだ。王子も公爵令嬢も知ったこっちゃない。幸いジャパニーズファンタジーなので日本人的価値観を持つ私でも暮らし易い世界で万々歳だ。
学園への入学は15歳から、それまで私は伯爵領で悠々自適に暮らした。入学の一年前の社交シーズンに初めて王都に行き、あちこちのお茶会に出席して予めある程度の人脈を築く。そして準備が調えばあっという間に入学だ。王都には伯爵家の別邸もあるが、学園の寮に入寮する。小説のことは頭の隅にはあったがどうでもいいので全然気にしていなかった。
だから、だからすっかり失念していたのだ。
物語のために犠牲になる空気の読めない娘が小説に登場するということを。
その彼女が私と同学年であるということを。
彼女の名前はマリア・モーリッツ、男爵令嬢である。彼女は男爵の庶子で、引き取られて学園に入学するという設定だ。物語の中で、彼女は王子に好かれようと王子につきまとう。そんなマリアを見た公爵令嬢はますます自信を失うのだ。決して勉強の出来は悪くないのに空気が全然読めない。そんな彼女を相手の裏の裏を読むような貴族社会に放り込んだ男爵の脳味噌はどうかしているのではと思う。あぁそうか、男爵は馬鹿だった。
そんな彼女がよりにもよって同じクラスである。頭が痛い、痛すぎる。しかし、前世でもクラスに問題児がいることはよくあることで、彼女も好きで問題児をやっているわけではないのだから、私の寛大なる心で耐えて見せましょう。
「ペアになりましょう。」
ボッチにとって言われたくない台詞を先生が言う。今回は美術の授業、お互いの顔をスケッチするとかそういうやつだ。まぁね、授業の進行的にもペアを組むのは重要だとは思いますがね、ボッチにはつらいものですよ、自分から知り合いに声をかけても既に仲のいい人と組んでいたり、余りになるのを待つのもつらいし、余りの人と組むのも気まずい。そこには微妙な空気しかありません。
まぁ、幸い私には入学前からの人脈がある。王都組には仲良しグループもあるが、私と同じように領地から出て来た子なら声をかければ応えてくれるだろう。そう思って席を立とうとした時、
「あのっ!私とペアを組んでくれないかなっ!」
マリアちゃんが声をかけてきた。初対面でそのテンションなのね。私の脳内では衝撃の嵐が吹き荒れるが、貴族令嬢仕様鉄壁仮面で隠す。おかしいな、マリアちゃんと私の席は離れているぞ。あっ、そうか、自分の席の近所から声をかけていたんだけど、断られ続けてそのままそれを繰り返しながらここまで流れて来たのか。彼女の席から私の席をつなぐ最短ルートに座る学友達が私を可哀想な目で見ていた。
マリアちゃんの物怖じしない性格は市井ではコミュ力の固まりになるかも知れないが、貴族社会では怪しまれるだけである。自分が入学早々嫌われているとは知らないマリアちゃんのおめめはキラキラしている。うーん、どうしても組みたいほどの友人もいないから断りづらい。このクラスは偶数人だからどうせ誰かが彼女と組まなければならない。仕方ないかな…、
「マリアさん、でしたよね。私で良ければどうぞ。」
受けて立とう。クラスメイトの安堵のため息と感謝の眼差しを感じる。誰だってトラブルメーカーとは関わりたくないものね。
私はその後、美術の時間を上手くこなした。スケッチの出来も上々だ。問題児ではあるがマリアちゃんは可愛いので描く方にも熱が入った。しかし、それからとある問題が発生するのである。
「エレナ様ーーーーー!!!」
彼女が私につきまとうようになったのだ。はじめは敬称なしで呼んできたが、それは色々と不味いので様をつけないと絶交するぞと脅して付けさせた。身分は私の方が高いんでね。
まぁ、友達が全然出来なくて、唯一話を聞いてくれた変わり者が私しかいなければ当然つきまとうようになるだろう。彼女は寂しいのだ、その原因が自分にあるとは到底気が付きもしないが。
