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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
6/15

恋といふもの

3人は森を抜けて、少女の家に泊まることとなった。


「レイナス様にお会いできて本当に嬉しく思いますわ」


「レイナス様!あそこのお花が綺麗なんです。観に参りませんこと?」


「レイナス様。お好きなものはありますか?用意させますので仰ってくださいな」


「レイナス様。うちのバルコニーからは素晴らしい夜空が見えますの。今夜は月が綺麗ですし観に行きませんか?」


事あるごとにレイナス様レイナス様レイナス様と、金魚の糞のようについてくる水色の髪の少女。セシリア・ルイス。彼女はトリアナ鉱山とその周辺を治める貴族、トリニダード侯爵に仕えるルイス家の娘にあたる。彼女の家系は魔力が強く、その中でもセシリアは特に魔力が強く生まれたらしい。予言の力を使いトリニダード家を助ける等かなり重宝されていたようだ。貴族ではないながら、なかなかいい扱いを受けているのが身の回りを世話するメイド達がいることでわかる。彼女はとても愛らしいが、あまりそういった経験のないレイナスは少し困っている様子だった。王子であるレイナスに言い寄ってくる女性はいつも上流階級の女性で、そういった女性はここまで直接的に感情表現をしない。

そのせいかあまり免疫がないようだ。そのうえ、守護者なのは分かっているので、無碍にもできない。


「……はぁ」


ラフィスからすると居心地が悪くて仕方がない。これから3人で旅をしなければならなくなると思うと気が滅入ってきそうだ。レイナスもレイナスだ。興味がないならはっきりと言って仕舞えばいいのに。なんて。


「いや、私が考えることじゃないわね」

「何がだよ?」

「え!?」


セシリアとレイナスがダイニングで話していたから、ラフィスは一人バルコニーで外を眺めて考え事をしていたのだが。いつのまにか部屋に入ってきていたらしいレイナスが後ろに立っていた。


「あら、セシリアと話していたのではないの?」

「用足してくるって抜けてきた」

「そうなの」

「なんか、悪いな」

「何を謝ってるのよ。貴方だって困ってるんでしょうに」

「まあなぁ……女の考えてる事ってわかんねえや」

「……私達だって、男の考えてることなんて分からないからお互い様じゃない?……セシリア、可愛いんだし、少し前向きに考えてはみられないの?」

「……んー、……ダメなんだ」


ダメだ、とそう言う彼は、俯き加減に言う。


「それは、彼女が貴族ではないから?」

「身分なんて関係ないさ。うちの法律にはそんな、貴族や王族でないと結婚できないなんてものはねえからな。実際、過去には居たそうだ。平民の娘さんを娶った国王が」

「……なら、どうして?」

「……これから一緒に旅してく訳だし。……出来ればそんな変な思い入れっつうか……関係っつうか。ねえ方がいいと思ってよ」


月明かりにレイナスの顔は少し哀しそうに見えた。満月の光に照らされた銀の髪がキラキラと輝いて。それと同じ色の睫毛も、少し光って見える。泣いている……?


「レイナス、大丈夫……?」

「ま、お前も俺がイケメンだからっつって好きになるんじゃねえぞ!てこった!」

「はぁ!?なる訳ないでしょ!?」

「……だよなー」


そうへらりと笑っているレイナスだが、やはり何処か寂しげに見えた。王族特有の何か、悩みでもあるのだろうか。


「レイナス様ー?どこに居られるのですかー?」

「あ、やべ」

「えっ、ちょ、」


セシリアの声が聞こえ、その足音が今いる部屋の前で止まる。そして開かれる扉。どうしても見つかりたくなかったらしいレイナスに、窓の影に引き込まれ、口を手で塞がれる。部屋の中からは完全に死角で、回り込まなければ見えない場所。そんなところで、半ば抱きしめられるような体制で。


「……」


レイナスの顔を見上げると、申し訳なさそうにラフィスを見ていた。四六時中追いかけられていて疲れてしまっていたのだろう。少しくらい協力してあげようか。広がったデザインのスカートをしているし、もしかしたら角度によっては窓から見えるかもしれない。スカートの布を寄せ、広がらないように抑え、レイナスにもう少し体を預ける。これできっと見えないはず……。


「んー、ここにはいらっしゃらないようですわね……。どこに行かれたのかしら……」


セシリアはバルコニーにつながる窓のカーテンを閉めると、そのまま部屋を出て行った。部屋から足音が離れていくのを見計らって、レイナスは抱き寄せていたラフィスを離す。


「あー、……ありがとな」

「ええ、構わないわこれくらい」

「そろそろ俺も寝ることにするし、お前も早めに寝ておけよ。まだ旅は長いし」

「……ええ」

「おやすみ、ラフィス」

「おやすみなさい。レイナス」


言うが早いが、レイナスはスッとバルコニーから出て行った。レイナスはけろっとしていたようには見えるが、少し耳が赤く見えたのは気のせいだろうか。

でも、自分の頬が熱いのは、気のせいではないはず。男性に抱き寄せられたことなど初めてなのだから仕方ない。


「そうよ、仕方ない。好きになっちゃいけないとも言われてるし、そもそも身分が違いすぎるわ」


身分は関係ないとは聞いたけれど、王家の目線で考えると、どこぞの娘とも知らない孤児の娘を王族に迎え入れるなどしないだろう。ラフィスもレイナスが部屋を出て少ししてから部屋を出て、ここを使うよう宛てがわれた部屋に向かい、眠りについたのだった。

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