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泣きボクロのある死神さんと私

作者: ぱっつん

私は、初めてここにきたときのやりとりを思い出していた。


『えーと・・・状況が理解できないのですが、とりあえずあなたは誰?』

『俺?俺は死神。ちなみにここは、あの世とか彼岸とか言われてるところ』


右目の下に泣きボクロのある死神さんは、そう言って私に笑いかけたのを覚えてる。

初めは、この人の下で、今みたいに手伝うなんてこと考えもしなかった。

でも、天国にいざなわれて、行った先は正直つまらなかった。


平和が嫌いなわけじゃない。

けど、退屈はつまらない。

私と同じような亡者の人に話しかけても、返事が返ってくるのは一割二割。

死神さんいわく、天国は心地よすぎて、人としての感覚が鈍くなるらしい。

いわゆる、退化ってやつだろう。


生き物っていうのは、状況にあわせて進化と退化を繰り返してきた。

私達人間だって、木につかまる必要がなくなったから、尻尾が無くなった。

キリンとかだって、高いところの餌をとるため、首が長くなった。

思うに、天国は何もしなくて良い世界だから、何もしなくなったんだろう。


と、まぁ天国がものすごくつまらなくなった私は天使さんのところに言って喋ったり、

花で輪をつくってみたりしたわけだが、どちらにしろ簡単な暇つぶしにしかならなくて。


それで、いつの間にかこうやって手伝っている。

一体何がどうなってこうなったんだろう。

いや、まぁ、仕事は案外楽しいし、不満はない。

それに、私は正直、死神さんが好きだ。生きてるときはまったく色恋沙汰なんてなかったのに好きになった。

だから好きな人の傍にいられて、嬉しいくらいだ。


「死神さん。死亡者リストの整理、終わりましたよ」

「お、ありがとう」

「いいえ」


嬉しいくらい、だけど。

こうやって死神さんの笑顔を見るたび、思う。

彼には永遠というものがあって、私にはない。

いつまでも、こうして一緒にいられるわけない。

それがたまらなく、切ないのだ。


「でも悪いね、ゆい


何がと思い聞き返すと、どうやら私に手伝いをさせていることがらしい。

そんなこと、気にしないでほしい。

好きでやっているのは私なのだから。

私が、ちょっとでも一緒にいたくて、やっている自己満足だから。


「いいんですよ。それにどうせ、私が転生するまでですし・・・」


自分で言って、後悔した。

言葉にしてしまうと、よりリアルに感じてしまう。


転生してしまうことが、怖い。

いや怖いというより、不安?寂しい?悲しい?

この感情に言葉は付けれない。

何だろう、この感じは。

胸が締め付けられて、もやが広がっていくような、

心に鉛がたまっていくような、この気持ちの悪い感じは。


「転生といえば、俺、唯の前世について話したっけ?」

「はい。色々聞きましたよ」


もう忘れちゃったんですか、と言葉を付けると、死神さんは苦笑した。


死神さんは世界で初めて死んだ人間で、この姿は死んだときのままらしい。

見た目で判断するなら、二十台後半辺りだろう。

歳かな、と言うけれど見た目はだいぶ若い。


でも中身は何百年も何千年も過ぎてるんだよなぁと思うと変な気分だ。

何千年も前の人間にしては現代社会の仕組みを知ってたり、

雰囲気は仙人みたいだけどくだけた言葉遣いだし。


西洋系の顔立ちでなくて、アジアっぽい顔立ちだけど、どこの国に居た人なんだろうか。

(死後は言葉に日本語とか英語とかなく言葉が通じるらしい)

私って、やっぱり死神さんのこと、全然知らないんだよなぁ。


「歳は関係ないと思います。

というかそんな莫大なこと覚えられるんだったら、細々としたことも覚えてください」

「それは違うなー。俺が魂のことを覚えてるのは死神だからだし」


いまいちよく分からない。

その後なされた死神さんの話を簡単にまとめると、

悪魔も天使も人のことイチイチ覚えない(コンビニとかのバイトみたいだと思った)

