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パーティー前夜と新たな婚約者・4

「ふぅん。ルイーザがそこまでバルセア侯爵家嫡男殿に好意を抱いているのなら、それはそれでいいんじゃないかな。クインティー様もビアンシェも私とナーシュもポルグウィウス殿下に怒っていても、アルアーニャという令嬢にはそこまで……いや、ビアンシェは結構怒っていたけど、でもクインティー様に宥められて以降は……怒ってない」


「えっ。ビアンシェ様はアルアーニャ様に怒っているの?」


「礼儀を知らない上に歓迎パーティーを潰されたって怒ってた。クインティー様が宥めていたから大丈夫だと思うけど。まぁでも一番はポルグウィウス殿下だ。頭の中に詰まっているのが脳みそじゃなくて頭の中まで筋肉で出来ているんじゃないかって程単純な人を脳筋とはよく言ったものだよね。皇太女のパルジェニア殿下にキツく叱られてようやくクインティー様に謝罪と説明をしたけど、遅過ぎるよね。それも、クインティー様が開いた茶会の後だから」


 うわぁ。後手に回るってこういうことを言うのかしら。見事に目も当てられない状況よね。でもご自分で蒔いた種だもの。ご自分で何とかするべき……いや、何とかしたのはクインティー様だったか。正式な正妃でもないのに側妃候補達を牽制したんだもんね。本来ならポルグウィウス殿下がすべきことのはずなのに。


「取り敢えず……私はポルグウィウス殿下に思う所は色々あるけど、それはおいといて。全力でクイン様のお味方にはなるから」


「頼むね」


 そんなわけで、色々と大き過ぎる問題をぶち撒けて私と家族に多大な精神疲労を負わせたキリルは、爽やかな笑顔を浮かべて去って行った。私が家族の顔を見れば、全員疲労困憊の顔をしていた。……そうだよね。色々ぶち撒けてくれたもんね。

 その後、私は話せる範囲の情報をエリジア様、レミーナ様、クリスティー様、ソフィー様に打ち明けました。ビアンシェ様の真のお姿ってやつ以外ですけど、それでも皆さまお顔が疲労を滲ませてましたよ。あの、エリジア様でさえも。王子妃として教育を受けて来た公爵家の令嬢ですよ? そんな方が疲労困憊の表情で引き攣り笑いを浮かべた時点で、この話がどれだけ大きな問題か分かるよね。


 でも。

 皆さまの気持ちは一つ。

 全力でクイン様の味方になる。

 ということでした。


 さて。そんな現状ですが、私の元にバルセア侯爵家嫡男・リオン様から近々会いたい、という連絡が入りました。もちろん私は了承します。リオン様にお会いしたのは、もう何年前でしたか……。きっと貴公子度合いがアップしているはずですね。

 あ、皆さまにはきちんとリオン様とお会いすることをご報告致しましたよ。皆さま、喜んで下さいました。


 婚約、の話でしょうか。いえ、期待を大きくしてはダメですね。落ち着きましょう。


 約束の日時。リオン様が私を迎えに来て下さった。なんて言うか、もう言葉が出てこない。いえ、ほんとに。頭の中は真っ白になってまともに挨拶が出来たかしら? って思うほど。


 だって、以前見たときはサラサラの金髪で肩につく程度だったのに、今や一つにまとめて左肩の前に持ってきているんです。それがまたお似合い。こう言ってはなんですけど、元婚約者のエミリオ様は、その……あまりご自分の見た目に頓着されなかったので。髪はボサボサですし、まぁ騎士ですからね。短髪だったんですけど。短髪なのは兎も角、ボサボサで手入れとは程遠い髪だったので。リオン様の髪だけでもう天地の差がある程です。


 それにリオン様の背丈が随分と伸びていらして。以前は私が少し、チラッと見上げる程度でお顔が見えましたが、現在は首を伸ばして見上げないとお顔が見えないくらいに伸びていらっしゃるのです。でも涼やかな目元や薄い唇は変わらないですけどね。ガッチリとした体型ではないですが、痩せ細っているわけでもないですし。本当に貴公子度がアップされてます!


