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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
9/15

義賊の流儀

次の日の朝。あんな戦いの後で、少し忙しなく見えるが、街は平穏を取り戻しつつあった。今日まではこの街に滞在し、この街を治める貴族であるトリニダード侯に挨拶をしてから、次の街へ向かう算段だ。だが、そうも言えなくなっていた。


「盗賊に入られた?」


挨拶に向かったトリニダード侯の邸宅はバタバタとしていて。あの戦いは鉱山付近での話で、この邸宅まではなにも被害はなかった。それなのにここまでの忙しなさは何事だろうかと尋ねてみれば。なんと、昨晩盗賊が邸宅に侵入し、金品を奪われたのだという。


「このタイミングでか……やりやがるな」


騒ぎがあったその夜になど。しっかりと練られていたのだろうその手口に感心さえおぼえる。


「……この辺りで有名なのは、鉱山を超えた先の森を根城としているという盗賊団ですが……」


そのとき、予言の書がぽっと光を帯びる。レイナスはそれを開いてみると…


──藍の守護者の男、宝を手に東の修道院に向かわん


「これって……」

「盗賊の一員かもな。東の修道院つうと、ラフィスのいたリエラ修道院か」

「その盗賊団を追わなきゃ……。まだあの騒ぎの後から片付いていないはずだし、こんな時に泥棒に入られたら」

「文字通り火事場泥棒だな……なんて奴らだ」


3人はすぐに準備を整えると、クエイラの森へ向かい、それを抜けてリエラ修道院を目指す。


「どのみち、このあとは船で他国向かうために城に戻らなきゃならかったし、方角的には丁度いいっちゃ丁度よかったけどよ……。修道院の皆が心配だな」


どうやら、城の近くの港に船の準備があるらしい。そのために戻らなければならなかったという。


「そうね……。無事であれば良いのだけれど」


たどり着いたのは、2日程経った夜のことだった。リエラ修道院から鉱山へ向かった時は3日かかっていたから、かなり飛ばしてようやく辿り着いた。

速馬を走らせてのこの時間だから、いくらこの辺りに慣れているであろう盗賊といえど、少なくとも同じくらいは時間がかかっているはずだ。皆眠ってしまっているであろうリエラ修道院は静まりかえり、辺りは虫の声しか聞こえない。


「……静かね」


そのとき、予言の書が光る。

パラリと本を開けば、いつものように白いページに文字が浮かび上がる。


──修道院裏口にて、藍の守護者の影、動かん


「裏口、か。……行ってみようぜ」


3人はそっと息を殺しながら裏口へと急いだ。あまり音を立てないように、それでいて素早く。

裏口の扉の前、男が一人そこにいた。宝が入っているのであろう布袋をそっとその場に置き、こちらへ振り返る。

肩につくほどの長さの深い藍色の髪が靡く。額にはターバンが巻かれ、キリリとした三白眼がこちらを向く。


「誰やねんお前ら」


その男は、あまり聴き慣れぬ訛りで言葉を紡ぐ。


「こっちの台詞だ火事場泥棒」

「そうよ、この間この修道院は火事に遭って大変だったの。なのに」

「せやからプレゼントに来たんやんか。これ使うて修道院直してもらおうてな」


布袋の中身をプレゼントなのだという、その男。

一体どういうことなのか。


「見つかったのは想定外やったなぁ……。内緒にしててくれる?」

「……その宝、トリニダード侯から奪ったものだろう?流石にそれで修道院が潤っても感謝できねえと思うんだが」

「……トリニダード侯はな、トリアナ鉱山で採れた採掘量を低く言うことによって脱税しとる、いうても?」

「トリニダード侯が……?まさか、そんな」

「ほんまやで。俺の部下に探らせて得た確かな情報や」


レイナスは考え込んだ。義賊、というやつか、と。盗むことは悪いことだが、なんとも言えない気持ちになった。


「……確かに、最近盗賊に入られたところは、黒い噂の絶えないお家が多かったですが……それも貴方が?」

「汚い金ではあるけども、どうせなら困ってるとこにその金やったほうがええやろてな」

「……。盗みをしてるし、この国の王子としては、なんとも言えないところだが。その金戻しても隠されちまうだけかもしれねえしな。そうなるくらいなら、有効活用して貰っても良いかもしれねえ。……トリニダード侯のところには調査の者を送るようにしよう」

「恩に着るわ。……にしても王子やったんかいな」

「捕まえる事もしねえ。その代わりに、だ」

「何や、取引かいな」

「俺たちの仲間になってほしい」


三白眼をこれでもかと見開くその男。


「は?……どういうことや」

「……俺らは、魔王を倒しに行く。」

「魔王、か。……借りがあるわ。……渡りに船ってやつやな」


借りがあるというその彼は、俯き加減に呟いた。

そんな男に、レイナスは事の次第を説明する。藍の守護者として、共に戦ってほしいと。


「分かった。……その本に拠れば、確かに俺は守護者の一人みたいやしな。……やったろうやないか。……俺は、ファルド・ドーズ。宜しく頼むわ」

「俺はレイナス。レイナス・レインハーゲンだ」

「私はラフィス・マイオレートよ」

「わたくしは、セシリア・ルイスと申しますわ。宜しくお願いいたします」


皆自己紹介を終えると、今夜は修道院から少し離れたところにある小屋で夜を明かすことにした。

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