「マリアさん、廊下を走ると他の人の迷惑になるからやめなさい。それで、どうしたの?」
「ユリウス先輩が私のクッキー受け取ってくれなかったぁ!!」
「当然でしょう。」
「わぁぁぁ!エレナ様までぇ!ひどぉい!私みたいな人間が作ったものは汚くて食べられないっていうのぉぉ!」
「落ち着きない、早とちり娘。どうして食べられないか今から説明してあげるからちゃんと聞きなさい。」
感情のままに走り出そうとするマリアの腕を捕まえて落ち着かせる。このままほっといたら被害がひどくなる。尚、ユリウス先輩とは例の王子殿下である。
「マリア、説明してあげるから最後まで聞いてちょうだいね。じゃないともう口をきかないわよ。」
「うぅ、ききますぅぅ。」
「はぁ、まずね、ユリウス殿下は王族であられるの、つまり貴族にとっては欠かせない存在なのよ。あなたの思っているよりも三千倍は崇められているわ。」
「知ってるもんっ!」
「そうね、それと同時に王族っていうのはとっても大変な身分であられるのよ。それこそ四六時中命を狙われている。だからこその護衛ね。ここまで理解した?」
「命を狙うなんてそんな酷いことを誰がっ!私が行って懲らしめて来ますっっ!」
「あなたの思っているよりも三億倍は王族は命を狙われているし、そうじゃなくても貴族は結構命を狙われるのよ。何故かというとね、確かに殺しは良くないけれど、そうまでしても奪いたいくらい王族方の存在する影響は大きいの。例えば、昔、敵国の二歳の王女様を暗殺したことで戦争に一気に有利になった国があったくらい。それにあなたが懲らしめにいっても行き着く前に殺されるわよ。あなたが死んだら悲しいから行かないでね。」
「むうぅぅ。」
「ふくれないの。貴族女性が怒るときは笑顔で目だけで怒りを表すのが良いとされているわ。これは価値観の違いではなく、教養があるかどうかの話なの。感情がわかりやすいと相手につけ込まれてしまうわ。」
「それで、命が狙われていることとクッキーは関係あるの?」
「あるわよ。毒殺ってしらない?だから殿下は簡単にはものを口に入れられないのよ。」
「知ってるわっ!でも私はそんなことしないもんっ!」
「そうね、でも知らないうちに小麦粉に毒が混ぜられているかも。」
「私も試食したから安全よ!」
「そうね、でもあなたの見ていないうちに誰かが毒を塗るかも。」
「私がやったわけじゃないわ。」
「そうね、あなたは悪くない。でも万が一殿下に何かがあったら必ず捜査はあなたのところまでいく。正直貴族としての地位が安定していないあなただから、他の貴族には王族を危険に晒したものとして嫌われるし、信用をなくされてしまう。万が一にもそうなってしまわないようにお優しい殿下はあなたのクッキーを受けとれなかったのよ。」
普通にいらなかったんだろうけどね、あの殿下やっぱり公爵令嬢しか目に入っていないから。だけどそう言うことは言えない。
「でも、でもっ、ユリウス先輩はそう言うことは言わなかったよっ。」
「うーん、あれね、貴族の暗黙の了解だから言わなくても良いと思ったのよ。あなたは男爵家に入ってそんなに経っていないのだから少しずつ覚えていきましょう。それにね、殿下がクッキーを受けとれないのには他にも理由があるわ。」
「え、そうなの?」
「普通、王族に貢ぎ物をするときは色々な手順とかルールがあるの。貢ぎ物をしたい人はいっぱいいるからね。そこであなたのクッキーが受け取られたって聞いたら、他の人も殿下にプレゼントをしようとするわ。ただでさえ女性に人気のある殿下だから、女性が殺到して騒ぎになってしまうわ。」
「うーん、それなら想像できそう。そうね、早い者勝ちとか思ったけど、大量にクッキーがあったら食べきれないものねっ!勿体ないもんっ!」
早い者勝ちって…オイオイ。それに何でクッキー限定なのよ。やっぱりこの子の頭の中わからない。
「なんか貴族の学園って想像していたのとは違うなぁ。」
「あたり前でしょう。」