「ルイーザ嬢」


「は、はいっ」


 こ、声が上擦ってますわ、私っ。


「久しぶりだからってそんなに緊張しなくていいよ。この迎賓館の庭が綺麗だから一緒にどうかな」


 ああ……。お声も随分と深みを増して。もう気持ちがふわふわとして落ち着きませんわっ。

 エスコートされるままに迎賓館のお庭を二人で散策しながら、多分(気持ちが落ち着かないので多分ですが)色々と取り止めない話をしていたと思います。暫く会わなかった間のこととか。今でも好きな花は変わらないかとか。そうして……二人、言葉が途切れて沈黙が訪れたときでした。


「ルイーザ嬢」


「はい」


「婚約破棄をされて傷ついた君の気持ちがまだ癒えていないかもしれないけれど」


「いえ。それはもう大丈夫ですわ」


 リオン様のお心遣いは有り難いですが、そりゃあ婚約していましたから情はありましたから婚約破棄は傷付きましたけど、悲しみより虚しさ。あと結構強い怒りでした。それとちょっとだけ痛む胸程度で、深く悲しむことはなかったですね。だから今は全然平気です。


「そう?」


「はい。虚しさと大きな怒りとちょっとだけ胸が痛むくらいはありましたけど。今はもう、大丈夫です」


「それなら……良かったって言っていいのかな」


「もちろんです」


 私が心から笑顔を浮かべていると分かってくれたようにリオン様も微笑んでくれます。


「では、改めて。ルイーザ嬢、私と婚約してくれないか。伴侶にするなら君が、いい。私は恋をしたことがないけれど、でもそうだな。言い寄って来る令嬢達を、君ならばこういった態度は取らないな、なんて、いつも君と比べてしまうくらいにはルイーザ嬢を気に入っている。君の耳にもアルアーニャの件は色々と入っているだろうし、バルセア侯爵家は問題が多い。降爵も有り得るだろう。でもルイーザ嬢と二人ならなんとか頑張れると思う。どうだろうか」


「お受け致しますわ。だって私の初恋はリオン様ですもの」


 私がニコリと笑えば、驚いた顔のリオン様がいらして。伸ばされた手を改めて取った私を、リオン様は「ありがとう」 と少し声を震わせてお礼を述べて下さいました。


 キリルから、フレーティア王国を敵に回すのか。そう脅しのような言葉を聞いた時、それでもリオン様が望んで下さるのなら……とは思ったけれど。一方でキリルがそこまで言う程、ポルグウィウス殿下とクインティー様の間は拗れていることに正直驚いた。ただ。仮にフレーティア王国を敵に回すことがあっても、クイン様の味方はやめたくないなって気持ちもあって。

 多分、キリルは私のそんな気持ちを見抜いてくれたんだと思う。さすが、大国の王女殿下専属侍従だよね。人の気持ちを読むことに長けているんだもの。逆を言えば私の表情がそれだけダダ漏れだったのかもしれないけど。

 キリルは。リオン様を慕う私の気持ちも、それでもクイン様の味方で居ると決めた私の心も読み取って、フレーティア王国を敵に回すかもしれないって理解しながらもリオン様から求婚されたら受け入れようとした私の意思を尊重してくれた。なんだかんだで小さい頃見ていた優しい再従兄弟のままだったらしい。


「リオン様、一つお願いが有ります」


「なんだい?」


「バルセア家の現状は理解しております。リオン様と共に立て直しをすることも頑張ります。どれだけのことが出来るか分からないですが。それでも。もし、リオン様の意思と、クインティー王女殿下の意思が妥協出来ないことが起きた場合、私は迷わずクインティー王女殿下の味方に付きたいのです」


 折角、初恋の人から求婚されてお受けしたのに、こんなことを言うなんて愚かなのかもしれないけれど。

 でも。

 たった十五歳で政略結婚の意味を理解し、味方が僅かしか居ない状況でオキュワ帝国までやって来て、それなのに夫となる人の行いは自身を蔑ろにするようなものなのに、それを呑み込んで、ゆくゆくは正妃として夫となる方の隣に立つために、毅然とした態度を取った……かの王女の味方で居たい。


「ああ、そうか。もうクインティー王女殿下にお会いしたんだね」


「……はい」


「気に入られた?」


「分かりませんが、友人になって欲しい、と」


「そうか。実はアルアーニャの件は、さすがに私も嫡男として抗議したんだよ、アルアーニャにね。いくらなんでも自由過ぎるし、帝国と大国の仲に亀裂を入れるのか! って。アルアーニャは……私に抗議される前にクインティー王女殿下のお茶会にて、側妃は受け入れるが、自分が子を生むまで待ちなさい、と牽制されて気付いたらしい。その凛とした姿も集められた令嬢達の誰よりも年若いのに圧倒した姿も、自分は負けた……と」


 負けた。

 それはどんな気持ちから浮かんだ言葉なのでしょう。

 悔しさ? 悲しさ? 怒り? 諦め?