けど、死神はイチイチ人のこと調べたりするから、憶えてしまう。


現代風に例えるなら魂は一個のファイルで、

新しい情報(=前世)が入るたび上書き保存、みたいな感じかな。

で、死神さんはそれを全て覚えていると。


莫大、だと思った。

とてつもなく莫大で、果てしない記録。


死神さんは、そんな気の遠くなるようなことを1人で。


独りで、やっていたんだ。


「俺が唯という人間を覚えていても、唯は転生すると俺を忘れるだろ」


だったら、だったら死神さんのことは誰が憶えていてくれるんだろうか。


お互いが生きてる間は、お互いのことを忘れないようにするのは不可能じゃない。

だけど、死んだら別。死神さんは転生しない死神で、私たちは転生する魂なのだ。

死神さんは私達一人ひとりをちゃんと憶えていてくれる。

けれど、私達は転生するたびに綺麗さっぱり忘れてしまう。

今の私だって前世の記憶がない。忘却は避けれないことなんだ。


私がもし死神だとしたら、そんなこと、絶対に耐えられない。

もし死神さんが記憶喪失になって、私のこと忘れていたらって考えると、怖い。

とてもとてもおそろしい。

だって、死神さんは私の、最初で最期の好きな人だ。


初めて好きになった人であり、最期に好きになった人でもある。

だから、忘れてしまうことが、とてつもなく怖い。


「俺は思うんだよね。どうして俺は死神なんだろうって」

「・・・」

「永遠なんてさ、気の遠くなる時間なんて、いらないんだ。

ただ、唯と同じ時を生きていたかったなぁ」


その言葉が嬉しくて、同時にとてもとても切ない。

私と死神さんは、まるで平行線のよう。

互いが死神、生き物という存在であるかぎり、決して決して交わらない。


彼と、死神さんと、いつもでもこうして過ごしたい。

ずっと、一緒にいたい。

過ごすうちに恋をして、時々喧嘩もして、笑って泣いて。

そうあれたら、どれだけ幸せか。

でも、そうあれる日は、この先ずっとないのだろう。


「始まりがあって、終わりがある。

それがどんなに幸せなことか、生き物には理解できないんだろうね」


嗚呼。

終わりがあることが恐怖。

私にしたって、死ぬのは嫌だった。

私が死んだと告げられたとき、理解しても頭では納得できなくて。

友達や家族に二度と会えないのが嫌でたまらなかった。


小さかったとき、ペットのハムスターが死んでしまったことがあった。

あの時もとてもとても悲しかったのを覚えている。

どうして生き物って死んじゃうの?って何度も泣いた。

死なんてこなければいいのにとずっと思っていた。


だけど。


「・・・はい。でも、死神さんが言うんなら、きっとそれは幸せなことなんでしょうね」


死神さんが言うのなら、きっとそう。

終わりの無い人からすれば、終わりのあるほうがずっとずっと幸せなんだ。


永遠であることのつらさが分からない私にとってはその言葉も、

死神さんが言うから信じる、ということしかできないんだ。


「唯」


いつもの声で名前を呼ばれる。

その響きに、いつまでも酔いしれていたい。

けれど、そうもいかない。


「はい」

「俺、唯が転生しても、唯のことは絶対忘れない。約束する」


その時見えた死神さんの目は、死神としてでの目じゃなかった。

人として、1人の人間としての目。


私はやっぱりそんな死神さんが好きだ。

綺麗な顔立ちで、まるで仙人みたいで、でもどこか抜けている、

きっとこれほどまでに死神に向いていない人は居ないっていうくらいに優しい、

右目に泣きボクロのある死神さん。


私は、彼が好きだ。


「私も」


顔を上げて、死神さんの視線にあわせる。

優しげなその黒い目は、無垢に私を見る。

無性に、泣きたくなるけれど、気持ちをぐっとこらえて、言葉を紡ぐ。


「私も、忘れません。忘れたとしても、必ず思い出します」


死神さんを憶えてくれる人がいないのなら、私がなろう。

たとえ忘れてしまっても、かならず思い出すから。


ここに来るたび、死神さんをみるたび、かならず思い出すから。


「うん、約束。絶対、絶対、俺のこと見たら思い出してね」


はい。絶対、思い出します。

だから、悲しそうな顔、しないでください。

泣きそうな顔、しないでください。


「死神さん」


こうやって笑いあえる日が、また来ますように。




(やっと約束、守れましたね・・・――死神さん)



変わり者の亡者と俺の唯verです。


唯にとっての愛し方と死神にとっての愛し方。

決して同じ時を生きられない二人の愛のカタチは記憶というもの。

忘れる側も忘れられる側も同じように辛く苦しい。

そういうことを感じていただければ幸いです。


ちなみにタグにハッピーエンドとバッドエンド両方つけたのは

見る人からみればこの終わり方はハッピーにもバッドにも

なりえると思ったからです。

あなたはどちらだと思いますか?

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