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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
3/15

炎を纏う四天王

馬で駆けること20分ほど。橋のかかった川を渡った先で、予定通りたどり着いた修道院。めらめらと燃え盛る炎が、凄惨な現状を物語る。ラフィスは声も出ないような様子で、燃える炎を眺めていた。


「シスターは……?子供たちは……?」


やっとのことで絞り出した声。

この修道院は孤児を引き取り育ててもいる。幼い子供たちが沢山いるはずだ。


「……」


すぐそばに流れる川の水をばしゃりと浴びるレイナス。


「……え」

「まだ生きてる奴がいるかも知れねえだろ。……行ってくる」

「……私も行くわ」


そう言って、ラフィスもバシャバシャと水を浴びる。そして、レイナスに向けて右手を翳す。


「気休めにしかならないかも知れないけれど……。聖なる護りの壁を、ここに」


眩い、それでいて温かな光が互いの体を包み込む。


「すげえな。これなら、行けそうだ。ありがとう。ラフィス」

「ええ。いきましょう、レイナス」


2人は今にも燃え落ちそうな扉を開け、修道院内へと乗り込む。中は火の海だった。その中でも弱いところを選び中へ中へと進んでゆく。


「非常用の避難場所が地下にあるのよ。皆がいるとしたら、きっとそこ。この奥の大聖堂の裏にあるわ」

「奥……なあ。炎がどんどん激しくなってる。急ぐぜ」


2人は燃える炎を躱しながら、大聖堂へと進んでゆく。あともう少しで大聖堂、と言う時。その大聖堂の扉の向こうで声がする。


「……どこにいるの?ここに赤の守護者の娘がいるのは分かっているのよ。隠すなら……」

「きゃああ!」

「やめてください!子供達にだけは手を出さないで!」


見知らぬ女の声。誰かを探している様子だ。そして悲鳴は、孤児の声だろう。それを守るように叫ぶ声も聞こえる。


「……何をしているの!!?」

「ラフィス!不用意に開けるな」


そう止めるのも聞かず、ラフィスは耐えきれずその大聖堂の扉を開けた。

その向こうにあったのは、脅すように子供達に手を向けた、髪が燃える炎でできた女性だった。化物の類である、という事はその姿から容易に想像がつく。この修道院に火をつけたのが、きっと彼女であることも。


「……あら。その服。この修道院に住む娘ね?……その赤みがかった髪……」


ラフィスの姿を見て、炎を纏う女性はぶつぶつと呟く。


「分かったわぁ。……魔王様が仰ってた守護者の小娘って、貴女でしょう」

「守護者……?魔王……?何を言っているの」


ただ分かるのは、その守護者というのがラフィスのことだとすれば、それを探して修道院を襲いにきたということ。……つまり、この惨状は、私のせいか。ラフィスがそう確信した瞬間、ラフィスに炎の矢が飛ぶ。あの女性が放ったものだと理解した時には遅かった。


「きゃあああ!」


──ザンッ


剣が風を斬る音。恐ろしくて思わず閉じてしまっていた目蓋を開けば、女性との間に立ち塞がり、身の丈ほどの剣を構えるレイナスの姿がそこにあった。


「……ラフィス。無事か」

「え、ええ」

「俺の後ろから出るなよ」


そう言った彼のなんと頼もしきことか。ラフィスも装備していた短剣に手を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。


「でも、あいつは私のことを」

「俺はお前を護る義務があんだよ」


義務。義務って?なんて疑問を挟む余地は今はない。


「ふん。私の魔法を剣で弾くなんてね。……何者なの?」


レイナスのその行動は、炎を纏う女性の怒りを買ったらしい。魔力がさらに強まり、髪に纏う炎がより一層燃え上がる。


「一応名乗っておきましょうかね。私は魔王軍四天王が一人、フェイラよ」

「……魔王の手下って訳か。俺はレイナス。その魔王を倒す男だ」

「減らず口を。……黙りなさいな!!!」


フェイラがこちらを見ている隙に、シスターと子供たちは避難場所へ逃げたようだった。フェイラは既にラフィスにしか興味がない様子。そんなことなど気にも留めていない。叫んだと同時に、炎の魔法が幾らかこちらへ飛んでくる。レイナスはそれをまた剣で薙ぎ払う。


「……ふん。流石は王子、といったところかしら?でも、これならどう?」


先ほどよりも大きな炎が襲い掛かる。流石に、剣では弾けはしないし、レイナスは身を守る魔法を持ち合わせてはいない。躱してはラフィスに当たってしまう。ラフィスがかけてくれた魔法と、浴びてきた水……もう乾きかけてはいるが。……これに賭けるか?などと考えた矢先。予言の書がポッと光を帯び、その光がラフィスへと飛び、その身を包む。


「ラフィス……!?」

「……足手纏いにならないって、言ったでしょう?聖なる力よ!王子を護れ!」


ラフィスから放たれた光がレイナスの目の前に壁を作る。それが全ての炎を吸収したのだった。


「な……なんですって!?目覚めたというの!?」

「ラフィス。ありがとうな。……と。」


光った本を確認しようと開いてみれば、追記された文章を見る前に、光とともに短剣が現れる。華奢な装飾のその短剣は、ラフィスの瞳によく似た赤い宝石がついていた。


「……その短剣は……」

「お前のだ、きっと。」


──聖なる赤の守護者、目覚めん。

  短剣を手に取り炎の魔女に立ち向かわん。


「……すごい魔力を感じるわ」


レイナスはそっと、その短剣をラフィスに手渡す。

手に渡った途端に、ラフィスの魔力が増幅されたのを感じる。


「……まさか、守護者の力が目覚めてしまうだなんて。魔王様もそんなこと仰ってなかった……」

「今度は私達の番よ!!」

「はあぁ!!!」


レイナスは雷の魔法、ラフィスは聖なる光の魔法を使い、フェイラに向かってそれを放つ。


「ぎゃああああ!!……畜生、覚えてらっしゃい!!!」


フェイラは、その魔法を防ぐことも出来ず浴びてしまい、ボロボロになった体を引きずるように少しだけ歩くと、瞬間移動の魔法を使い姿を消してしまった。

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