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パーティー前夜と新たな婚約者・2

「まぁ今のは脅しでもなんでもなく事実なんだけど」


 尚更悪いわ!


「どうせオキュワの皇帝も皇太女兄弟も知ってるから気負わなくていいよ。それで、ちょっと気になることが有ってね」


「なに?」


 キリルが顔を顰めて私を見たから私も尋ね返す。


「嘘や誤魔化しは要らない。ルイーザ。君、どこまで知ってる?」


「どこまで……?」


「バルセア侯爵家、もっと言えばアルアーニャとかいう女のこと」


 キリルの言い方で、クインティー様は兎も角、少なくともキリルは怒っていることに気づいた。


「アルアーニャ様が側妃になりたい、と言ったとかなんとか?」


 確定ではなくて、あくまでもエリジア様達と集まったときの話題で推測しただけなので、私もアヤフヤにしか答えられない。


「……成る程。確定の話として聞いてないのか。つまりどこからか噂で聞いた?」


 曖昧な私の答えにキリルが確認をしてくる。


「レミーナ様から」


「ああ、オキュワ帝国の侯爵家が彼女の実母の実家だったね。そうか。ハッキリと聞いた?」


「いえ、こんなことがあったらしいって」


「そうだろうね。あの家も含め、帝国の主要な貴族達の未婚令嬢はクインティー様から直々に話をもらっているからね」


「どういう……?」


 キリルの言い方は不穏なものばかりで、しかも曖昧。私は事情が分からないし、お父様とお母様を見れば、二人も初耳だったのか驚いた表情。お兄様とディールも全く分かっていないらしい。


「そういうことなら、殆ど何も知らない、ということか。まぁバルセア侯爵家もきちんと婚約していない君に恥となるような話を迂闊には話せなかったわけだ。……それならいい。ルイーザが知っていても尚、バルセア家と婚約を結ぶというのなら、釘を刺しておこうと思ったけど」


「キリル君、釘を刺すとは」


 さすがにお父様が顔色を青く変えてキリルを見る。


「そのままですよ。大国・フレーティアを敵に回すのか、と」


 ヒッ。

 一介の伯爵家の人間がそんな大それたこと出来るわけないじゃないの!

 キリル、もしかして、それを言いに来たのかしら……。言われなくても大国に逆らうなんて馬鹿げた真似はしないわよっ!

 ちゃんとクインティー様の味方になるってば!


「というか、キリルがそう言うってことは、噂は事実なの?」


 私はそこが引っかかってた。だって、大国の第一王女が嫁入りするのよ? きちんと結婚してないのにもう側妃なの? それってフレーティア王国を蔑ろにしてるよね?


 という私の疑問を汲み取ったように、キリルが深くふかーく溜め息をついて、コックリと重々しく頷いた。


「ルイーザがクイン様の味方になると決めてくれたから話すけどね……」


 キリルは嫌々な素振りで口を開いたけど、えっ、そんな嫌な話なら聞きたくないんだけど。とは言えず、私と家族は黙って耳を傾けた。


「どうにもクイン様が婚姻するお相手は頭の中が単純……いや、分かり易いらしくて」


 今、単純ってハッキリ言いましたけど? 


「まぁ裏を読まなくていい相手と言えるのはいいけど」


 いや、帝国の第二皇子がそれはダメでは?


「はっきり言えば、政略結婚の何たるか、を全く考えてなかったみたいで。十五歳で婚約したクインティー様がお可哀想で? それなら正妃として娶るけど、好いた男が出来たら手放せるように? 自分が側妃を持っておけばクインティー様も気にならないだろうとかナントカ?」


 あっ……キリルの背後が真っ黒……

 というか。

 今、物凄く聞いてはいけないことを聞いた気がする。

 恋も知らないクイン様がお可哀想とか、ナニそのお花畑思考……。というか、そりゃあ第二皇子のポルグウィウス殿下とクインティー様は十二歳差だけど。政略結婚なんてもっと昔は三十歳差の方の後妻とかもあったよね?

