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銀の髪と予言の書  作者: 鶵扇 奏
第一章 レインハーゲン王国
11/15

王族の心得

初めから決まっていたことだ、なんて。

あいつがどんな想いで旅を始めたのか、誰も知らぬままこのまま行くというのだろうか。


「……もうすぐ城だな。一週間ちょっとばかし開けてただけだけど。久しぶりな気がする」

「殆どお城から離れたことなかったんでしょう?」

「んー、他国に呼ばれた時に数日泊まりに行ったくれえかな……。とはいっても、もちろん使用人たちがそばに居たりしたし、あんま離れた気もしなかった。……使用人やらなしで出たのは初めてだな」


そんなことを言っていたらもう城下町の門だ。

馬に乗ったまま門へ近づけば、兵士が門を開ける。レイナスが来たのがわかればすぐに門が開けられる顔パス状態。石造りの綺麗な街並みを抜けて、城へとそのまま進んでいく。


「綺麗な街ですね、レイナス様」

「だろ?自慢の国だぜ」

「金掛かってそやな」

「はは。うちに盗賊に入るには苦労すると思うぜ」


警備には絶対的な自信があるのだろう、レイナスは冗談めかして言う。


「もう盗賊は廃業やて……」

「悪い悪い」


噴水のある広場を抜けて、更に進んだ先に、大きな城が聳え立っていた。


「門超えたところからも見えとったけどほんまデカいな……」

「ありがとよ。……ようこそ。俺の城へ」

「レイナス殿下。お帰りなさいませ」


城門を抜ければ、使用人達が囲んで出迎える。


「ああ、ただいま。……後ろにいるのは私の仲間達だ。長旅での疲れが癒えるよう、丁重にもてなしてやってくれ」

「はい、準備はできております。お食事の準備はすでに出来ておりますので、このまま食堂までいらしてくださいませ。陛下も王妃様もお待ちかねですよ

「助かる。……行こうか」


予め連絡されていたのであろう、準備がいい。今日は暖かい床で眠れそうだ。それにしても、流石は王子様といったところか。城に一歩入れば切り替わる、威厳。先程までの親しみ易さは何処へやら。何処へ出しても恥ずかしくない、王太子といったところ。確かに、素晴らしい王子だと有名ではあったが。……今までの態度だけ見ていればその辺にも居そうな若者だったため、皆は驚きが隠せない。


「……疲れるぜ」


使用人が離れてから、ポツリと呟いた一言は皆の耳には届き、小さく笑った。


「殿下。あまりそう言うことを言うものではありませんよ」

「……ラフィス。……ライナみてえなこと言うなよな……」


ラフィスがクスクスと笑いながら指摘すると、レイナスは小さく息を吐く。そのまま食堂へ進むと、扉を開ける。開けた先には大きなテーブル。上座には、王と王妃が既に腰掛けていた。


「レイナス。無事だったのね。どれ、近くにきてもっと顔を見せて」

「母上。たった一週間程です。……出る前と指して変わりませんよ」


とはいいつつも、少し嬉しそうに母であるシェリノア・レインハーゲンの元へ近寄る。美しく聡明なその王妃の目元と美しく豊かな髪質は、レイナスにそっくりそのまま引き継がれているように見える。


「こんなにも離れたのは初めての事だ。我々も心配していたのだよ」

「父上……」

「私にも顔を見せておくれ。逞しくなったじゃないか」


父であるレオナルド・レインハーゲンのキリリとした目の緑色と緩く笑みを称える口元、威厳のある声質はしっかりとレイナスに引き継がれている。

優しげな両親のもと、育ってきたのが窺える。王族といえど、家族の暖かさは変わらないようだ。


「あ、皆も食器の準備をされているところに座ってくれ。……すぐに料理がくる。」

「はい。ありがとうございます……」


皆が腰掛けた頃、料理が次々と運び込まれる。

皆の前に前菜が並ぶと、使用人の一人がスッと前に出る。周りの使用人より少し立派な服を着ているように見える。


「皆さま、ようこそおいで下さいました。……私は、使用人の長をしております、ライナ・シュベルクと申します。もし至らぬ事などございましたら、遠慮なくお申し付け下さいませ。……長旅でお疲れでしょう。今宵はご緩りとお休み頂けましたら幸いでございますわ」


ライナ。先程、レイナスが口にしていた名前だ。先程の口振りからすれば、レイナスがたまにお叱りを受けている相手のようだ。濃い茶髪を後ろに纏め、聡明な口振りと、その所作から、紹介を受けなくてもそれなりの位置にいる使用人だと分かる。


「では、お食事をお楽しみくださいませ」

「ありがとう。ライナ」

「とんでもない事でございますわ。レイナス殿下」


そう言ってライナは次の準備をするためだろう、扉の向こうへ姿を消した。

皆は他愛のない話をしながら、食事を楽しんだ。王族の豪華な食事は、皆の口にも合ったようで。


「美味いな」

「ええ、こんな美味しいもの、食べたことがありませんわ」

「……とても美味しいです」


みんな口々に、そう呟く。あまり作法には慣れていないようで、食器の使い方に少し戸惑いはあったようだが。だが、ラフィスはそうでもないようだ。美しい所作で食べ進めていくのがレイナスの目に入る。


「……どうかされました?レイナス殿下」

「いや、綺麗に食うな、て。」

「……修道院に引き取られる前は、それなりの家にいた物ですから。……まだ身に染み付いているのね」


それなりの家。とは言っても、見事な所作。かなりいい身分の家柄であったことは間違いないと思われる。この場でそんな話をするのも酷だろうし、話はそのまま流れていった。

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