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パーティー前夜と新たな婚約者・1

 皇帝陛下から労いの言葉をかけて頂く、という緊張を通り越して意識が吹っ飛びそうなレベルの出来事が有りましたが、一言述べただけで下がって良し、と下がって来た私達。その後、夢心地な気分で侍従長の方に迎賓館(やっぱり迎賓館でしたわ)までご案内を頂き、ようやく息をついた後。私達を歓迎します、とそれぞれに専属の侍女を付けて下さったようで、皇帝陛下から持て成すように言われました。と専属侍女の方々に頭を下げられた時には、何を言えば良いのか解らず、お父様が代表して「よろしく頼みます」 と当たり障りない返事をしていたのが印象的でした。


 軽めの食事をどうぞ、と準備してもらい。お風呂もどうぞ、と至れり尽くせりで入浴からの全身マッサージを受けた頃には、私含めて家族全員がベッドでスヤァと眠りの国に旅立っておりました。私は絶対悪くない。

 緊張と疲れから早くに眠りの国に旅立った私達ですが、翌朝は気持ち良く目覚めまして。窓を開けて外を見ていたら、侍女の一人が、エリジア様、レミーナ様、クリスティー様、ソフィー様達皆さまと共に朝食をどうぞ、と告げて下さいました。成る程、私達が気兼ねなく過ごせるように、とのご配慮のようで有難い限りです。

 で、朝食会場にご案内してもらい、軽やかに会話を交わしながら和やかに朝食を終えた後で、侍従長さんが再び現れて、二日間、自由に過ごして頂いた後、皇太女殿下がお会いしたい、と仰られたそうです。


 ヒィッ。


 皇帝陛下に謁見しただけでも生きた心地がしなかったのに、今度は皇太女殿下ですか⁉︎ 生きた心地しない、再びじゃないですか! 次も私達の心臓はきちんと動いてくれますでしょうか。なんてことは、言いたくても口には出来ないのが、属国の伯爵家の悲しいサガです。我が国の公爵家が頭を下げてそのお言葉を受け入れているのに、伯爵家程度が「嫌です」 なんて言えるわけが有りません。顔色が蒼白になっているのか、真っ白を通り越して土気色になっているのか、自分でも分からないですわね……と現実逃避しながら、侍従長さんのお話を有り難く聞いておりました。


 いえ、心境的には全然有り難くないですけどね⁉︎

 心臓に悪いことは遠慮したいですけどね⁉︎


 まぁ貴族社会は縦社会。上がイエスと言ったのなら、下の者がノーなんて言えるはずが有りません。粛々とした気持ちで皇太女殿下にお会いしましょう。きっと、エリジア様もといアブスール公爵家の皆さまが対応して下さるはずです。ええ、きっと。


 そんな風に思いながら、その日の午後に、私達バントレー伯爵家は、キリルからの先触れをもらって、久しぶりに会うことになりました。あのクインティー様付きの侍従にまで出世しているなんて、誰も思っていなかったんですけれどね。なんだかんだで優秀な再従兄弟なんですね、キリル。


「久しぶりですね、バントレーの皆様」


 キリルに会うのは本当に久しぶり。三年……いや、もっと? は会ってないかもしれない。会うのも互いの国が離れ過ぎてるから、何日も休みを調整出来ないキリルに合わせるので中間に位置する他国で数日会う程度。大抵は手紙の遣り取り。だから、なんていうのか少し前は少年っぽさが抜けてない感じだったのに、今では侍従らしい落ち着いた雰囲気に成長していた。ちょっぴりドキッとしたのは、まぁ私もお年頃なので。


「久しぶりね、キリル」


 お母様が笑顔を見せる。お父様たちとも挨拶を交わした後、キリルがニヤリと笑った。


「ルイーザ、見ない間にすっかりお転婆が鳴りを顰めてご令嬢らしくなったな」


「もう少しきちんとした褒め言葉を言いなさいよ」


 そうだった。キリルはこんなヤツだったわ。ちゃんと褒めてくれないのよね、いつも。ドキッとした私、気の迷いよ。


「でもまぁ本当に、綺麗になった。俺の婚約者程じゃないけど」


「婚約者? おめでとう! あ、そういえば手紙に書いてあったね!」


 手紙を思い出してお祝いする。ナーシュさんとのことで、あの出来る侍女さんか! と思うとキリルでいいの? とちょっとだけナーシュさんに問いかけたくなってしまった。女の子を褒められないキリルだよ? とは思うけど、まぁ婚約者程じゃない、と惚気られるんだから平気か。