 他所の国だけど国王陛下が五十八歳で側妃として上がった小国の王女が十六歳だったってこともあったよ? もちろん完全な政略結婚で国王陛下はさすがに正妃との間に生まれた子よりも若い側妃を憐れんで、一度だけ夜を共にした後で陛下の子を孕っていないことを確認してから、側妃の意向を聞いて、臣下に下賜されたとかなんとか……。まぁだいぶ昔の話みたいだけど。


 政略結婚の年の差夫婦っていうと、必ず例に上がる方達だから、私みたいな一介の伯爵令嬢でも知ってる有名な話よね。

 つまりまぁ、政略結婚ってそういうものなんだけど。

 クイン様だって、そういう覚悟を持ってオキュワ帝国に来たわけでしょ? しかも、フレーティア王国は大国なのに割と早くから王族でも一夫一妻制を貫いていて、万が一国王陛下夫妻に子が出来ない場合は、その親戚筋から養子をもらうとか。そんな王家で育ったクイン様が。一夫多妻制若しくは一妻多夫制のオキュワ帝国に嫁ぐということは、きっとあれだけ明るく朗らかな方でも、思うことはあって葛藤されたはず。

 しかも、十五歳。それでもあの方はきちんと自分の立場と役割を理解してやって来たはずなのに、お相手のポルグウィウス殿下がそれじゃあ……クイン様の覚悟が……。

 そりゃあ、キリルは怒るわ。黒くなるわ。


「クイン様は怒らなかったの?」


「クインティー様は、皇族が一夫多妻若しくは一妻多夫ということをきちんとご理解されている。だから、側妃を持つこともそういうもの、と受け入れていらっしゃる」


 いやいやいや、物分かり良すぎですよ、クイン様! それ、怒っていいやつ!


「なんて、心の広い……」


 お父様が感激したように呟き、お母様がコクコクと頷いていらっしゃいます。お兄様とディールも「十五歳とはいえ、さすがは大国の王女殿下だ」 と二人で褒めて頷き合ってます。私もそうですね、と頷きそうになりましたが。

 キリルが微妙な顔になってました。

 なんですか? その表情。


「キリル?」


 一応、私に、話してくれているので私がキリルを促すと微妙な表情で一つ溜め息を吐くと続けました。


「いやぁ……うん、まぁ。確かに大国の王女で政略結婚は頭にある方だけど。別に本来ならこの話を断っても良かったんだよなぁ。実際国王陛下は断る気満々だったけど、クインティー様のお気持ちと、兄である王太子殿下の意向も確認して断るつもりだった。王太子殿下は本心は断って欲しかったと言ってたけど。オキュワにフレーティアの人間を置くことで意味があることを分かっていたからね。王太子殿下は承諾の意向を出した。クインティー様も、オキュワ帝国にフレーティア王国の王族が輿入れすることによる意味を知っていたから受け入れた。だからまぁ、大国の王族としての自覚はそう、なんだけど……」


 キリルの説明に、益々私も家族もクイン様の味方になっていたけど。えっ、何その不穏な歯切れの悪い言葉って。


「けど?」


「別にクインティー様、怒ってないわけじゃないよ?」


「ああなんだ、そういうこと。そりゃそうでしょ。私でも怒るわ」


 寧ろ十五歳で達観されたら王族怖い。

 私はクイン様が怒ったと聞いて安堵した。そんな歯切れの悪さに、何かあったと思ったじゃない。


「いやぁ……。アレは、正直なところビアンシェの怒り方が正しいと思っているんだけどねぇ」


 ビアンシェ様は、あの護衛の方で、本来なら彼女こそ第一王女だったという……クイン様のお姉様。あの遣り取りから察するに、ビアンシェ様は相当クイン様を可愛がっているわよね。という事は、怒ったんだろうなぁ……。気持ちは分かる。で? そのビアンシェ様の怒り方が正しいって怒りに正しいも正しくないもあるの?


「ビアンシェ様の怒りが正しいって?」


「いや。怒りは正しいのは前提。怒り方の問題」


「怒り方に正しいか正しくないかあるの?」


「ビアンシェは、そりゃあもう、殺気に塗れた視線で毎度ポルグウィウス殿下を見る度に、突き刺してるし。何だったらクインティー様がいいよって言った瞬間に殺してるんじゃないかなって思うくらい、毎回冷たい目で対応してる」


「殺すって」


「ポルグウィウス殿下って脳筋だから、腕っぷしは間違いなく強いだろうし、多分皇帝陛下くらいしか、あの方には勝てないと思うけど。ビアンシェは刺し違え覚悟で魔術駆使して息の根止めると思う〜」


 いや、ちょっと⁉︎

 何が思う〜、よ! 軽く言ってるけど、言ってること怖いよ⁉︎

 いや、確かに私も気持ちは分かるけども⁉︎

 というか、ビアンシェ様は魔術が使えるのね⁉︎ そういえば、魔術という力を扱える方が大陸のあちこちに居るとか聞いた気がするわ。

 ……思わず現実逃避しちゃったわ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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