そんなわけで合同挙式・4
「ディール、気持ちは嬉しいわ。そしてディールなりに色々と考えていることも分かりました。私もディールが大切だし、側に居てくれたら嬉しいと思う。でもね、リオン様なら、私は幸せになれるとも思うのよ」
ディールと目を合わせて私は話しかけます。
「それは……まぁわかります。エミリオとは全然違うとも」
あら、ディール……。エミリオ様を呼び捨てにしてますね……。それだけディールの中でエミリオ様は評価を下げたのでしょうね……。
「でも」
ディールが続ける言葉に耳を傾けます。
「元々最近の姉様は、エミリオのせいで溜め息ばかりつくことが多かったじゃないですか。婚約破棄を言われる前からエミリオとはうまく行ってなかったことは私でも分かりました。だから婚約破棄をされたのは、ムカついたけれど、嬉しかったんです。姉様に傷をつけたのはムカついたけれどもう姉様は溜め息をつかなくていいって。それで……もっと一緒にいられるって思っていたのに。姉様は気付いたらリオン様と婚約していて、直ぐに結婚しちゃって、そうしたら帝国に行っちゃうじゃないですか。帝国だなんて……それだったら、エミリオと婚約破棄を無しにして近くにいて欲しかったのに」
ああ……そうですね。
ディールはこれだけ大人びても、やっぱり可愛い弟です。
寂しい思いをさせていたんですね。
「ディール、寂しい思いをさせてごめんなさい。私は姉失格ですね」
「そんなことはっ」
「無いって言ってくれますか?」
「……はい」
謝る私にディールが、私を姉だと認めてくれる発言をします。
「ありがとう。では、そんなディールにリオン様から伝えられていたことを教えますね」
あのパーティーの直ぐ後。帰国前にリオン様から私は言われたことがあります。
「リオン様が仰るには、アルアーニャ様のやらかしたことの責任を取ることで爵位が子爵へと降爵されました。そして領地も半分は帝国へ返上しましたが、その分だけ時間が出来た、とのことです。だからね、私がノーディーに帰国したい、と思ったら直ぐとは行かないけれど、それでも帰国する時間が取れやすいですって」
「そうなんですか⁉︎」
リオン様が降爵されたことを謝って下さいましたが、実はオキュワ帝国の侯爵夫人なんて大役を、私に務まるか心配だったので、子爵夫人になることに安心しました、と正直に打ち明けましたら、少し困ったように笑った後で、リオン様が良かった、と言うべきかな、なんて仰りつつ、ノーディーに帰国しやすい、とお話してくれたことをディールに話しました。
目を輝かせてくれるディールが可愛いですわ。
「だから安心してね」
「それは……まぁ。でも、やっぱり寂しいです」
ディールは騙されないぞ、とでも言うように頬を膨らませ。普段は見せないこんな表情を見せる程に私との別れを惜しんでくれている、と思えば小言も言えません。
「手紙も書きますから」
結局ディールは渋々頷いてくれて。
まぁ我が家の跡取りはお兄様ですから、ディールが本当にオキュワ帝国に来たいのならば、それはそれで止めることも出来ませんし。
私とリオン様の結婚はなんとか無事に行われそうで安心しました。
結婚式まで時間が無いからこそ、余計にディールは過ごす時間が少ないことを嘆いているのかもしれません。……でも、本当に忙しくて中々時間が取れないのですよね。
新婚旅行としてノーディーに帰って来て、家族で過ごす時間が取れるようにリオン様にお願いしてみようかしら……。
ーーそんなことを考えながらも、ドレスやら装飾品やら小物やらを決めながら招待客の選定に皆さまへのおもてなしなどアレコレとリオン様やお兄様とイーシュお義姉様とも話し合いを重ねて。
とうとうその日を迎える前日になりました。
「あっという間の明日ですね、イーシュお義姉様」
「そうね、ルイーザ」
お兄様達との合同結婚式は、ノーディー王国で行われ、オキュワ帝国では結婚式は挙げないもののお披露目会をすることは決まってます。そちらは日を改めてであることと、そちらではクインティー王女殿下も出席したい、と熱望されていますので、かなり豪華になることは間違いないでしょう。
