絶望への序曲
「ねえ、私達、ずっと一緒にいられるわよね?」
「当たり前やろ」
緑の豊かな髪を靡かせながら、微笑む彼女。愛しい君とのその約束は潰えてしまった。
ずっと共に居ると誓ったのに。
「……夢、か」
外は白んで、光が差し込んで来ている。とはいえ、まだ明け方。まだ数時間は寝ていられるはずだ。
ラフィスとセシリアが少し離れた所で眠っていた。
「レイナスは?」
レイナスの姿はそこにない。眠っていた跡はあるのだが。二人を起こさないようにそっと小屋を出る。小屋から少し離れた木の影に、レイナスがいた。
「……レイナス、どないしたん。まだ朝早いで」
「!?」
ファルドが近付いてきたのに気が付いていなかったらしいレイナスは、あからさまに肩を揺らしビクついた。それと同時に予言の書をばたりと閉じて。
「なんでそないびくついとんねん。わざわざそんな予言の本なんみいへんて」
「……悪い悪い。びっくりしちまって」
「なんかやばいことでも書いてあるんかいな」
「……お前は、好きなやつを手にかけなきゃならねえとしたら、できるか」
「何の話やねん」
「はは、……そんな夢見ちまって落ち着かねえだけだよ」
そう言ったレイナスの目元にはクマがあり、寝ていたようには見えないが。悪夢ですぐに目覚めてしまっていたのか。
「俺は、まあ、出来へんな。……俺の愛した女は今どこにおるかもわからんけど。……盗賊なったんも、情報入りやすいからや」
「まあ、そうだよな……。これからいろんなとこ旅するし、見つかるといいな。その女性」
「おおきに」
そう言ってファルドは苦笑する。
そして、己の武器である大きな鎌を手に取る。
「なあレイナス。お前強いんやろ。ちょい相手しいや。……ちょい体動かしたら寝れるんちゃうか」
「……ありがとよ。……剣、とってくる」
一旦、小屋に戻ってゆくレイナス。
その座っていた所が光ったので見てみると、予言の書が置きっぱなしだ。
「おいおい、大事なもん、置いてくなて……え。」
──藍の守護者の想い人。意図せぬ再会は遠からぬうちに。
ぱらぱらと本を開いていくと、一番新しいページに今し方そのような文章が浮かんできた。
「意図せぬ、再会……。」
「おい、予言の書なんか見ねえんじゃなかったのかよ」
「ひえ!……あああすまん!……今光ったもんやからつい」
「お前の彼女、逢えるみてえじゃん。この予言の書、まず外れねえから。良かったじゃねえかよ」
「意図せぬ、てのがなんや気になるけどな」
「確かに……。ちょっと不吉でもあるな」
「……にしても、そんな正確なんかこの予言の書」
「ああ、外れたことねえよ。起こったことに対しての対処で多少その後の流れが変わったりとかはあるけどよ」
「そう、なんか」
ぱらぱらと開いていた予言の書で、気になる一文があった。それが、本当に起こることなのだとしたら。
「レイナス、お前さ」
「なんだよ?ほら、手合わせしてくれるんだろ?俺を疲れさせて、一眠りさせてくれや」
「言うやないか。後悔しても知らんで」
「望むところだ」
大鎌と剣のぶつかる音が辺りに響く。
二人の華麗な武器捌きは、まるで舞のようでもあり、美しい。二人はしばらくその舞を続けていた。