 その後、私を含めたノルディーから来た皆の事情を把握しているキリルが、私を労りつつ、皆さまに対しても気遣いの言葉を口にして、成長を垣間見た。


「それにしても、キリルがクインティー第一王女殿下の侍従かぁ」


 しみじみ口にしたのはお兄様。


「カルディス、俺がクイン様の侍従であることが何か?」


 キリルがキョトンとした顔でお兄様を見る。いやだって、そうでしょう。私達が知ってるキリルはちょっと人見知りで泣き虫なんだもん。王女付きの侍従って凄い出世をするとは思えないじゃない。


「人見知りで泣き虫のキリルが……」


 お兄様が正しく私の気持ちを代弁する。キリルはちょっと苦笑してから、少し考えて真顔になった。何か、大事な話かしら。


「これは、バントレー家の皆が俺と親戚だから話しておくことだけど、他言無用にしてもらえるかな」


 なんて前置きで、既に不穏なんですけど⁉︎

 私達が顔を見合わせてから、お父様が重々しく頷くと、帝国が遣わせてくれた専属侍女を下げて、私達とキリルだけになってから、キリルが口を開いた。


「ビアンシェに、会ったかい?」


 その問いかけに全員で頷けば、彼は驚くべき事実を語った。


 フレーティア王国では男女の双子は禁忌の存在と言われていること。ビアンシェ様は、その禁忌の双子の片割れで本来なら彼女が第一王女殿下であること。つまり、クインティー様の実のお姉様であること。そして、さまざまな事情により、ビアンシェ様はご結婚されているけれど、クインティー様と共に帝国入りをしていること。


「でも多分。ビアンシェはフレーティアに帰国することになる。もちろん、夫となるテーランス公と結婚を継続しないで離婚になるはずなんだが」


「離婚⁉︎」


 私の婚約破棄よりも傷の深くなりそうな話に、私が思わず声を上げる。


「あー、ビアンシェは寧ろノリノリで離婚するから大丈夫。元々結婚は重視してないし。自分の生まれが複雑だし。おそらく、帰国すると自分の片割れ……双子の兄で第二王子殿下をどうにかする必要がある。詳しくは話せないが、帰国は確定。だから、バントレー家の皆はノーディーに帰国しても、ルイーザは帝国に残るんだろう? 帝国貴族と婚約するなら」


「そうね。そうなるわ」


「そうしたら、俺とナーシュだけがオキュワ帝国でのクイン様の味方では心許ない。ルイーザには、本当にクイン様の味方になって欲しいんだ。正直なところ、ビアンシェは離婚してオキュワ帝国に戻って来るつもりみたいだが。禁忌の双子の件は、フレーティアでも王族と一部しか知らないようなシークレットな話だから、おそらく帰国したら簡単にオキュワ帝国には戻って来られないと思う。多分、二度とクイン様には会えない、と俺自身は思ってる。だから、ルイーザにクイン様の味方になって欲しい」


「それは、もちろん」


 もちろん、オッケーなんだけど。ちょっとキリル! フレーティア王国の一部しか知らないトップシークレットをサラリと私達家族に教えないでよ! それ、うっかり口にしたら……


「ちなみに、キリル兄さん」


 ディールはキリルを兄のように慕っているので兄さん呼びをする。そのディールが恐る恐るキリルを見た。


「ん?」


「そのトップシークレットなお話は……うっかり口を滑らせたら」


「首と胴体が離れるだけじゃなくて一族諸共バントレー家が消滅するね」


 ディールの例えば……にキリルがさらっと悪魔のように笑って告げた。ちょっと! 口を滑らせた当人が斬首されるだけじゃなくて、家族どころか親戚一同もバントレー家の名前すら残さない、とか言ってますけど⁉︎ 消滅って言ったよね⁉︎ 処刑でも取り潰しでもなく、消滅って言った! それってバントレー家の存在そのものが無かったことにされるヤツ!!!


 ……初めてキリルがクインティー様付きの侍従だということの実感と恐ろしさを身に染みて理解しました。

 ーーそういう目に遭うような話を軽々しく私達に打ち明けないでよっ!


 死んでもクインティー様の味方でいることを、私は心から誓いました。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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