その恩に報いるため
建物の被害は凄まじかったものの、根元が居なくなったせいか火もおさまり、シスターや孤児達の怪我も大したことはなかった。ラフィスは怪我をした者それぞれに回復魔法をかけ、治した。あの短剣を手にする前と今とでは全く威力が違うのがわかる。前は、ここまで魔法を使うと、疲労もするし、時間もかかったというのに。今は疲れもそこまでなく、治るまでもすこぶる早い。これが、守護者の力、というものなのだろうか。
「私が赤の守護者って、どういうことなの?」
「……俺は、魔王を倒す任を背負って旅をする運命なんだが。……その旅をするにあたって、7人の、虹の守護者と呼ばれる仲間を集めなきゃならねえ。……ラフィス。お前がその一人、てことだよ」
「虹の、守護者……」
「それぞれが虹の色を冠した仲間で、皆の力を借りなければ魔王は到底倒せない。それ程、強大な相手なんだ」
「分かった。貴方には護って貰った借りもあるし、あの女にもお礼をしてやりたい。……それに、ここにいても皆を危険な目に遭わせてしまうわ。守護者として、一緒に旅をさせて頂戴」
「ありがとう。……とはいえ、借り、とはいってもな」
レイナスは即答するラフィスに少し驚く様子を見せながら、腰につけた、予言の書を手に取り、捲る。
「この本は、俺の未来が書かれていく予言の書だ。……実は、まあ、お前が守護者の一人で、あの路地裏で襲われる事も知っていて、その上での行動だ。……貸しにする必要もねえよ」
「たとえ知っていても、助けない、て選択肢もあったはずでしょう?……その本に指示までは書いてないもの。それでも、火傷を負ってでも私を助けた。それは、貴方の意思でしょう?私にとっては充分な恩よ」
レイナスはそれを聞いて切れ長の目を見開いて見せた。言われてみれば確かにそうだ。いままで、予言の書の求めるであろう通りに行動をしてきたが。赤の守護者を助けろ、とは書かれていなかったし、護って戦えなどとも指示はされていない。
「私、おかしな事言ったかしら?」
「いや、おかしくはねえ、な」
目から鱗、と言わんばかりの顔をしているレイナスを不思議に思いながら、ラフィスはレイナスの右手に手を伸ばす。
「手にも火傷してるわね。貸して」
「お、おう。ありがとう」
剣から熱気が伝わったのだろうか。掌が赤くなっていた。そこまで酷くは無い火傷だったが、ひりひりと痛むそれを庇っていたのをラフィスは気がついていたらしい。ラフィスの手がそこに触れ、少し暖かくなる。魔法の力か、なんなのか。よくわからないまま、優しい光に包まれた後、掌の赤みは消えていた。
「それに、長旅になるんでしょ?回復出来る私の力、あったほうがいいんじゃ無い?」
確かにそうだ、とこくりと頷くレイナス。回復魔法の素養を持つ仲間がすぐに現れて、本当に心強い。
「そうだな。……寧ろこちらから頼みたい。俺についてきて欲しい」
「喜んで」
そうして、二人は旅立つことになった。
燃えた修道院の片付けを手伝い、少し落ち着いた後、二人はまた馬を駆けさせ、次の目的地へ向かう。予言の書によれば、次の目的地はさらに西、森を抜けた先のトリアナ高地。高地にはそこを治める貴族の邸宅と、その領地の街がある。まだレインハーゲン領の中ではあるが、自治が認められ、街は鉱山で発展してきていて、そこで獲れる鉱石、宝石はレインハーゲンの王城でも使われている。
レイナスの髪飾りに二つ使われた赤い玉も、その鉱山で採れたものを代々引き継いできた。