 ただ言えるのは、アルアーニャ様はそう思わざるを得ない程にクインティー様は責務を背負ってその場に居たのでしょう。

 なんていうか。

 想像が出来るだけに、お一人でそんな場に居させたくなかった……と思いました。お側についていてあげたかった、と。


「それで……アルアーニャ様は?」


「大人しくなったよ。もう、ポルグウィウス殿下の側妃も諦める、と。爵位が低くてもいいから縁談をまとめて下さいってお願いされた。もし後妻の話しか無いようならそれでも構わないし、縁談が無ければ領地に引き篭もるか修道院に行くか何処かの家で侍女かメイドでもいいし、バルセア家の良いように、と」


 なんと……!

 アルアーニャ様の自尊心が折れただけでなく、そんな殊勝な言葉が出てくる程、クインティー様の存在に打ちのめされたってことでしょうか……。

 現在は処遇を考えているところだ、とリオン様が仰いつつ。


「ルイーザ嬢がクインティー殿下のお味方になられたいのなら、私も全力で後押しするよ。私自身は寧ろこの婚姻はとても大切だと思っているからね。降爵されて領地を削られただけで済んだから有り難い限りだよ。クインティー殿下のお心の広さにも皇帝陛下のお心の広さにも感謝している。そんなわけで、侯爵位ではないのだけど」


「爵位は気にしておりませんわ。どうぞよろしくお願い致します」


 寧ろ、侯爵家に嫁げる自信がなかったです、の言葉は呑み込んでおきました。リオン様は眩しいくらいの笑顔で「こちらこそ末永くよろしく。ちょっと大変だと思うけど」 と仰いました。貴族達の信用を取り戻すために奮闘しなくてはなりませんものね。

 取り敢えず、クイン様の歓迎やり直しパーティーにエスコートをして下さると約束をして頂きまして、本日はここまで、また改めて我が家に挨拶して下さるそうです。

 私も家族や皆さまに報告しましょう。


 それから怒涛の如く、と言いますか。リオン様は爵位を二つ降爵され子爵家の当主となられましたが、まぁ我が国の伯爵位のようなものですので釣り合いがとれたと言っても過言ではないわけで。そのリオン様と私との婚約が正式に成立。クインティー様の口添えがあったそうで皇帝陛下が直ぐに婚約をお認め下さったそうです。なんて心の広い……クインティー様のご友人として恥ずかしくないように努めねばなりません。


 また、エリジア様始めとして皆さまにご報告致しましたら、我が事のように嬉しいと喜んで頂けたと共に「幸せに」 と皆さまからお言葉を頂きました。皆さまも今度のパーティーはご家族のエスコートで参加するものの、そこでお相手を探せれば……という気合いが入っているようです。尚、リオン様から承諾を得て、アルアーニャ様の一件の顛末を皆さまにお話致しましたら、皇帝陛下とクインティー様のお心の広さに皆さまが感心してました。ですよね。


「私、ずっとクインティー様の味方でいたい、と恐れ多くも思っています」


 と私が宣言しますと、皆さまが「同じ気持ち」 と頷いて下さいました。パーティーでクインティー様にお会い出来ることが楽しみですね。


 さて、そんなこんなでクインティー様の歓迎パーティー(やり直し)が開催されます。私はリオン様のエスコートを受け、皆さまにリオン様をご紹介しました。ソフィー様が私に耳打ちをされまして。


「この方ならば、あのドゥール侯爵子息とは違ってルイーザ様とお似合いですわね」


 と言って頂きました。

 ……エミリオ様、そういえば今はどうなさっているのでしょうね。女性に騙されてお金も失ってますし。お家も……まぁ元々ご両親がご両親で、だからエミリオ様みたいな方が息子でも納得出来ましたが、それはそれとして、一応幼馴染でしたし。元婚約者でしたからねぇ。何となく気にはなりますね。


 存在を忘れてましたけど。


 エミリオ様と婚約破棄したの、一年も経っておりませんけど、十年くらい経過したような気持ちになってますけど。


 思い出したので、どうしているのかしら、くらいは考えてあげましょうか。……直ぐ忘れそうですけど。

 取り敢えず、ソフィー様には「ありがとうございます」 と満面の笑みでお応えしておきました。皆さまにも素敵なお相手が出来ますよう願います。


 リオン様と微笑み合って、いざ、パーティー会場へ足を踏み入れました。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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