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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
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それはささやかな願い事


人を恋い慕うということは、それなりに責任が伴うものだと思っている。一般人での恋路であればそう悩む事もないのだろうが、こうも大きな国の王子ともあれば、なおのこと。選んだ女性を妃にすることになるのだし、国を治める重責を背負わせる羽目になる。そんなに簡単なことではない。結婚を望む姫君なども多いが、基本的には断るのはそういうことだ。玉の輿だなんだのと、見た目や権力に飛びつくような、軽薄な姫君には任せられない。正直なところ、レイナスに言い寄ってくる姫君達はそんな者が多く、女性に対しあまり信頼が置けなくなっていた。でも、ラフィスやライナ、セシリアは、真っ直ぐに想いをぶつけてきてくれる。戸惑いつつも、嬉しくもある。ファルドも、初めてできた友人と呼べる存在だと思う。出逢ったばかりではあるが、武器を手に遣り合ったあの日から、なんだかんだと色々と話すようになったし、これからもっと仲良くなれるのではないかと思う。本当に、仲間に恵まれている。


「レイナス様。船の準備ができました」

「苦労をかけたな。これより暫く、俺は城を空けることになるが、その間、頼んだぞ」


そろそろ、出発の時だ。レインハーゲン領であるこのビーグレア大陸を船で離れれば、もう戻れない。レイナスは、この大陸を離れたことが殆どない。些か不安ではあるが、頼もしい仲間がいる。きっと、問題ないはずだ。


「レイナス。気をつけてね。そして皆様方。レイナスを、この世界を、よろしくお願いしますね」


荷物を背負い父と母に挨拶にきたレイナス達に、シェリノア王妃は声をかける。レオナルド王は、なんとも言えない表情で皆見据えた後、レイナスだけを傍に呼び、抱きしめると、何か小さく声を掛けたようだった。レイナスはレオナルド王の言葉を聞き取るとそっと目蓋を閉じ、こくりと頷いてから離れ、ラフィス達の傍へ駆け寄った。


「……さあ、行こうぜ。目的地は、カルラ大陸だ」

「カルラ大陸……俺の故郷や。道案内は任せてや」

「それは頼もしいわね。どんなところなの?」

「四季折々の花々が咲き誇る綺麗なとこや。ここいらとは一風変わった建築様式やら……文化もちゃうし、楽しめるんやないか」

「レイナス様、是非色々見てまわりましょう」

「みんなで行こうな。……とはいえ、メインの目標は魔王を倒しに行く旅なんだ。それは忘れんなよ」


あの時断ったのに、セシリアはまだレイナスを諦めてはいないようだった。その諦めない心を、どうにか自分に分けてはもらえないものか。だなんて。そんなことを考える程の強い心持ちだった。願わくば、どうか。この先出逢う仲間達も、皆幸せに過ごしていけますように。そんな願いを胸に、みなで馬車に乗り、船の準備が済んだ港へと迎う。だんだんと濃くなる潮風が心地よく、よく晴れた気候も、この先の旅路を祝福するかのように感じられる。とはいえ、海の気候は変わりやすいと聞くので、油断ならないところだ。航海に慣れた水兵達も数人連れて行くことになるが、身の回りのことは全て自分でしなければならない。分かってはいたが、少し不安もある。


「ラフィス、セシリア、ファルド。改めて宜しくな」

「何よ改まって。……皆で必ず、魔王を打ち倒しましょうね」

「ああ、皆で行けば倒せるで」

「まだ見ぬ仲間達と共に、きっと倒しましょう」

「俺もはよ力目覚めさせへんとなぁ……」


その時、ぽっと予言の書が光る。ぱらりと捲れば、新しいページに書かれてゆく文字。


──海の上にて、新たな仲間の姿見らるる


「仲間と海で逢うってのか?」

「よお分からんなそれ。どうせなら俺の力の目覚めさせ方教えてくれや予言の本様ぁあ」

「はは。まあ、勝手に光って勝手に教えてくれる感じだしなぁ…そう簡単にはいかねえよ」


和気藹藹と話して居られるこの間柄が心地良い。先程はたいそうな、皆の幸せを願ったが。本当のことを言えば、この皆との関係がずっと続いてくれるなら、それ以上に願うことはない。レイナスは、そんなささやかな願いを胸に、船へと乗り込んだのだった。


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