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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪談シリーズ

悪魔の契約

作者: Penguin

 悪魔ってどういう存在か分かるかい?


 いつだったか覚えていないしどうしてそんな事を聞かれたのかも覚えていないのだが、確か父に問われた質問だった気がする。その時の私はとても幼かったため何と答えたかはっきりとは覚えていないのだが、確か誠実な存在と答えた気がする。しかし、そんな賢い回答を私は本当に言っていたかは定かでは無いが。


 

 桜が満開に咲き誇る春のとても気持ちの良い朝、目を覚ました私の目の前にはヘドロのような色をしたまるで神話などに出てくる悪魔の形をした生き物が存在していた。


 普段の私であれば年甲斐もなく大きな声で悲鳴をあげて怯えていたと思う。しかし、何故かそのとき私には恐怖は感じなかった。理由は不明だが、少なくとも私にはこのよく分からない存在が恐怖の対象とはならなかった。


「君は悪魔なのかい?それとも幽霊?はたまた妖怪なのかな?私はなんてことのない人間なのだが私の上から避けてくれると助かるよ」


 全くもって不思議であったが、私はこの異常な状況下にありながら本当に少しも恐怖を感じていなかった。それどころか何故かこの奇怪な生物に親しみすら覚えるほどだった。


 私の言葉になんの反応もないこの生物に再度私は質問を変えて問いかけることにした。私の中ではこの生物はおそらく悪魔なのだろうと推測をたてていたので質問は悪魔であることを前提としたものにしてみた。


「君は誰かの契約かなにかで私の元に来たのかい?例えば私を殺して欲しいとか。それとも私と契約するために現れたのかい?」


 今度の私の質問にこの悪魔?は反応を示した。そして、それは手のようなものを私の首に近づけるとそれがまるで鋭利な刃物のようになり、私の首の皮を少し切り裂いた。切られた所がじんわりと熱をおびる。


 これは、私を殺すために送られてきたととらえるべきなのだろう。やはり私は普通では無いのだろう。今にもこの悪魔に殺されそうなのに私はやはりこれっぽっちも恐怖を感じない。まるでこの悪魔から与えられる死を初めから受け入れてしまっているようだった。


「そうか、君は誰かと契約し、私を殺しにきたのだな?さあ、一思いに私の首をはねるといい。どうやら私は君に殺されることになんの抵抗もないらしいのでね。」


 すると、目の前の悪魔は私から離れてしまった。そして、まるで霧のようにすっと消え去ってしまった。夢のようであった。いや、おそらく夢だったのかもしれない。何故なら切られた首の皮の部分を触っても何もなっていなかったし、熱をおびるようなじんわりとした痛みを少しも感じなかったからだ。


 私は家でゆっくりしていく訳にもいかないので会社に向かった。会社に着くと、いつもかなり早くに会社にいる去年入社した真面目な新人の子がいなかった。


「新人のAさんは今日は休みなのかな?最近物騒だから心配だよ」


 私は隣の席に座っている後輩のKくんに尋ねた。


「そうですね。僕も心配です。この3カ月の間でこの会社内の人間が次々死んでますからね。殺人鬼がこの中にいるんじゃないかと思ってしまうほどですよ。まあ、みんな交通事故らしいし、そんなわけないんでしょうけど」


 どうやら、後輩のKくんも心配らしい。まあ当然だろう。新人でやる気もあり真面目なAさんが無断欠勤など何かあるのではないかと思って当然だろう。事実私も不思議に思ったから尋ねたのだし。


「まあ、インフルエンザかなにかにかかって寝てしまっているんじゃないですかね?ここ最近忙しくてあんまり休めて無いでしょうし。まだ、入社して1年の彼女にはキツかったんでしょう。」


 その後は、黙々と仕事に励んだ。


 この次の日、私は新人のAさんが死んだという話を聞いた。自宅で首をはねられていたそうだ。詳しくは教えられなかったが、物凄い怯えた顔をしていたらしく、何者かに殺されたとみて間違いないそうだ。


 この事件を最後に私はその後、15年間この会社で働いているのだが、一人も死者は出なかった。しかも、この事件が解決されることもなかった。


 今になって思うのだが、もしかしたらあの悪魔が社内の人間を殺していたのだろうか。そして、それを命令していたのは新人のAさんだったのではないだろうか。こんなことを考えてしまう?


 まあ、その真相がどうなのかも分からないし、おそらく私の気のせいだろう。Aさんの死はともかく他の人の死は事故死だ。


「まあ、偶然だろう」


 


 傷跡が首にある半分以上白髪の高齢の会社員は一人、空を見上げながらひとり呟いた。

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