というか、本当は明日の結婚式にも出席したい、とクインティー様からお願いされていたのですが。
何しろ式場はノーディー王国の由緒正しき教会……。
歴史ある建築物なのです。
つまりまぁ言い換えれば古くて外壁が多少崩れかかっているという……。
その教会でしか、合同結婚式を挙げられる広さが無かったというのが理由ですけれども。
その教会に、大国・フレーティア王国の王女殿下を招くなんて教会側は名誉かもしれませんけれど、安全を確保出来ないのに無理に決まっています。
ですので、クインティー様には、はっきりきっぱり、建物が老朽化していることによる安全面の確保も出来なければ、クインティー様の身の安全の保証も出来ないので(つまり護衛的な意味合いでの安全確保)諦めて下さい、と告げました。
遠回しに遠慮する、なんて言ったらクインティー様との関係に罅が入りそうな気がして、率直に告げましたが、私の率直さにクインティー様が気をよくして。
「それなら仕方ないわね。ルイーザを困らせる気はないわ」
との不問に処す、という発言で諦めてもらえました。まぁその代わりに、オキュワ帝国でのお披露目会は何がなんでも出席する、という断言でしたけれど。
その日は一日中結婚式のために肌を磨きます、と侍女達に宣告されてイーシュお義姉様と共に所謂全身エステをされました。
元々貴族の令嬢として常に美を保つように定期的にエステはされてましたけど。髪の艶を保つとか肌の艶を保つとか。
でも、本日と明日はエリジア様に命じられた公爵家のスペシャリストである侍女さん達が派遣されています。
……エリジア様、私以上に並々ならぬ情熱を私達の結婚式に注いでますね。有り難いですがご自身の結婚式に注力してもらっていいんですけど……。
公爵家のスペシャリストである侍女さん達に現在、私達はデトックスとばかりに所謂フルーツの入った野菜ジュースを飲まされてます。野菜ジュースと水だけで水分補給をして磨かれてまして、しかも朝食も昼食も夕食も小さな一口サンドウィッチを三個まで、と制限済み。
……お腹空きますわ……。
でも更に侍女さん達に通達されたのは、式の当日も食べないこと。
……嘘ですよね⁉︎ 結婚式後のお披露目会で皆さまに来てくれた感謝を込めて食事を提供するんですけど⁉︎ それ、私達も食べられると思って楽しみにしているんですけど⁉︎
侍女さん達は笑顔でノーを突き付けてきました……。
そうですか、ダメなんですか。精々一口にカットされたフルーツをいくつか食べるくらいだそうです。……お腹空いて倒れてしまうんじゃないでしょうか。
そんなことを思いながら私達は午後もエステを受けていたわけですが。
休憩を取っていた私の元に執事・エドがやって来ました。
銀のお盆に乗せられた一通の手紙。
封蝋さえされてない所を見ると貴族家からの手紙ではないでしょうが、そんな手紙をエドが渡してくる理由が分かりません。
開封されているのは、貴族家からの手紙ではないことから刃物入りとか毒薬入りとかそういった類を怪しんでのことでしょう。
内容に目を通すようなことは、当然ながらきちんと教育された使用人はするわけがないのですが……怪しげな物がなかったとはいえ、持って来るからには差出人に心当たりがあるのでしょうか。
封筒の表は私の名前。裏には……
驚きました。エミリオ様の名前です。
エドを見ればコクリと頷かれました。
確かに表に書かれた私の名前は、ちょっと悪筆なエミリオ様の特徴が表れています。それはエドも確認したのでしょう。
「旦那様も奥様もカルディス様もディール様も確認済みでございます」
あ、うん。
家族全員が確認済みですか。
では、間違いなくエミリオ様からのお手紙ですわね……。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




