片思いのその先に
それはきっと、必然だったのだ。
そのことに気がつくのは、また先の話。
次の日。セシリアがレイナスの部屋の扉を叩き声をかける。
「レイナス様。おはようございます。食事の準備が整いましたので呼びに参りましたわ」
「おう、ありがとな」
身支度を整え終えていたレイナスが、その声を聞き扉を開ける。
「ところで、レイナス様は、どのような方が好みなのですか?」
「好み、なあ……」
朝からその話かぁ、とは思いつつ。そこまで気にしてくれているのかと、悪い気まではしないのだが、なんとも言えない気分だ。ふと思い浮かんだ女性像を呟く。
「お淑やかで、それでいて少しお転婆で、笑顔が可愛くて……なんかあったら俺を叱ってくれる人」
それは妙にはっきりした好みだった。
まるで誰かを思い浮かべて言っているかのような。
「誰か、想っていらっしゃる方がいるのですか?」
「さぁて、ね。……今日の朝飯なんだろなー」
そう言って足早に食堂へ歩むレイナスの後ろで、セシリアは俯く。
「でも、諦めきれません……」
ずっと、想ってきたのだから。
そう簡単に諦められるわけがない。水晶玉で見た貴方が王子だと知って、それだけで諦めそうになった事もある。でも、これから起こることなどを水晶玉で占う度、王子の姿、性格を知るうちにどんどん惹かれていった。
これから過酷な旅に出る事もわかっている。色惚けしている暇もないと言う事も。それでも、想わずにはいられないのだ。彼の、先のことを思うと。
「私は彼を護りたい。それだけなの……」
ぽそりと呟いた言葉は、背を向けたままのレイナスには届かない。
「ラフィス。おはよう。よく眠れたか?」
「ええ。すごく寝心地が良くて。ありがとう。セシリア」
「いえ。とんでもないですわ。疲れを癒していただけたなら何よりです。さあ、食事をいただいて、これからのこと、相談させてくださいませ」
まだ守護者として目覚めていないセシリアだが、自身の置かれている状況や、めざすべき方向を説明されずとも理解している。水晶玉で占い、見ていたからだというその物分かりは助かるものの、使命を理解していても力が目覚めないのは何故なのか、その点は分からない。
「私は……あの時、貴方の力になりたいって、強く願ったの。護られてばかりは嫌だったから」
「わたくしも……レイナス様のお力になりたい、お護りしたいと、修行を重ねて参りました。気持ちだけは、負けないつもりなのですけれど……」
想いだけではどうにもならないらしい。レイナスの予言の書にも、特にヒントになるようなことは書いてはいなかった。割と直前にならなければあまりヒントになるようなことはかかれてはこないのだ。
「まあ、気長に行こうぜ。どのみち、魔王との戦いまでになんとかなればいいっちゃあいいわけだしな」
レイナスがそう言った瞬間だった。
ドォン!!
大きな音が辺りに響き渡る。
「何事だ!?」
「……鉱山の方からですわね。まさか、敵でしょうか」
その時予言の書がパッと光り、言葉を記していく。
──鉱山にて炎を纏う乙女、舞い踊らん
「こないだのフェイラ、だったか。……おそらくあいつだ。……セシリア。お前も行けるか?」
「勿論ですわ。私、魔法には自信があります。……それに、兄が、いまそこにいるはずなのです。兄にも魔法の素養はありますが、私よりは弱いのです……」