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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
8/15

青の守護者の目覚め

「お兄様、どうか、ご無事で……」


鉱山に近付くにつれて、周囲の温度が上がるのがわかる。


「王子はどこかしらー?まあ、こう暴れていたら、あちらから来てくれるわよねえ」


髪が燃え盛る炎でできたその女は、楽しげに舞い踊りながら周囲に炎の魔法を浴びせてゆく。

採掘用の機材が燃え、周囲はまるで火の海だ。森から少し離れた、あまり植物の生えない山肌ばかりの鉱山故に、今はそこまでの被害は出ていないが、このまま燃えれば少し離れた街にも燃え移りかねない。


「やめろ!俺達になんの恨みがあると言うんだ!」


きりりとした目で炎の舞乙女を見据える男。セシリアの兄である、ジェイン・ルイス……その人だ。


「あーら、なかなかの男前が居るじゃない。……勇敢だこと。惚れてしまいそうだわ!!!」


そんな言葉とは裏腹に、四天王フェイラは大玉の炎をその男に浴びせかける。


「くそ……!!!ダメ元で……氷の壁!!!」


ジェインは、目の前に手を翳し、魔法で薄い氷の壁を作り上げる。だが、その壁では炎に負けてしまうのは明白だった。


「兄様……!!!氷の壁!!!」


そこに漸くたどり着いたセシリア。勿論、レイナスとラフィスもいる。セシリアはジェインと同じ魔法を唱え、ジェインの手前に氷の壁を作った。それはジェイン自身が作ったものの10倍程の厚みがある。

炎は氷の壁に打ち当たり、瞬時に氷を溶かすが、それは水になり、炎をジュウッという水分が蒸発する音とともに打ち消していく。ジェインが作った氷の壁は瞬時に溶けて消えたが、その後ろに建てられた壁はまだ残り、ジェインを守っていた。


「……!!!……あーら。漸くきてくれたのね王子。待ちくたびれたわ!!!」


レイナス自身に向けて放たれる炎。


「氷の壁!」


それを護ろうと壁を作るセシリア。その壁に穴をほんのりと穴を開けるほどに威力のある炎の魔法。レイナスは未だ炎の少し残るその穴に向けて剣を向けると、雷の魔法を放つ。


「雷神の怒り……!」


それは弾丸のように素早く、フェイラを捉えた。

氷の壁に阻まれ、完全に死角であったその向こうで唱えられた魔法は、フェイラに避ける隙を与えなかった。


「きゃああああああ!!!……よくも……よくもこのフェイラに、こんな……!許さない、許さないわよ!!!」


火事場の馬鹿力とでも言おうか、傷ついたフェイラの最期の力。フェイラの髪は見たこともないほどに燃え盛り、辺りに燃えていた炎もそれに呼応するように豪炎と化す。


「まだ力を隠し持っていたのかよ」

「魔王様にお仕えする四天王の力、舐めて貰っては困るわ」


フェイラの身を包んでいた衣も遂には燃えてしまい、今はその代わりに炎が包んでいる。


「貴方がたも燃えておしまいなさいな!!!」


レイナス、ラフィス、セシリアそれぞれに炎の弾が飛ばされる。それは今までと比べ物にならない威力で。セシリアは慌てて氷の壁を作る。ラフィスも光の壁を作り助力するが、それもあまり役には立っていないようだ。


「ごめんなさい。前から思っていたけど炎の魔法には私の魔法は相性があまり良くないみたいね」

「いえ、でも助かりますわ。……とはいえ、私の魔法でも抑えきれそうにありません。皆さん、逃げてください」


じゅうじゅうと音をたてて氷の壁を溶かしていく炎。それが突き抜けてくるのも時間の問題だ。

3人はそれぞれ避けるように飛び、炎を避けるが、セシリアはあまり動くことに慣れていないのか、それが遅れた。長いドレスの裾が燃えた。


「きゃ!ドレスが」

「大丈夫か、セシリア」


身が燃えたのではない。ドレスだけで怪我はないようだ。


「問題ありません。どうせ、レイナス様にお見せするために仕立てて置いたもので、もうお見せ致しましたし、このままでは戦いや旅の邪魔になりますし」


セシリアはまだチリチリと燃えていくその裾を一瞥すると、スカートの根本辺りの腰に触れる。そこには紐が付いていて、それをしゅるりと解いていく。

それは巻きスカートになっていたようで、スカート部分の布だけがパサリと地に落ちた。


「……身嗜みに構っていられるような状況ではないようだし、仕方ないわね」


スカートの下は膝丈のワンピースになっていて、これなら動きやすいだろう。


「……私は、レイナス様をお守りしたい、それだけなのだから」


心なしか口調がお嬢様口調から丁寧語に変わり、強い想いが聞き取れるその言葉に応えるように、予言の書が光る。本を開くと、刻まれる文字と、そして、出てきたのは大きな玉のついた魔法の杖。


「レイナス様、それは……」

「お前の杖だ。受け取ってくれ」


その杖を受け取ると、ぽうっと光が溢れ、魔力が溢れ出す。


「これが守護者の力、というものですか……?これなら炎にも負けない気がします」

「舐めた事言うのね……?氷は熱に溶けるものよ。これは自然の摂理!お分かりかしら!!!」


フェイラの炎がさらにその強さを増す。

その炎が、まるで波のようにレイナス達を覆わんと襲い掛かる。


「そちらこそ、氷が溶けたら何になるかご存知でないのかしら!!!」


セシリアは杖を地に突き立てる。それと同時に、まるで海岸に襲いかかる津波のような形の氷の壁が現れた。それは炎を受け止めると、溶け始める。溶けた水分は炎を消し止めてしまう。


「あの炎を、止めたですって!?」

「氷は溶けたら水になる。炎は水で消えてしまう。自然の摂理、ご存知ありませんか?」

「くっ!!!小賢しい娘だ事…!!!」

「今度はこちらの番です!!」


セシリアは杖をフェイラに向けた。フェイラの足元がぴしぴしと凍りついてゆく。そして足首まで凍りついてその動きを止めんとする。


「確かに炎は水に弱い。けれど、氷も炎に弱いじゃないの。……こんなもので動きを止めても何の意味もないわ」


小馬鹿にしたように炎で足元の氷を溶かしてしまうフェイラ。だがセシリアは笑っていた。


「そうですね。でも、これなら如何でしょう?」


周囲の温度が下がる。そして、溶けた水が次々とまた凍りつく。


「水は冷たくなると凍るのですよ?」

「な、な……!?私の炎に勝る勢いで氷を……?」

「……そのまま凍ってしまってくださいな」


足元から氷が全身に広がってゆく。


「……いや、いやぁああああ!?なによこれ!」

「……ごめんなさい。兄に手を出した貴方を……レイナス様に仇なす貴女を、許すわけにはいかないのよ」

「ありがとうなセシリア。ナイスだぜ」


腰あたりまで凍りついたとき、レイナスが跳んだ。

その手にある剣に雷を帯びさせる。その剣に向けてラフィスが強化魔法をかける。

レイナスはそのまま、フェイラを両断したのだった。

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