波瀾でした、パーティー。・2
仕方なく見なかったフリ、知らぬ存ぜぬ、のつもりで居ようとしたのですが。
「あ、あらあらあら! あなたね! 初めまして、お嬢さん。あなたに会いたかったのよ!」
と、未だパーティー会場にいらした皇族方(休憩場所ではなく再び広間にいらしていた)の方に足を向けたと思ったら、クインティー様に近寄って行くのが見えてしまい、知らぬ存ぜぬ、見なかったフリが出来ない状況になってしまいました。
いや、どう見てもクインティー様に対する発言じゃないでしょ⁉︎
お嬢さん⁉︎
大国の王女殿下でこの帝国の第二皇子殿下の婚約者ですよ⁉︎ 不敬罪が適用されるやつですよね⁉︎
ハラハラしてヤキモキしている私は、リオン様にどうしましょう? と目で問いかければ、リオン様は「様子を見ないと判断出来ないか、と」 困惑したように返してくれます。
そうですよね。対応するにも相手の出方は見極めないとダメですよね。
でも、クインティー様を、大国フレーティア王国の王女殿下を、お嬢さん呼ばわりするってどういう事なんですか!
「……初めて会う相手に対して随分と馴れ馴れしいお方のようですわね。わたくしを誰か知っていての発言のようですが、わたくしあなたの名前を知りたいとも挨拶をしたいとも思っていませんわ」
……やっぱりクインティー様は、大国の王女殿下であらせられます。
目は笑っておらず、口元だけ微笑みつつ声音は冷たく言葉は棘でした。
「まぁあああ! いくらポルグウィウス殿下の婚約者でもわたくしに対して失礼ですわ! あなたも大国と言われているフレーティア王国の王女だとしても、オキュワ帝国に嫁入りするならば、わたくしを敬うのは当然のことよ!」
「生憎、あなたのことを存じ上げない無学者ですので敬う気は有りませんわ」
おおぅ。クインティー様が辛辣です。というか、件の女性、メンタルが強いみたいですね。フレーティア王国の王女だって分かってて上から目線の発言なんですから。
「自分が無学であることを理解している殊勝さは買ってあげるけど、わたくしを敬う気がないなんて発言は、己の価値を貶めるようなもの。わたくしは心が広いから謝れば許してあげるわ。きちんとわたくしを敬う、とも言うのよ」
わぁ……。ここまで自分本位な肯定感で発言する女性のメンタルの強さに拍手したいくらいですけど、クインティー様に敬え、と強要する辺りメンタルが強いというより恥知らずに思えますわ。
「申し訳ないのですが、わたくしはわたくし自身で敬う相手を決めますし、態度を改める事にしていますの。ですから謝罪を含めてあなたには何もしませんわ」
素っ気ない物言いのクインティー様も素敵です!
あ、ビアンシェ様みたいな感じの素っ気なさが更に素敵ですね!
「まぁ……! 流石は大国の王女のかしらね! そのプライドの高さは引っ込める時に引っ込めないと周囲から人が居なくなるわよ」
うーん……どこまでも上から目線で正直なところ不快。もうパーティーだって殆ど終わりの状況だし、この女性を護衛に命じて下がらせればいいのに。居るだけで雰囲気を壊すようなら居ない方が気持ちとして楽ではないかしら。それとも私の考え過ぎなのでしょうかね。
「おかしいな」
私が女性に対して不快に思っている横でリオン様が首を傾げた。
「何か?」
「いや、普段ならあの女性のことを嫌っている皇太女殿下がサッサと護衛に命じて引き下がらせるのだけど。全くそんな素振りを見せないから」
リオン様の説明に私も首を傾げました。それがいつものこと、であるなら、直ぐに退場させている、ということ。本日は全くそんな素振りを見せないという事は一体何故でしょう。
「あ……もしかして」
「お心辺りが?」
「クインティー殿下の采配を帝国にいる貴族達に見せたいのかもしれない。あの女性が来ることは想定内だっただろうし、それならば出入りを禁止しておくことが出来た。けれど敢えてそれをせず、今も傍観している所からそんな予想をしてみたんだ」
成る程。
クインティー様を手っ取り早く認めさせるために、迷惑な女性を使ってその印象を植え付ければ、誰もクインティー様を十五歳の庇護されるだけの王女とは思わない。
その作戦は分かりますが、クインティー様は確か、このやり直しパーティーの前に開かれた歓迎パーティーでやらかしたアルアーニャ様を含めたご令嬢達を茶会に呼び寄せて、自分の存在を誇示されたのではなかったでしたっけ?
それだけで十分に役割を果たしていると思うのですが、それだけでは足りない、という事なのでしょうか。
パルジェニア皇太女殿下、やり手ですわね。
でも多分、クインティー様ならそのパルジェニア皇太女殿下の思惑をご理解されて対応出来るでしょう。
「わたくし、無礼者には容赦がなくてよ。摘み出しなさいっ」
キャンキャンと子犬のように喚いていた女性に対応されていたクインティー様。一つ溜め息をついたと思いましたら、帝国の護衛に命じられました。
「成る程な。ああして帝国の人間に命じて動かす様を見せることによっても、クインティー殿下を貴族達が受け入れるようにしているのか」
命じられた護衛が件の女性を会場から追い出すのを見ながら、リオン様がそのように仰いました。
……そういった皇族の考えを見抜かれるリオン様も十分凄いお方ですわね。
さて。クインティー様が命じられて退出させられた第一側妃様の従姉妹様。どういった処罰が下るのかは分かりませんが皇太女殿下は満足したように頷いて「本日は終いじゃ」 と一言宣言されました。途端に皆さま皇族方が退出したのを見た上で帰り始めました。
皆さまもしかしてこのために残っていらしたのかしら。と思いたくなる程鮮やかに。私もリオン様と共にパーティー会場から出ました。これが私の“なんとなく”だったようですけど、ああいった場面を見るのはもう遠慮したいな、というのが正直なところです。
さて、その後ですが。
どうやら件の女性を排除したかったけれど、第一側妃様との兼ね合いもあって中々手が出せなかったらしい皇太女殿下。皇帝陛下に今回の失態を奏上して排除する許可を得たそうです。
パーティーに参加するために帝国へ行っていた私が二日後に帰国してから、リオン様よりこの辺りのことを手紙にて報告頂きました。ついでに、とリオン様が書いて下さった手紙の続きには、少々きな臭い側妃様達の牽制をしたかったので、今回の第一側妃様の従姉妹様の失態は、ちょうど良かったそうです。そのうち第二側妃様も牽制されるかもしれない、と。第三側妃様は、この前のアルアーニャ様のやらかしで既に牽制されているそうです。
……もしや、皇太女殿下、それを狙っていたとか……
いえ、余計な好奇心は身を滅ぼしますわ。与えられた情報をその通りに受け入れることも淑女の嗜みですわね。
それからリオン様からの手紙には、どうやらクインティー様と皇太女殿下のお二人から、私との婚姻を一日も早く、と急かされたと書かれておりました。……婚約、したばかりなのですけれど。
とはいえ、リオン様も同じ気持ちだ、と書かれているのを見てしまうと嬉しいような気恥ずかしいような心持ちがします。でも、今度はきちんと私を望んで下さる殿方ですもの。お気持ちにお応えしなくては。
そんなわけで通常婚約から結婚まで、互いの家の仕来たりや準備等に追われるために一年くらい間が空くものですが。リオン様はお父様にも結婚を早めたい、と手紙を出して下さったようでおよそ半年ほど期間を短めにしてもらいました。
エリジア様・レミーナ様・クリスティー様・ソフィー様には直接ご報告し、招待状も必ず送るとお約束致しましたが、その際に、皆さまからもリオン様のご友人の方々とダンスを踊った時の手応えから手紙のやり取りをして、互いに良い印象があることから、皆さまも婚約することが正式に決定したそうです。良かったです。
もちろん、皆さま帝国の方で嫁ぐわけですから、帝国でも皆さまとの友情は変わらないようで一安心です。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




